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毎日がみるみる輝く!神様とあそぶ12カ月

2024.08.10 公開 ポスト

【八月】にっぽんの夏を「納涼」でたのしむ幸せ その3

毎日きれいな字を書くようにしていると、生活もきれいになって、顔もきれいになる!桃虚(神職/ライター)

現役の神職・桃虚が指南する、神様とのお付き合い。たまには、スマホを横に置いて、「文字」を書いてみませんか?

*   *   *​​​​​​

時をかけるご朱印帳。
文字から開く運もある!?

ここ十年で、神社やお寺で「ご朱印」をもらうということが、ずいぶんポピュラーになりました。神社にいて、ご朱印を押す側、書く側の者としては、夏季休暇やお盆やすみのある八月は、遠くからご朱印をもらいにくる方が多くなる月です。風のようにやってくる方々と、ほんのすこしのやりとりがある。その軽やかな滋味が、夏の暑さを忘れさせてくれます。

 

たまに「紙の書き置きをください」、と言われることもありますが、個人的には、参拝者が持参されたご朱印帳に朱印を押して、日付を筆で書き入れるほうが好きです。なぜなら、その人のご朱印帳の表紙や、集めてきた各地のご朱印をきっかけにお話ができるからです。

ある夏、私はお盆やすみに子どもたちを連れて東京の実家へ帰り、埼玉に住んでいる友達と吉見町というところへ川釣りに出かけました。川釣りといっても、めちゃくちゃローカルな普通の農道わきに流れている農業用水路で魚を釣る、という遊びで、我々のほかには誰もいません。釣りの達人である友達がうまく誘導してくれたので、食パンを丸めたエサでカワムツという魚が釣れました。当時小学四年生だった双子と私は、のどかな、なんでもない、なんにもない普通の自然を満喫して、大阪に帰ってきたのです。

その翌日、「あー、めっちゃ尊いお盆やすみの過ごし方したなー」と余韻に浸りながら、大阪の神社の社務所におりますと、私と同世代ぐらいの母子がご朱印をもらいにやってきました。その方のご朱印帳を開き、印を押そうとしますと、となりのページのご朱印が、前日に私たちが釣りをした用水路の近くの氏神さんだったのです。

私が「きのう、この神社の近くで釣りしてました!」とその方に言いますと、その方は、
「え。埼玉ですよ!? うちの近くですけど、なんでまたあんなところで!?」とびっくりされていました。
私が、埼玉の友達の案内で行った旨をお伝えすると、
「私は実家がこの近くなんです。娘がご朱印集めを始めて、まず自宅の近くの氏神さんでご朱印をもらいましてね、きのう大阪に帰省したので今日こちらにご朱印をいただきにきたんです」
とおっしゃいます。どちらも僻地というほどではないけれど、観光スポットではない、知る人ぞ知る場所に、同じタイミングで行き来していたという事実に、互いにびっくりして、うれしくなりました。ご朱印を介さなければ、互いに知りえなかったことなので、神の采配を感じてしまいます。

こういったささやかな一期一会は、ものを買ったり、所有したりするということでは得られない滋養を与えてくれますよね。

御朱印帳に、同級生の文字が!

また、ある夏はこんなことがありました。

「すみません、ご朱印いただけますか」

そう言われて受け取ったご朱印帳に日付を書こうとしたら、となりのページに見覚えのある字があったのです。

大きさの揃い方、字間の均等さ、文字そのものの均整のとれ方。これ活字なの? なんなの? というほどのきっちりかっちり感。あきらかに友人神職Tの字でした。

Tは、権正階(ごんせいかい)という神職の階位を取るために通った京都府神社庁の講習の同期生で、隣の席で活字のような筆文字の大祓詞(おおはらえし)を書いていました。このご朱印帳には、あの字と全く同じ書体で、京都の神社名と日付が書いてあり、まっすぐきれいにご朱印が押してあります。三角定規を二つ使って、水平を確認して押した、としか思えないほどの、まっすぐな印。これはまぎれもなくTの仕事だと思いました。

原稿用紙のマス目が印刷された下敷きを用い、テストの答案までもマス目にはめるように書いていたT。同期生たちで笏(しゃく=男性神職が神事の時に持っている板)に寄せ書きしよう、ということになったときも、Tは「笏に字を書くなんて」と、書くのも書かれるのも断わるほど真面目でした。古来、笏には長い式次第を書いた紙を米粒で貼り付けたりする役目もあり、我々の寄せ書きはその延長のつもりだったのですが、Tはかたくなに寄せ書きをこばみ、最後まできれいで清潔な笏を保っていました。

