サンリオ米国法人のCOOを経てシリコンバレーでピジョン、LINEヤフー、トランスコスモスなどの社外取締役を務める鳩山玲人さん。多くの成功者の観察を元に「シリコンバレー流の学び方」のエッセンスをまとめた幻冬舎新書『シリコンバレーで結果を出す人は何を勉強しているのか』より、一部を抜粋してお届けします。
シリコンバレーはテクノロジー系の人たちだけの場所ではない
シリコンバレーという場所は、人々に特別な感情を抱かせるようです。日本も例外ではなく、書店に行けばカバーに「シリコンバレーの……」「シリコンバレー式」といった言葉が躍る本が並んでおり、その中には本当にシリコンバレーと関係があるのかわからないようなものも紛れています。こうした「シリコンバレー商法」とでもいうべきものが生まれるのも、シリコンバレーの誘引力が強いことの表れなのかもしれません。
シリコンバレーとは、どんな場所なのでしょうか?
ご承知の方も多いと思いますが、場所はアメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコのベイエリアの南部です。ここにはかつて多くの半導体メーカーが集まっており、その主原料である「シリコン」に、その名の由来があります。地形が渓谷(バレー)であることから、「シリコンバレー」と呼ばれるようになったわけです。
シリコンバレーではこれまでにアップル、グーグル、フェイスブック(現社名メタ)のようなメガテック企業が多数生まれ、現在もIT系のスタートアップが次々に誕生しています。またセコイア・キャピタルやクライナー・パーキンスなどの名門ベンチャーキャピタルも多く、最先端技術の研究者やそれらを活用してビジネスを生み出そうとする起業家、そしてそういった人々を支援する投資家などが集まる刺激的な場所であることは間違いありません。
しかしシリコンバレーがそういった人ばかり集まる場所だとイメージすると、それは現実とは少しずれているようにも思います。シリコンバレーは人口約350万人ほどで、広さはちょうど東京都と同じか、少し広いくらいの規模です。
東京といっても、そこに暮らす人がみんなファッショナブルでトレンドの最先端にいるわけではないのと同様、シリコンバレーも住民全員がスタートアップやテック企業に属しているのではなく、ごく普通の人々も同時に暮らしているのです。
シリコンバレーに限らず、アメリカの各都市に対する日本の一般的なイメージには少し偏りがあるかもしれません。実際のところ、「アメリカン・ドリーム」をつかもうとするため、アメリカには世界中からたくさんの人が集まってきます。
その中には、たとえば日本から「ニューヨークやロサンゼルスに住んでみたい」と言って移住するタレントさんもいるでしょう。「ロサンゼルスに住みたい」という場合は、映画やファッションなどに関わる産業で働きたいという人が多そうです。
一方で、単に「アメリカが好きだから行ってみたい」「アメリカで暮らしてみたい」と思って渡米する人もいますし、そういった人たちが住むのは、ニューヨークの五番街やビバリーヒルズのような「あこがれのアメリカ」ではない場所であることもあります。
そしてシリコンバレーはもちろん、ニューヨークやロサンゼルスであっても、高級住宅街のすぐ隣に貧困地域があるなど格差社会が広がっていたり、英語が話せない人たちのコミュニティがあったり、銃やドラッグが絡んだ犯罪がすぐそばにあるといったアメリカの現実もあります。
「シリコンバレーはスタートアップやテック企業で働く人たちの都市だ」というイメージは間違いではありませんが、シリコンバレーの一部を切り取ったものでしかないのです。
その意味で、シリコンバレーはテクノロジー系の人たちだけの場所ではありません。
シリコンバレーには、多様な人種、そして「普通の人」も含めた幅広い人々を受け入れるふところの深さもあると私は思っています。
最先端のテクノロジーがいち早く実装されていく街
シリコンバレーを過剰に「インフレ化」させることには違和感がありますが、一方でシリコンバレーで暮らしたり働いたりすることには魅力があり、学べることが多いのは間違いないと思っています。
