巨大地震発生。地下に一人取り残されたのは、目が見えず、耳も聞こえない女性だった――。
6月21日発売、井上真偽さん3年ぶりの新刊『アリアドネの声』が発売翌日に重版決定! 極限状態に置かれた盲ろうの女性を、ドローン一台で救出するという超難関ミッションを描く、長編ミステリ―です。大反響の本作の魅力を書店員さん×幻冬舎で語り合いました。(第二回)
参加者一覧
・宇田川拓也さん ときわ書房本店
・小泉真規子さん 紀伊國屋書店梅田本店
・本間菜月さん 三省堂書店名古屋本店
・三島政幸さん 啓文社ゆめタウン呉店(業務のため途中参加)
・太田和美 幻冬舎営業
・武田勇美 幻冬舎担当編集
必ず胸が熱くなるラスト
太田 宇田川さん、さっきこの本の三つのポイントってお話ししてくれたと思うんですけど、その中の「胸熱」ってところが気になりました。「胸熱」。この一行には泣いたってところはありますか?
宇田川 二つあります。一つは夢のシーンで「ごめんよ、助けられなくてごめんよ」と(主人公の)ハルオが兄に謝るところ。あそこは泣きますね。あとはやっぱりラストの真相がわかったあとに発せられる「あー」ですね。この二つは絶対目頭が熱くなる。
太田 主人公のハルオは、幼い頃に目の前で兄を事故で亡くして贖罪の気持ちがあるんですよね。自分のせいで兄が死んでしまったと思い込んでいる。
宇田川 あとは、タイトルの意味ってところも良いですね。地下に取り残された盲ろうの中川さんの救助に向かうドローンの名前が、「アリアドネ」。だから、きっとタイトルもドローンにかかっているのかと思っていたら、実は違った。『アリアドネの声』が一体誰の声だったのかってのが、最後にわかる仕掛けになっている。さすが井上さんだなと。
太田 なるほど、なるほど。本間さん、タイトルを初めて聞いた時ってどうでした?
本間 素敵だなと思いました。あとは、地下に取り残された中川さんの目と耳が不自由なので、音の他に光って部分も何か仕掛けがあるんだろうなってイメージして読み始めました。本当に思ってもみないところから光が来たなって感じです。
太田 そっか、そっか。「声」ってタイトルだけど、音の他に「光」も重要なキーワードですよね。
本間 「アリアドネ」っていう単語に、物語が全部集約されていることが最後にわかる。しかもそれにプラスして、ちゃんとラストは別の驚きもある。私は「大どんでん返し」っていう言葉が凄く好きなんですけど、でもやっぱりある程度は読者にフェアな事をきちんと事前に与えてくれてるような小説の方が好きです。『アリアドネの声』にも、やっぱり作中に違和感がたくさんあって、その違和感がある方向に誘導される。そっちに引っ張られて、本当の真意は全くきれいに隠されていて、最後に明かされる。まさに大どんでん返しで、井上さんは天才だな、と思いながら面白く読ませていただきました。
執筆のためにドローンの資格を取得
太田 ありがとうございます。小泉さんは驚きという点ではどうでしたか?
小泉 全て明かされるのが、残り数ページじゃないですか。だけど、全ての伏線が残り数ページでうまく回収されているのが凄いなって。もっと説明が必要なんじゃ……と思ったけど、いや全部わかったわっていう。これまでの違和感が、数ページで全部納得いってしまうっていうのが、真偽さんすごいなって。
太田『アリアドネの声』にキャッチフレーズをくれるとしたら、どうですか?
小泉 難しいですね。なんでしょう。「比喩じゃなくてページをめくる手がとまらない」ってのかな。ほんまに手に汗握る作品でした。
太田 ありがとうございます。宇田川さんは、改めてキャッチフレーズはいかがでしょうか。
宇田川 井上真偽さんはミステリー作家という枠に収まらない、令和のストーリーテラーだと思っています。なので(キャッチフレーズは)「ストーリーテラー井上真偽の、さらなる洗練と熱き驚き!」というのはどうでしょうか? 300ページという枚数で、ビシッと引き締まってるのも良いですし、大きな驚きによってドラマの輝きが一段と増すのも素晴らしいです。まさに真偽さんのストーリーテラーとしての凄さが発揮された、新たな代表作といえる一冊です。
太田 本格の中には滅茶苦茶長いものもある中で、このページ数はどうですかね。
小泉 適度な量じゃないですか。分厚い本でもページをめくる手が止まらない作品って、もちろんありますけど、やっぱりあまりにも厚いとハードルってあると思うんですよね。そうしたら本当に好きな人しか買わないかもしれない。これくらいのページ数なら、これまで真偽さんを知らなかった人にも届けやすい。さっき宇田川さんや本間さんも言ってましたけど、一般文芸が好きな方にも普段ミステリ―を読まない人にも、声を掛けやすいんじゃないかなと思います。
武田 長さについては、もうちょっとこのキャラクターを掘り下げてもいいんじゃないか、とか色々話もしました。でも救助という題材を扱っていて、一刻を争うような事態が描かれているので、救助活動の疾走感を出したいから、なるべく無駄は省きたいよねって真偽さんも言っていて。なので、すらすら読めると言ってもらえるのはありがたいです。
太田 ちなみにこの作品って西暦何年くらいが舞台なの?
武田 一応数年後ってことにはなっています。例えば物語のキーアイテムになるドローンの描写は監修を受けています。実際に真偽さんはドローンスクールに通って資格を取ってくれたんですけど、そのドローンの先生から色々とお話を聞きました。近未来で実現が不可能なものないという話はもらっているので、現実から離れた世界というわけでもないです。
太田 井上さんってドローンの資格取ったの?
武田 そうですね。わざわざ取ってくれました。本人は「お情けで試験に合格させてもらえた」みたいなこと言ってましたけど、でもこの作品を書くために頑張ってくれました。
太田 今日参加していただいてる書店員さんの中で、井上さんに会ったことある人はいますか?
宇田川 お目に掛かったことあります。以前、ご来店くださいまして。
太田 ということは年齢も性別も不詳で活動しているけど、正体はみんなわかってるんだよね?
一同(笑い)
太田 そういえば、井上さんは9月にも新刊が出るんだよね。
武田 はい。特殊というか、新しい試みの本って聞いてます。同じ事件を二冊で別の視点で追う『ぎんなみ商店街の事件簿』ってタイトルです。
(第三回に続く)