「あの……このご朱印の字書いた人、たぶん私の友達です」

ご朱印張を持参した見知らぬ男性に、となりのページを指さして言ってみました。

しまった。「へえ」としか返しようがないことを言ってしまった。
私はすぐに、猛烈に後悔しました。

ところが、男性は想定外の返しをしてきたのです。

「みたいですね。この人も言ってました」

聞けば、その三年前に、今回の逆ルートでご朱印をもらいに行ったとき、担当した神職が私の字を見て

「この字の人、ぼくの同期です」

と言ったのだそうです。
Tも私の字とハンコの押し方を見破っていたのです。むー。そういえば、私の字を「おおらかすぎる」と言っていたのを思い出しました。

それにしても、私の奉職している神社とTの奉職している神社は、むちゃくちゃ遠くはないけれど、連続して御朱印をもらいに行くほどの近距離ではないし、これといったつながりもないのです。どういう趣向でこの人は、三年のあいだをあけて、二度、我々のご朱印を、続きでもらいに来たのだろう? もしかして神なのか? と思いましたが、理由まで聞くのは不躾な気がして、なぞはなぞのまま、とっておくことにしました。

以来私は、ご朱印帳をお預かりするとき、となりのページの文字を書いた見知らぬ人について、あれこれ想像するようになりました。

平安朝の細い筆で、和歌が書いてあるもの。
印が見えなくなるほどに太く荒々しい筆で書いてあるお寺のもの。
新人が書いたであろう、初々しい文字。

ご朱印の文字からは、書いた人の呼吸が感じられます。文字というのは、書かれている内容以上に、本人の正体を表しているなあと思うのです。

大河ドラマ「光る君へ」は、源氏物語の作者である紫式部が主人公で、彼女が文字を書くシーンや、藤原道長との文のやりとりがたくさん出てきますが、紫式部本人の直筆は残っていないのだそうです。
それに対し、藤原道長に関しては、直筆が残っているのだそうです。道長を演じる柄本佑さんは、「あの文字を書いた人、ということで、何か具体的につかまえることができて、助かっている」と、「歴史探偵」(NHK)という番組でおっしゃっていました。実際に千年前の人物になり切ろうとするとき、その息づかいを知ることができる「文字」は、とても貴重な手がかりなのでしょう。

私は、藤原道長の書は見たことがありませんが、平安時代の書については、皇居の「三の丸尚蔵館」で藤原行成の書と伝わる「粘葉本和漢朗詠集(でっちょうぼんわかんろうえいしゅう)」を見ました。その書からは、書いた人の息づかい、筆運び、強弱が伝わってきて、まるで書いた人の声を聞いているような気持ちになりました。

文字にはその人が表れます

夏の夜、たまにはSNSをしないで、平安貴族のように文字を書いてみませんか。
いきなり筆でなくても、家にあるペンでいいのです。最初はノートを用意せずとも、反故紙でいいのです。(私は、過ぎた月の学級だよりの裏に書いたりします)。
書くことも、いきなり大祓詞や般若心経ではハードルが高いので、自分の好きな言葉や、美しいなあと思った文章の一節、あるいは歌詞などを、ていねいに書いてみるのがよいと思います。

ただマーカーを引いたり、スマートフォンのメモ機能にコピペしたりするよりも、その言葉が自分の中に入ってくるのを感じるはずです。
興に乗ってきたら、暑中見舞いや残暑見舞いをだれかに書いてみるのもいいですね。

春から「よきこと日記」を続けていらっしゃる方は、もうだいぶ「よきこと」がたまったころと思います。すこしページをぱらぱらとめくって、自分の文字を見てみますと、日によってちがいますよね。忙しくて呼吸が浅いときには字も浅い。気分が荒れているときは字も荒い。ていねいな暮らしをした日は字もていねい。生活は字に出る。そして生活は顔にも出る。
だから、毎日きれいな字を書くようにしていると、生活もきれいになって、顔もきれいになると、私は信じているのです。

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毎日がみるみる輝く!神様とあそぶ12カ月

「小さな一瞬一瞬の幸せを感じる」を毎日続けていけば、「一生幸せを感じ続ける」ということになる。――当たり前のことだが、これが、神社神職として日々、神様に季節の食べものをお供えしたり、境内の落ち葉を履いて清めたり、厄除開運の祈祷を行って参拝者さんとお話ししたりする中でたどり着いた、唯一、確実な開運法なのです。

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神主さん直伝。春夏秋冬を大切にすれば、毎日が開運のチャンス!

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桃虚 神職/ライター

神社神職。インド(ムンバイ)生まれ東京育ち。関西住まい。二児の母。

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