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買い負ける日本

2023.08.09 公開 ポスト

「世界と商売するため」港に集中投資をする“韓国・中国”の本気坂口孝則

かつては水産物の争奪戦で中国に敗れ問題になった「買い負け」。しかしいまや、半導体、LNG(液化天然ガス)、牛肉、人材といったあらゆる分野で日本の買い負けが顕著です。7月26日発売の幻冬舎新書『買い負ける日本』は、調達のスペシャリスト、坂口孝則さんが目撃した絶望的なモノ不足の現場と買い負けに至る構造的原因を分析。本書の一部を抜粋してお届けします。

日本に寄る魅力がなくなった

日本は製造コストの安さを極限まで追求し、新興国の奥へ奥へと進み製造拠点を海外に移管してきた。俗に言う空洞化だ。私はかつて日本の有名製造業で勤務していた。そのときサプライチェーン担当役員は「日本に寄与するためには空洞化の徹底が必要だ」と述べており衝撃を受けた。日本は頭脳で勝負する。生産は海外。

15年ほど前「マザー工場」なる言葉が喧伝された。生産が減っていく日本では生産品質の技を磨く。そのノウハウを海外の工場拠点に伝えていく役割を果たす。まるで母親が子供に人生で大切なことを教育するように。

しかし輸出は減少、あるいは横ばいが続き、製品・商品の物量が伸びないなか、国際物流のなかで日本が地位を低下させるのは当然だった。そして国際物流の低下がさらに日本の地位を低下させたのは皮肉としかいいようがない。

(写真:iStock.com/DINphotogallery)

いっぽうでコンテナ船運行で有名な台湾の会社は2021年末のボーナスが40か月になったと発表した。モノを作る、ではなく、運ぶのはそれだけの収益と利益を稼げると証明した。

国際物流をサポートし企業へ物流サービスも提供するコンサルタントに、日本〝負け〟の状況について聞いてみた。氏自身かつて物流会社に勤め、海外勤務を通じ国際物流の厳しさを現場で知っている。

「簡単にいうと、日本の魅力がなくなったことに尽きます。船舶の企業は、儲かれば日本を素通りすることはありません。当然ですよね。それ以外に理由はないですよね。

日本からはお金がもらえる貨物がどんどん減っているので、どうしても後回しにせざるをえません。つまり儲からないんですよね。積載率も満載にならない。しかも少子高齢化でしょう。人口も伸びていない。残念ながら経営側としては日本を重要視しないのが合理的です。

シンプルに考えると、ずっと安い商品しか買わない日本という国があって、さらに物量も少ない。でも時間はかかる。そりゃ、そういう国は選ばないでしょう。

日本の凋落としてよく取り上げられるのは大きな港が大半です。しかし東京や横浜など、大きな港は国際コンテナ戦略港湾といって国が力を入れているところなんですね。これらに選択と集中で取り扱いコンテナ数を増加させようとしてきました。

一方で地方港などは無視されがちです。大きな港以上に地方港では取扱量が減少しているところが少なくありません。だから日本全体では想像以上に世界的地位を落としていると言えます。

ビジネスというゲームを、モノを〝運ぶ人たち〟が左右しています。作っても運べなければ売れないから。モノを作っているユーザー側としたら不便なことばかり。だから日本の荷主たちは苛立っていると思う。

日本の港の凋落をきっかけとして、韓国の港がすごく伸びている。これを危機と感じる日本人があまりに少ない。これこそ、ほんとうの危機ですね」

まっとうな指摘だと思う。

日本がずっと経済成長を続けて諸外国が売りたいと思ってくれる国だったらいい。でも、現実的には人口構成から右肩下がりと予想される。量は縮小していく。しかも長く続いたデフレで諸外国と物価差は開く。日本は諸外国に比べて高い商品を買うわけではない。

日本の海外輸入改善への課題

では、日本が改善するためにどのような課題があるのだろうか。

「日本はとにかく遅い。たとえば米国ではすぐにバイデン大統領が自国の特定港に操業時間の延長や夜間搬出を依頼しています。また政府としてインフラ改善のためのアクションプランを発表したり、多額のインフラ投資(170億ドル≒2兆2100億円)を成立させたりしています。

