1. Home
  2. 暮らし術
  3. 純喫茶図解
  4. 上野【ギャラン】- 昭和にタイムスリップ...

純喫茶図解

2023.11.16 公開 / 2025.04.25 更新 ポスト

上野【ギャラン】- 昭和にタイムスリップした気分になれる豪華絢爛な空間塩谷歩波

約1年間連載した『純喫茶図解』が書籍となり、好評発売中です。発売を記念して、一部記事を再掲載いたします。書籍化にあたっては描き下ろし5店舗に加え、columnも充実。塩谷歩波さんの緻密で美しい絵を、ぜひ紙でもお楽しみください。

朝の上野駅は、11路線が走る東京のターミナルと思えないほど静かだ。夜に来れば酔いそうなほど人がいるアメ横もすっかり鳴りを潜めている。一日の始まりというよりは、終わりに近いその街を歩いていくと、雑居ビルの一階にある煌びやかな電飾で彩られたレンガ造りの階段が目に止まる。階段の隣にはパフェやオムライスなど食品サンプルが並ぶショーウインドウがあり、見ているだけでよだれがじんわり溢れ出る。電飾が輝く”Coffee Shop ギャラン”の文字に誘われるように、その階段を登った。

 

階段先にあるユニークな円形型のドアを開くと、豪華絢爛な空間が広がっていた。レンガの壁に花柄の茶色いタイルの床、リング型のシャンデリア、深い臙脂(えんじ)色のソファ。そしてBGMは80~90年代の懐メロPOP。あれ、今は昭和何年だったかな。とても令和とは思えない昭和そのままの異空間に懐かしさとワクワクした気持ちを感じてしまう。

Coffee Shopギャランは1977年に開店した純喫茶だ。初代経営者から受け継ぎ、今は2代目オーナーが経営している。建物はほぼ開店当時のままだが、元々は噴水もあったそうだ。このバブルをも感じさせる雰囲気にぴったりな「ギャラン」の店名は初代オーナーの愛車「三菱ギャラン」にちなんでいる。

通りに面した窓側の席に腰掛けて、店内をぐるりと見渡してみる。スマホに夢中な若者、新聞と睨めっこしているサラリーマン、旅行中らしく大きなスーツケースを傍にトーストを頬張る家族連れ。年齢も服装も職業も異なる人たちが、思い思いの時を過ごしている。半分の席が埋まっていたが、穏やかでどこかまったりとした雰囲気が流れていた。

「お待たせしました」頼んでいたトーストがやってきた。白いお皿の上に5cm以上のぶ厚いトースト、バターとジャム、ブルーベリーソースがかかったヨーグルト、コールスローが乗っている。

朝から元気をもらえること間違いなしのボリューム感だ。トーストの厚さに圧倒されながらも端から口にしてみると、サクッとした食感の後に小麦の旨みが広がる。あっさりとしてシンプルな味わい。だからこそコクのあるコールスローとの相性も抜群で、ジャムやバターをつければ味が変わり、パクパク食べられてしまう。食べ切れるか不安だったけれど、気づけばペロリと平らげていた。

ふくふくになったお腹をさすりながら窓から通りを眺めてみる。既に時刻は9時に差し掛かっているが、道ゆく人は少なくシャッターは閉まったままで上野の一日はまだ始まっていない。その一方で私の寝ぼけた頭は、のんびりした空気に癒され、ボリュームたっぷりの朝ごはんをチャージして霧が晴れたようにスッキリしている。さて、今日は何の絵を描こうかな。まだ眠りについている街を遡り、軽い足取りで駅に向かった。

関連書籍

塩谷歩波『純喫茶図解』

『銭湯図解』で話題の画家・塩谷歩波が建築の図法で描く、唯一無二の空間。 都内近郊の“純喫茶図解”18軒をオールカラーで収録!眺めて、読んで楽しいイラストエッセイ集 アンティークの調度品にシェードランプの薄明り、個性あふれる床タイル、妖しく微笑むトーテムポール……。都心には、建築やインテリア、メニューの隅々にまで店主のこだわりが詰まった魅力あふれる純喫茶がひしめき合っています。 そんな純喫茶の魅力を、画家・塩谷歩波さんが建築の図法で描き、実際に足を運んで食べたメニューや店主へのインタビューなど、イラストと写真、文章でお届けします。著者の緻密で温かい絵に思いを巡らせながら、純喫茶に足を運んでみませんか? 第1章 ノスタルジックな純喫茶 西荻窪 それいゆ/蔵前 らい/渋谷 茶亭羽當/神保町 ラドリオ/津田沼 珈琲屋からす/高円寺 珈琲亭七つ森 第2章 豪華絢爛な純喫茶 上野 Coffee Shopギャラン/銀座 トリコロール 本店/上野 喫茶 古城 第3章 音を楽しむ純喫茶 渋谷 名曲喫茶ライオン/阿佐ヶ谷 ヴィオロン/吉祥寺 バロック/新宿 らんぶる 第4章 ひとクセ光る純喫茶 神保町 さぼうる/阿佐ヶ谷 gion/吉祥寺 くぐつ草/御茶ノ水 穂高/都立家政 Coffee&Lunch つるや

{ この記事をシェアする }

純喫茶図解

深紅のソファに煌めくシャンデリア、シェードランプから零れる柔らかな光……。コーヒー1杯およそワンコインで、都会の喧騒を忘れられる純喫茶。好きな本を片手にほっと一息つく瞬間は、なんでもない日常を特別なものにしてくれます。

都心には、建築やインテリア、メニューの隅々にまで店主のこだわりが詰まった魅力あふれる純喫茶がひしめき合っています。

そんな純喫茶の魅力を、『銭湯図解』でおなじみの画家、塩谷歩波さんが建築の図法で描くこの連載。実際に足を運んで食べたメニューや店主へのインタビューなど、写真と共にお届けします。塩谷さんの緻密で温かい絵に思いを巡らせながら、純喫茶に足を運んでみませんか?

バックナンバー

塩谷歩波

1990年、東京都生まれ。2015年、早稲田大学大学院(建築専攻)修了。設計事務所、高円寺の銭湯・小杉湯を経て、画家として活動。

建築図法”アイソメトリック”と透明水彩で銭湯を表現した「銭湯図解」シリーズをSNSで発表、それをまとめた書籍を中央公論新社より発刊。

レストラン、ギャラリー、茶室など、銭湯にとどまらず幅広い建物の図解を制作。

TBS「情熱大陸」、NHK「人生デザイン U-29」数多くのメディアに取り上げられている。

2022年には半生をモデルとしたドラマ「湯あがりスケッチ」が放送された。

著書は「銭湯図解」「湯あがりみたいに、ホッとして」

好きなお風呂の温度は43度。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP