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キリスト教の100聖人

2024.06.25 公開 ポスト

マグダラのマリア 『ダ・ヴィンチ・コード』にも登場した「罪の女」島田裕巳(作家、宗教学者)

キリスト教の「聖人」たちを8つのパートに分けて列伝化した幻冬舎新書『キリスト教の100聖人』。歴史だけでなく教義や宗派の秘密まで教えてくれるこの画期的な一冊から、一部を抜粋してお届けします。

マグダラのマリア 自らの罪深さを自覚し、信仰を得たキリスト教信者のモデル

イエスとかかわりのある女性としてもっとも著名で、さまざまな形で注目されてきたのがマグダラのマリアである。イエスが活動したのは、現在のイスラエル北部にあるガリラヤ湖周辺であるわけだが、マグダラはその北西岸にある街の名である。

イエスは、数々の奇跡を行ったとされ、奇跡の事例の一つがあくりようを追い出すことである。「ルカ」では、イエスが女性たちから悪霊を追い出したとされ、マグダラのマリアもその一人である。そうした女たちは、イエスと12人の使徒たちが各地をまわって宣教して歩くのについてまわったとされる。

マドレーヌ寺院のマグダラのマリア像(パリ8区)

マグダラのマリアがとくに重要な女性とされるのは、イエスが十字架にかけられて殺されるのを見守り、墓に埋葬されるのを目撃したからである。「ヨハネ」においては、3日目に墓からよみがえったイエスは彼女の前に現れたとされる。マリアにむかってイエスは、「私にすがりつくのはよしなさい」と言い、自分の兄弟たちのところへ行って、これから自分は神のいる方へのぼると伝えよと命じる。

また、ユダヤ教の主流派であるファリサイ派の人間に求められてイエスが食事をともにしていたときにこうの入ったせつこうつぼを持って現れ、イエスの足にせつぷんして香油を塗った「罪の女」はマグダラのマリアであるという伝承がある。彼女はイエスと出会うことで、自らの罪深さを自覚し、信仰を得たということで、あるべきキリスト教信者のモデルともなっている。

 

女性の罪深さを強調するのは、古代の社会に広く見られたことで、仏教の世界でも女性はそのままではじようぶつできないという見方があった。それは現代では問題視される事柄でもあるが、『黄金伝説』になると、マグダラのマリアは富とぼうの持ち主で、快楽に溺れていたのをイエスに出会うことで悔い改めたと語られ、その面がいっそう強調されている。

こうした女性として伝えられているために、マグダラのマリアはキリスト教美術の格好のテーマとして多くの絵画に描かれてきた。さらに現代になると、彼女をイエスの恋人、あるいは妻として扱った物語も作られるようになり、その代表が『ダ・ヴィンチ・コード』(ダン・ブラウン著、越前敏弥訳、角川文庫)だが、彼女とイエスの関係の深さが、そうした創作を生み出したものと考えられる。

*   *   *

続きは幻冬舎新書『キリスト教の100聖人 人名でわかる歴史と教え』でお楽しみください。

関連書籍

島田裕巳『キリスト教の100聖人 人名でわかる歴史と教え』

宗教では聖人と呼ばれ崇められる人物がいる。キリスト教の信仰世界では、〈神と神の子イエス〉はその絶対性ゆえに一般の信者からは遠い存在であるため、両者の間で、信者の悩みや問題を解決する存在として聖者が浮上する。本書では、聖者たちを、イエスの家族と関係者、12人の弟子、福音書の作者、殉教者、布教や拡大に尽力した者、有力な神学者や修道士、宗教改革者など8つのパートに分けて列伝化した。数多の聞き覚えのある名前を手がかりに、歴史だけでなく教義や宗派の秘密まで教えてくれる画期的な一冊。

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キリスト教の100聖人

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島田裕巳 作家、宗教学者

1953年東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著作に『日本の10大新宗教』『平成宗教20年史』『葬式は、要らない』『戒名は、自分で決める』『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』『靖国神社』『八紘一宇』『もう親を捨てるしかない』『葬式格差』『二十二社』(すべて幻冬舎新書)、『世界はこのままイスラーム化するのか』(中田考氏との共著、幻冬舎新書)等がある。

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