テロや大災害など、恐怖で国民が思考停止になっている最中に、為政者や巨大資本家がどさくさ紛れに過激な政策を推し進める……。その悪魔の手法を「ショック・ドクトリン」といい、日本でも3.11やコロナ禍の裏で、知らず知らず国民の情報や資産が奪われようとしています。
パンデミックで空前の利益を得る製薬企業や、マイナンバー普及に隠された政府の思惑など、強欲資本主義の正体を見抜き、私たちの生活を守るにはどうしたらいいのでしょうか?
国際ジャーナリスト 堤未果氏が警鐘を鳴らす、最新刊『堤未果のショック・ドクトリン』より、一部抜粋してお届けします。
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政府のやりたい放題を止める方法
まず、今動いている法律をチェックする
ショック・ドクトリンの特徴は、国民に考える暇を与えずに、社会を作り変えてしまうこと。政治家個人に焦点を当てたスキャンダル報道に目を奪われている間に、その裏で粛々と国会に提出される法案、こちらのほうに注目してください。
まずは岸田政権が今国会に提出した、マイナンバーに関するルール変更法案をおさらいしてみましょう。
(1)マイナンバーの利用範囲を災害、税金、社会保障の3つ以外にも拡大する。広げた分は今後別表に追加すれば可。追加利用する個人情報の種類も、国会を通さず省令だけで決めてOK
(2)年金給付口座などの情報をすでに行政が持っている場合、「登録拒否」と申し出ない限り自動的にその口座とマイナンバーを紐づけることに同意したとみなす
(3)2024年に紙の保険証は廃止
(4)乳児の顔写真は不要に
最初にマイナンバー法が導入された2013年、国会で警察、公安、自衛隊へのマイナンバー提供について聞かれたとき、中谷元防衛大臣はこう答えました。
「災害、税金、社会保障の3つ以外に提供することはありません」
今やそんな台詞は忘却の彼方でしょう。この法律が通ったら最後、いくらでも範囲を広げられるのですから。
ショック・ドクトリンに対抗する方法の一つは、他国のケースと比較してパターンを読み解くことです。
アメリカとロシア、2つの例を紹介しましょう。
9・11の後、ブッシュ政権が「落ちこぼれゼロ法」という法律をスピード導入しました。
「全国テストで学校同士を競わせ、成績の悪い生徒の個人情報を軍に提供させる」
これで、かなりの公立校が淘汰され、入隊率もアップする一石二鳥でしたが、多くの親や教師がこのカラクリに気づいたのはずっと後でした。貧しい落ちこぼれ組を狙い、入隊特典の健康保険やボーナスをちらつかせて自主的に入隊させるこの「経済徴兵制」は、国の強制にならないよう、個人情報を巧妙に利用した9・11ショック・ドクトリンだったからです。
もう一つの例は、ウクライナ戦争中のロシアです。反戦デモが拡大する中、紙の召集令状を受け取らずに逃げる国民が増えてきたので、プーチン大統領は法改正して「デジタル赤紙」を導入しました。これが公共サービスのマイページに送信された瞬間に「受領」とみなされ、即出国禁止です。よくある「メールに気づきませんでした」は通用しません。
もしも無視して徴兵事務所に出向かなければ、運転免許停止など、次々に社会生活を止められ追い詰められていくという、まさに「おそロシア」な世界。
アメリカとロシアのこの事例は、果たして日本の私たちにとって他人事でしょうか?
台湾有事が緊迫するこのタイミングで、政府がやたらにカード作成を急かし、利用拡大のスピード法改正。立ち止まってよく考えてみてください。
もはや9条改正も徴兵制も不要、マイナンバーがあればピンポイントで勧誘できるでしょう。スマホという、閉じられた仮想空間の中で。
実はちょうど同時期の2023年3月9日。全国8か所で行われていた「マイナンバー違憲訴訟」について、最高裁が仙台、名古屋、九州の3か所に「違憲じゃない」という判決を出したのを知っていますか?
争点だった憲法13条(プライバシー権)への回答は、「マイナンバー制度は税金、災害、社会保障の3分野に限定されているのでプライバシー権には引っかかりません」。
わかりますね? 裁判所が「3分野だけで使うなら」と言っているそばから、「利用範囲は省令で変えてOK」にルール変更するのは間違いなくアウトなのです。
マイナンバーカードを作りたくない人はどうすればいい?