シリコンバレーで暮らしていて感じるのは、とにかく刺激が多いということです。スタートアップのビジネスを成り立たせるにはさまざまな要素が必要ですが、その一つは「ユーザーがいること」。マーク・ザッカーバーグだけいればフェイスブックが成り立つわけではなく、フェイスブックを喜んで使ってくれるユーザーがいなければならないということです。
その意味では、シリコンバレーは最先端のテクノロジーが真っ先に街の中に実装されていく場所だといえます。
たとえばシリコンバレーではテスラの車を非常に多く見かけるのですが、私がロサンゼルスやワシントンD. C. 、ボストン、ニューヨークなどに行って街の中を見渡したときは、それほどテスラが多いという印象はありませんでした。
一般にはアメリカの大都市であれば、最先端のテクノロジーが活用されているイメージを持つ人も多いのではないかと思いますが、実際にはアメリカの都市がどこも最先端ということはありません。やはりシリコンバレーが独特な街なのだと思います。
テスラの例に限らず、たとえばウーバーやウーバーイーツ、個人間送金サービスのベンモなども、シリコンバレーでは普及のスピードが速いのです。最近では、友人同士で送金する際、当たり前に「ベンモでいい?」と尋ねられるようになりました。
このような環境で暮らしていると、否が応でも最先端のテクノロジーを体感することになります。
言い方を変えれば、たとえ自分自身が開発に携わっていなくても、そこで生活しているだけでそういった商品やサービスに真っ先に触れることができ、最先端のビジネスを育てていくエコシステムの大切な一員になることができるわけです。そのように考えれば、シリコンバレーの生活はかなり刺激的だといっていいでしょう。
なぜシリコンバレーには成功者が多いのか
もう一つ、シリコンバレーで働いていると、「成功したときの金額の大きさ」が日本とは桁違いであることを実感します。周辺には年収1億円くらい稼ぐ人はざらにいるという状況で、2億~3億円くらい稼ぐことも、さほど特別なことだというイメージはありません。
コロナ禍の中、シリコンバレーでも低所得層を対象として補助金などが出たのですが、ここでいう「低所得層」の基準は「年収1500万円以下」でした。
シリコンバレー、特にテックカンパニーやIT関連のスタートアップ、ベンチャーキャピタルに属する人々の感覚としては、10億~100億円という単位で稼ぐくらいにならなければ「すごい」とは言われないのではないかと思います。
日本から見れば桁違いの「成功者」がゴロゴロいるのは、周囲にそういった人が多い環境にいれば、自分もそれを求める気持ちが高まるからでしょう。その意味では、シリコンバレーのコミュニティは成功者を生みやすいといえそうです。
このような話をすると「金持ち自慢か」と思う人もいるかもしれません。しかしシリコンバレーで暮らしていると、稼いだ金額が大きいからといって尊敬を集められるわけではないということもわかります。
この地域では「どのような価値観を持ち、どのように創造的価値を生み出し、どのように社会に貢献しているか」が重視されており、「世界を一歩でも、よい方向に進めること」によってこそ尊敬を得られるのだと私は感じています。
「世界を一歩でも、よい方向に進めること」ができている人が、結果として大きく稼いでいるというのがリアルなシリコンバレーのありようであり、「社会への貢献」と「金額で評価される成功」との間には強い相関関係があるのだということが示されているように思います。
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シリコンバレーにはビジネスで成功し、億万長者になる人が世界一多いといわれる。14年前に日本から移住し、多くの成功者を観察してきた著者はその理由を「彼らが有機的に学んでいるからだ」という。大学までは熱心に勉強するが、社会人になった途端学ばなくなる日本人に対し、シリコンバレーの成功者は「学び」をやめない。社会人になってからも知識・情報をインプットし続け、新しい体験による生きた勉強をし、付加価値を高めていく。20~50代までの年代ごとに必要な勉強とは? 成功のために絶対不可欠な体験とは? シリコンバレー流の学び方を身につければ、生涯現役まちがいなし!