世界最難関と言われるアラビア語を24歳から始め、天皇陛下や安倍総理大臣(いずれも当時)のアラビア語通訳官までつとめた、元外務省交渉官の中川浩一さん。日本人が知らない中東情勢の今がわかる著書『中東危機がわかれば世界がわかる』も好評な中川さんに、外国語の習得においてもっとも大事なことを教えてもらいました。
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語学は「スピーキングファースト」で
──中川さんは外務省に入るまで、アラビア語を勉強したことはまったくなかったそうですが、どのように習得されたのでしょうか。
私はエジプトで研修を受けたのですが、「とにかく話せ」という先生だったんです。とはいえ、もちろん最初のうちは何も話すことができません。なので、自分が話すことをまず日本語で考えるわけです。
当時は、日本語のアラビア語辞書なんてありませんでした。ですから、日本語で考えたことをまず英語にします。そして、その英語を辞書を引きながらアラビア語にする……。毎日が壮絶な戦いでした。
でも、それがよかったと思うんです。自分が言いたいこと、言わなくてはいけないことが先にあったからです。
私はよく「アウトプットファースト」とか「日本語ファースト」と言っているのですが、人は自分が話すことしか覚えることはできません。
これは日本の英語教育にまったくない考え方です。日本の英語教育はまず参考書、インプットから入ります。アウトプットを想定することなく、ただ詰め込もうとする。これでは試験には受かるかもしれませんが、外国語を話せるようには絶対になれません。
日本人の英語能力はアジアの中で一番低いと言われていますが、根本的なところに原因があると思います。
──まず話すこと、スピーキングが大事なんですね。
日本人って「話したいこと」がないんですよ。ここが日本人の一番弱いところだと思います。まずは日本語で、ちゃんと人前で話すことができなければ、外国語なんてできるわけがありません。自分で何を話すのかを考えるのが、一番初めに来るべきなんです。
語学を勉強しようと思ったとき、まずリスニングから始める人がいますが、スピーキングができないのにリスニングはできません。「わからなくても聞き流せばいいんだ」と言う人もいますが、わからない言葉を聞いたってなんの意味もありません。
語学を身につけたいなら、まずはスピーキングです。話すことで、言葉は自然と耳からも入ります。そうすると、自然とリスニング力も上がっていくんです。
だから、私はよく「スピーキングファースト」と言っています。でも、日本人は「スピーキングラスト」なんです。それはおそらく、日本人がもっとも苦手なのがスピーキングだからだと思います。だから、つい後回しでいいやと思ってしまう。
語学の学習では、よく4つの能力をバランスよくつけなさいと教えられます。リーディング、ライティング、リスニング、スピーキングですね。
日本人にとって一番楽なのはリーディングで、次がライティングではないでしょうか。だから、みんなこの順番でやってしまう。中学の英語の授業もこの順番ですよね。ここが最大の問題だと思います。
アラブ人と心を通わせる一番の方法
──今も毎月のように中東へ足を運ばれている中川さんですが、アラブの人々とどのようにして関係を築いているのでしょうか。
日本で暮らしていると、欧米やアジアばかりに注目しがちです。でも、これでは世界はわかりません。世界の半分しか見ていない状態です。その半分も、かなり偏っていると思います。
欧米やアジアは、基本的に親日です。でも、中東はそれほど甘くはありません。文化も価値観も違う、まったく別の世界だと考えたほうがいい。
こうした中で相手のことを理解し、心を通わせるには、やはり言葉が大事です。「おはようございます」とか「ありがとう」とか、英語で言うのとアラビア語で言うのではまったく違います。
アメリカ人に「グッドモーニング」と言っても、彼らは喜びません。英語で話すことが当たり前だと思っているからです。でも、アラブ人の場合、アラビア語でひとこと挨拶するだけでも喜んでくれます。
──相手との距離が一気に縮まるんですね。
アラビア語は世界一難しいと言われていますが、挨拶くらいだったら誰でもできます。アラブ文字を知らなくたって、カタカナで覚えておけばいい。アラビア語がうまいかヘタかは関係ありません。そういう気持ちがあるかどうかが重要なんです。
アラブ人は非常に民族意識が高いですし、アラビア語に誇りを持っています。恐れずにひとこと言うだけで、ものすごく仲良くなれる可能性があります。
──アラブの国は、一般の日本人が旅行で行ってもいいのでしょうか。
もちろん、いいと思いますよ。欧米やアジアとはまったく文化が違うので、面白い経験ができるでしょう。
今の時代はインターネットがあるので、行かなくてもぜんぶわかった気になりがちです。でも、実際に行ってみないとわからないことはたくさんあります。人と人とが対面して、初めて生まれるものもたくさんあります。
こういう時代だからこそ、とくに若い人には自分の目で見て、自分で体験することの大事さを知ってもらいたいですね。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】中川浩一と語る「『中東危機がわかれば世界がわかる』から学ぶ中東情勢」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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