急に涼しくなりました。10月はどんなふうに神様とお付き合いしたらいいでしょう。現役の神職・桃虚が指南します。
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虫の音を楽しむ日本の風習は、世界的にも珍しい!
私の住んでいる大阪は、秋になっても気温が高く、夏の延長戦、といった感じが否めません。そんな折、東北地方の山あいに住んでいる友人と、夜に電話で話しておりましたら、鈴虫の声が聞こえてきて、その瞬間、「秋がきた」と思いました。残暑でぐだぐだしていた五感が、秋にむかって、ぱあっと開いた心地がしたのです。
鈴虫の声の周波数3500~4500ヘルツは、通信規格3Gを使っていたころには切り捨てられていたので、携帯電話やスマホでは聞こえなかったそうです。ところがいまは、通信速度も、一度に送ることのできるデータの容量も、格段に上がったので、50~14400ヘルツの周波数をやりとりできるようになっているそうです。
それにしても、電話の向こうの鈴虫の声だけで、秋の訪れを感じることができたり、懐かしいひんやりとした空気の感触まで思い出せたりする……というのは、いったいどういうことなのでしょう?
ふと、私の子供たち(ふたご)が一歳のころに、保育園の若い先生から言われたことを思い出しました。
「お子さんと一緒に外に出て、お花が咲いていたら、きれいだね、と声をかけてあげてくださいね。そうすることで、お花がきれいだな、という感情が育ちますからね」
ひょっとしたら、保育の世界では常識なのかもしれませんが、そのときの私は、この言葉にたいへん胸を打たれました。たしかに、「きれい」という感情は、見ている対象と「きれい」という言葉がつながったときに、はじめて認識されるのではないか? という気がしたからです。
以来私は、お散歩のたびに、花や木や草、昆虫やカナヘビ、夕焼けやいわし雲にいたるまで、見つけたら子どもに「きれいだね」「かわいいね」「おもしろいね」と言い続けてきました。何らかの感情が生まれたとき、それを言葉でなぞることによって、その感情と対象物がきちんとつながって強化される気がしたからです。
自然界の「音」に対しても同じことが言えるのではないでしょうか?
日本語は、オノマトペ(擬音語、擬態語、擬声語)が異様に多い言語と言われますよね。
秋の虫で言うなら、
アオマツムシが、りー、りー、りー/マツムシが、ちんちろりん/クサヒバリが、ふぃりりり/カンタンが、るるるるる/キリギリスは、ちょん、ぎーす/コオロギは、ころころりーりー/スズムシは、りりーん、りりーん。などなど。
虫が翅をこすって出す「音」をオノマトペで言語に組み込んで、「秋だね」「いいねぇ」「風情があるねえ」「わびてるね」「さびてるね」と言祝(ことほ)ぎ続けた結果、虫の声を聞く「虫聞き」という文化が日本に定着したのではないかと思います。
虫の声を聞いて「秋だね」と言って楽しむ大人に囲まれて育った私は、電話口のむこうにいる鈴虫の声を聞くだけで、「秋」という季節を自分に引き寄せることができたのでしょうね。
ところで、虫の声を楽しむ「虫聞き」の趣味は、日本では古くからありますが、世界的にはめずらしいそうです。そして、それは日本人の脳のつかいかたに関係しているという説があります。
医学博士の角田忠信さんの研究によると、日本語を母国語として話す人の脳は、「虫の鳴き声」を、「日本語の音声範疇」と同じ領域(脳の左半球)で受け止めていて、欧米人は言語以外の音を受け止める領域(脳の右半球)で処理していると言います。おおざっぱに言うと、日本語を話す人は、虫の声を、言語を処理するのと同じ左脳で処理していて、欧米の言語を話す人は、音楽を処理するのと同じ右脳で処理している、ということです。
虫だけでなく、鳥など他の動物の鳴き声、波、風、雨の音、小川のせせらぎ、邦楽器の音も左脳で処理していて、「音楽」は西洋人と同様に右脳で処理しているそうです。
うーん。「虫が羽をこすり合わせて出す音を、言語として聞く」というのは、どういうことなのでしょうか。べつに音楽として右脳で処理したっていいじゃないか。なぞです。
実際、虫の出す音は、「メスへの求愛」「なわばりの確認」「オス同士のあらそい」などのコミュニケーション手段である、と考えられているので、それを「言語」と呼ぶこともできます。でもそれは、虫同士の言語ですよね。人間が聞く場合は、欧米人のように「ふつうに音として聞く(または聞かない)」のでよかろう、と思いますよね。
日本人が「虫の声」を言語として聞いている、ということは、「自分にとって何かしらの意味がある」「自分が話しかけられている」と感じて聞いている、ということではないでしょうか? 音には意味がないですが、言葉には意味がありますから。
でも、虫の声の意味って……???
(つづく)
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毎日がみるみる輝く!神様とあそぶ12カ月
「小さな一瞬一瞬の幸せを感じる」を毎日続けていけば、「一生幸せを感じ続ける」ということになる。――当たり前のことだが、これが、神社神職として日々、神様に季節の食べものをお供えしたり、境内の落ち葉を履いて清めたり、厄除開運の祈祷を行って参拝者さんとお話ししたりする中でたどり着いた、唯一、確実な開運法なのです。
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