「あのう……専門的なことはよくわからないけど、とりあえず焦ってマイナンバーカードを作るのは様子見したいんですが……」
私の事務所には、こんな問い合わせが少なくありません。
「マイナンバーカードは持ち歩きたくないけど、紙の保険証が2024年で廃止される。どうしよう!」と言う人もいます。
大丈夫、慌てることはありません。
今の保険証は2025年の秋までは使えるので、切れる前に発行先に連絡し、「資格確認書」(氏名、生年月日、被保険者等記号・番号、保険者情報が印刷された紙のカード)を申請してください。作るのは無料、期限は最長1年で、切れてもまた更新できます。ただし、今までの保険証のように郵送してくれないので、期限が切れる前に忘れずに更新手続きをしてください。
資格確認書は初診で18円、再診で6円の手数料が追加される以外は、暗証番号も顔写真も不要、今までの保険証と変わらず使えます。マイナ保険証を作らなければ、マイナンバーと医療情報を紐づけられることもありません。
また、マイナンバーカードをもう作ってしまったけれど、やっぱり様子見したいという人は、無料で簡単に返却できます。役所に行って返納手続きの申請書をもらい、名前、生年月日、住所、電話番号と、理由の欄に「使わないので自主返納」と書くだけ。身分証は不要、10分で完了します。いざというときには番号だけあればよいので、番号が記載された住民票をとっておけば十分でしょう。
政府のやりたい放題を止めるための十か条
(1)「デジタル化」「マイナンバーカードは国内パスポートに!」などと前のめりな政府に、最低限のルールを入れるよう意思表示する
(2)健康保険証の廃止を撤回させる(病院、介護施設、高齢者や障害者をはじめ多くの人が安心する)
(3)カードの取得率で自治体への交付税に格差をつけるのをやめる(住民と地方議会に判断させる)
(4)自分のマイナンバーに紐づいた情報に、いつ、誰が、何の目的でアクセスしたかの履歴を本人がいつでも見られる設定にする(エストニアでは開示請求すれば見られる)
(5)デジタルだけにするとセキュリティが弱くなり、取り残される人が出るので、強制せず、デジタルとアナログ両方の選択肢を残した設計にする(台湾を参考に)
(6)法律をすっ飛ばして省令だけの利用拡大はNG(憲法>条約>法律>政令>省令であり、明らかに飛ばしすぎ)
(7)メリットだけでなくリスクも含めて情報公開し、国民的議論の場を作る。担当大臣が国民の懸念や反対意見をブロックするのは禁止(台湾のオードリー・タン大臣を参考に)
(8)利便性の前に、漏洩、なりすましなど国内外で多発している問題の検証と対策を最優先する。デジタル庁が責任を取らない状態で義務化はしない
(9)日本は高齢化社会なので、デジタル化は高齢者に合わせて設計する(複雑にしない)
(10)市区町村から送られてくる特別徴収税額通知書にマイナンバーを載せないよう、役所や地方議員に要望を出す。自分もホイホイ提供しない(提供は義務ではない。税金も保険も未記入でも受理してくれる)
思い出してください。デジタル時代の基本は「リスク分散」、世界の流れは「脱個人番号」に向かっていることを。
マイナポータルにどんどん個人情報を集めてしまって、何かあっても大臣にはブロックされ、デジタル庁は責任をとってくれません。
子どもたちに教えてあげることはこうです。
「個人データは最大資産。リスクは極力分散し、安心できるルールができるまでは自己責任で死守せよ」と。
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続きは本書『堤未果のショック・ドクトリン』をお楽しみください。
堤未果のショック・ドクトリン
テロや大災害など国民が恐怖で思考停止しているどさくさくに紛れ、為政者や巨大資本が過激な政策を押しとおす悪魔の手法がショック・ドクトリン。日本でもコロナ禍や震災などの惨事の裏で、知らない間に国民の情報や資産が奪われようとしている――。
パンデミックで空前の利益を得る製薬企業の手口やマイナンバーの裏にある政府の思惑など。強欲資本主義の正体を見抜き、私たちの生命・財産を守る方法とは?
滅びゆく日本の実態を看破する一冊より、読みどころを抜粋してお届けします。