くわえて、物流情報の共有のためのプラットフォーム構築をただちに発表しているんですね。きっとサプライチェーンが国力に重要だと考えているためでしょう。でも、日本の行政はそれくらいの切迫感をもってサプライチェーンを改善していますか。

また、たとえば日本の国民同士が『日本には船が寄港してくれていない。これはやばい』といった会話をしていますかね? 誰も興味がない。船が日本の港に来てくれなくなったなんて、日本人のほとんどは知らないのでは。日本は貿易ができないと、ほぼ生活が成り立たないんですけどね

なお公平に追記すれば、日本が何もやっていないわけではない。寄港を増やすための施策として税金を安くしている。これは〝とん税〟〝特別とん税〟と呼ぶ。大型のコンテナ船が入出港するとする。為替の状況によっても異なるが国土交通省の報告によると、横浜港530万円、釜山港390万円、上海港310万円だった。また船舶が大型化するほど、この入出港するコストはより拡大していく。

そこで2020年より、この〝とん税〟〝特別とん税〟の一時納付額を下げている。その下げ幅は旧来の半分にいたる(なお入港のたびに納付する都度納付額は変更なし)。しかし、それでもなお説明した通り、2020年以降に寄港数が減っているため根の深さを感じさせる。

くわえて、日本は省庁が関係団体にコンテナの効率的な利用や輸送スペースの確保等について協力要請文書を発出したり、情報交換会を開催したりしている。しかし米国ほど国のトップが大々的に動いてはいない。

また「情報交換はいいから、どこかの船舶会社にプレッシャーをかけるのが先ではないか」という声が聞かれた。輸送が困難なときに代表各社からヒアリングを募っても、“大変だ”という声が集まるのは開催前から自明だろう。

島国である日本は輸出入貨物の約99%を海上輸送に頼っているのが現状だ。国際比較するまでもなく、相当な金額を港や海上輸送の改善に費やしていい。20年前ならコンテナ船は7000個積載が最大規模だった。しかし現在では2万3000個以上を積めるものが就航している。ただ日本では横浜港くらいしか受け入れられない。

他国、たとえば韓国や中国は世界と商売をするために港に集中的な投資をしている。かつての日本の輝きはくすんでいる。日本の土木工事の技術は優れていると誰もがいう。海外にもその優位性を喧伝している。しかし、自国に活かせているか。

たとえば大型コンテナ船の基準で水深16メートルという目安がある。つまりそれだけの深さを必要とする大型船だ。その大きさの船が日本にどれだけ入港できるか。その深さのコンテナターミナル岸壁について人口あたりで比較すれば、シンガポールやマレーシアのほうが優位だ。

世界中が効率と利益を求めているのに対応できる港が数少ない。繰り返すが日本はほとんどを海上輸送に頼っているにもかかわらず。

私は某氏の「日本に寄与するためには空洞化の徹底が必要だ」なる発言を引用した。たしかに日本が経済的に最強の地位を確保していたら良かっただろう。ただ現実的には、日本から何かを出して、何かを受け入れる、という当然の継続が必要だったのかもしれない。

それでも当事者以外の国民も行政もさほど意識がない。さらに日本は「寄ってもらえない」国になっていく。

関連書籍

坂口孝則『買い負ける日本』

かつては水産物の争奪戦で中国に敗れ問題になった「買い負け」。しかしいまや、半導体、LNG(液化天然ガス)、牛肉、人材といったあらゆる分野で日本の買い負けが顕著になっている。日本企業は、買価が安く、購買量が少なく、スピードも遅いのに、過剰に高品質を要求するのが原因。過去の成功体験を引きずるうちに、日本企業は客にするメリットのない存在になったのだ。調達のスペシャリストが目撃した絶望的なモノ不足と現場の悲鳴。生々しい事例とともに、機能不全に陥った日本企業の惨状を暴く。

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買い負ける日本

2023年7月26日発売『買い負ける日本』について

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坂口孝則

1978年生まれ。調達・購買コンサルタント、未来調達研究所株式会社所属、講演家。大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買に従業。現在は、製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書に『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体』『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』『稼ぐ人は思い込みを捨てる。』(小社刊)、『製造業の現場バイヤーが教える調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。

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