2019年にモバイルキャリア事業に参入した楽天グループ。足元の業績とは別に、東大生の民間企業就職先ランキングで3年連続1位(東大新聞調)となるなど、多くの優秀な若手が同社に集まる挑戦の場としての顔を持っている。毎週月曜日に楽天本社で開かれる「朝会」。そこでは、トップの三木谷浩史氏自ら、自身が練り上げたビジネスの要諦を社員に語りかける。三木谷氏の最新刊『成功の法則100ヶ条』では、朝会で三木谷氏が語った内容を体系化。日本を代表する起業家・実業家が練り上げた、哲学の一部を紹介する。
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ブレイクスルーには「鈍感力」が必要
日々、僕たちが物事に取り組むとき、意識しておかなければならないことがある。それは外から見えている道と、自分が見ている道は必ずしも一致しないということだ。
とりわけ世の中を変えるようなブレイクスルーを生み出す際は、他人から見れば「不可能」と思える道を、自分だけが見定めていなければならない。周囲の貴重な意見を参考にしながら、最後には自分の信じた道を周囲の声など気にせず、猛然と前へと進む「鈍感力」が必要なのだ。
そうした姿勢を培う上で意識すべきなのが、本書にも記した通り、「概念を相対化する」という力である。
世界は相反する価値観が表裏一体となって作られている。
強いリーダーシップと独裁政治、資本主義と共産主義、右派と左派……。物事は複雑になり過ぎるとシンプルさが求められ、逆にシンプルであり過ぎるときは複雑さの方に目を向ける必要が出てくる。
24年間で日米の格差は拡大
表裏一体の考え方のバランスの中で、常に振り子のように揺れ動いていくのがビジネスというものだ。そして、その振り子の「振れ幅」の大きさを強みとしてきたのが、力強い経済成長を続けるアメリカだった。
一方で日本はどうだろうか。
1999年から2023年までにアメリカの経済は5倍に成長した。その間に日本は1・3倍。
24年間でそれだけの差がついたわけだ。
これは誰の責任なのか。
日本の衰退の本質的な原因には、アメリカのように「振れ幅」を許容しない「減点法」がまかり通っている社会がある、と僕は思っている。
今、人口減少と高齢化が進む日本では、優秀な人材が海外に流出し、産業の相対価値が下がり続けている。調和を重んじる社会は日本の良さでもあるが、調和型社会にはリスクやイノベーションを嫌うという決定的な弱みがある。日本人には変わることを嫌う性質があり、新型コロナウイルス感染症の流行のような大きな出来事がない限り、「現状維持」を続けようとしてしまう。
現状維持や減点法の中で何もしないことが評価されてしまう状況に、日本はがんじがらめにされてしまっているのではないだろうか。中庸的で単一的な考え方が良しとされることが、日本の最大の弱みなのだ。そして、今後もそのような現状維持を続けるようであれば、日本は「失われた30年」をさらに長く続けてしまうに違いない。
挑戦に寛容で失敗を許容する雰囲気の醸成が必要
経済を大きく成長させるイノベーションを起こすためには、未来を作り出そうとする挑戦に対して寛容で、失敗を許容する社会の雰囲気の醸成が不可欠だ。ビジネスにとって失敗は糧であり、それが花開いた際の伸びしろの大きさにこそ目を向けなければならない。
日本では政治家や官僚が常に既得権益を守ろうとし、バランスを取ろうとするばかりだ。
だから、産業やビジネスを通して世の中を変えていこう、というリーダーも生まれにくい。
日本はアメリカがそうであるように、「振れ幅」を持つ国にならなければならない。
世の中に絶対的に正しいというものはない。ひとつの考え方には逆の考え方が常にあり、それらもまた、時代の流れによって揺れていく。
ビジネス、政治、イノベーション……すべてがそうだ。
そして、世の中を大きく変革するイノベーションは、その揺れが激しければ激しいほど生まれやすいものなのだ。
自分の中に「振れ幅」を持て
その意味で、本書は自分の中に「振れ幅」を持ち、存分に揺れるためのテキストでもある、と言える。
ビジネスにおいて伸び悩んでいるとき、自分の歩いてきた道の「正しさ」を確認したいとき……。この本に詰まったエッセンスに触れることによって、様々なインスピレーションを得ることができると思う。
繰り返すが、今、世界では通貨や物の移動が目に見えるリアルな経済から、あらゆる情報、コンテンツが劇的に進化するバーチャルな経済への移行、という地殻変動が起きている。
その地殻変動に対応するためには、どんな考え方が必要なのか。『成功の法則100ヶ条』に詰められたエッセンスを活用することで、未来を作り出す力をぜひ鍛えて欲しい。
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