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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2024.10.15 公開 ポスト

第233回 大渋滞 2024いとうあさこ

先日、山田ジャパン公演「大渋滞 2024」@赤坂RED/THEATERが無事千穐楽、迎えました。この「大渋滞」と言う作品は2015年5月に同じ劇場で上演した作品。ただねぇ、再演じゃないな、と。一緒なのは“渋滞”という設定くらいで、車に乗っている人たちの名前、性格はもちろん、“人生”が大なり小なり違う。もちろん役者も違う、もありますが。なので前回とはまったく別の人たちが大渋滞で隣り合わせ、ゆっくりと絡み合ってゆく。座長・山田能龍はいつもそうなのですが、その時その時の言葉を紡ぐ。あれから9年半。「大渋滞」は新しい「大渋滞 2024」となり、上演されました。

 

あらすじをちょっこし書くと、とある高速道路で起きた謎の渋滞。動く気配なし。その状況に痺れを切らし、隣り合わせた車の人たちがそれぞれの人生や事情を話し出す。そこに少しずつ仲間意識が生まれ始める。そんな中、交通警察隊の捜査が。実は殺人事件があって、その容疑者を探し出す為に警察が高速を封鎖して起こった渋滞、という事がわかる。その犯人は? そしてその事情とは?

犯人、私です。いや、私たちです。私演じる美和子と、東京ダイナマイト松田さん演じる雅哉。あ、劇中では一度も名前が出てこないので、パンフレットを買った方のみが知りうる名前なのですが。この2人は元夫婦。一人息子がいて、ひどいいじめに合う。教育委員会や学校に何度改善を求めても、まったく取り合ってくれず。結果、息子は自殺。その教育長を2人で刺したのだ。いやね、人を殺めるなんて、もちろん理由関係なしにないし。言ったらその教育長にも家族や友達もいる。そんなのは百も承知ですが、この元夫婦にはそれしかなかったという、悲しさ、って言うのかな。息子が小さい頃に離婚して。きっと息子の事では話をすることも何度もあったんでしょうけど。目が行き届いてなかったから、離婚したから、といろんな理由を探しては山ほど自分を責めて。「息子の自殺に釣り合う、重い石は欲しい」と2人で殺し、自分たちも死のう、と決めていたのに、たまたまキーのついた車があって、なんか逃げてしまった。そんな時の、渋滞。

稽古も含めこの舞台中、いろんな形で、生き死に、の事を考えた。例えば初演の時にオーディションから参加した今井洋介。彼は『テラスハウス』に出演歴のある写真家でありモデルであり、な人。若手バンドマン役だったのですが、演技力で言えば、正直全然だった。後半、“思い”をぶつけるシーンがありまして。そんなわけでなかなか“ん-”な状態。それが山田の演出を純粋に、そして素直に受け取り、ただただまっすぐ、身体から出せる全ての力を使って、余力なんか微塵も残らないパワーで長台詞を吐き出した。その一生懸命さ、そのまっすぐな“思い”は客席にも十二分に届き。結果、一番観客の涙を誘うシーンに。技術ではなく、ただ心で芝居をした。今までそんな変化を見せた人に会った事なかったので、今井は一生忘れない、いとおしい仲間となった。ただこの半年後、彼は心筋梗塞で亡くなる。聞くと1ヶ月前くらいから体調がすぐれなかったけど、前日まで仕事していて。本当に急な知らせで、今井がいなくなった事を理解するのにずいぶん時間がかかった。その今井が当時着ていた衣装のTシャツを、同じバンドマン兼彼女役だった、同期の羽鳥由記が保管していて。今回千穐楽にそのTシャツを着てきた。バンドマンたちの車の前で、座長含む初演メンバーで写真を撮った。今井、また、渋滞してるよ。

そして私の同級生は本当によく山田ジャパンを観に来てくれる。みんなお子さんを連れてきたり、「この後飲みに行くんだー」とか聞いたり。みんな大人になったのね、となんかニヤニヤしちゃう。もちろん自分がそもそも大人なのでわかっているけれど、小学校から、要は7歳からずっと一緒だから(中学からの人もいるが)、なんか面白くて。終演後はそんなみんなとお礼も含めちょっと会って話したりするのですが、コロナでしばらく出来てなくて。それが今回は久しぶりに会えていろいろ話せた。そこでふいに聞いた訃報。友達が、亡くなった。小中高一緒の子で、山田ジャパンも観に来てくれていた。ずっと闘病生活を送っていたのですが、この夏旅立った、と。今井の時もそうだったけど、ホントこういう話って最初ピンと来ない。ただたまたまこの時「あさこさん、友達が来てて一緒に写真お願いできます?」みたいな声をいろいろかけられて。おかげで気持ちも紛れてよかったのですが、楽屋に戻って自分の席ついたらハラハラ泣けてきて。あれ、なんだろうね。“悲しい”とかだけじゃない。だって正直そこまで実感ないんだから。だけどただただ涙出てくる感じ。もちろん人に気を遣わせるのもやだから、端っこでひっそり作業なんかしている感じでいたのですが、すごいよね。由記ちゃんが気づいて。特に何か聞くわけでもなく、ただそばにいてくれて。まあそれが逆に泣けてきたりしてヤバかったですが。仲間、ありがたし。

「俺が言いたいのは続けてくしかないってことだよ。だってどうしたって続いちゃうんだから。終わらせたくても来ちゃうのが続きなんだから。」今回あった台詞。心に残った。毎年目標を聞かれると「生きる」と言う私。大好きな森山直太朗さんの『生きてることが辛いなら』。

生きてることが辛いなら いっそ小さく死ねばいい

から始まる。でも最後、

生きてることが辛いなら くたばる喜びとっておけ

と。よかれあしかれ、“続く”。そのやり方を教えるように、今回の芝居の最後にTOMOVSKYさんの『我に返るスキマを埋めろ』が流れる。

いちいち招くな

いちいち入れるな

いちいちここで感じるな

何か聴こえても 何か気づいても 何かわかっても

見落とせ身過ごせ 聴こえても聴きのがせ

ちょっと真面目にいろいろ書きましたが、コメディ部分ではいっぱい笑ってもらって。そしていつも以上に群像劇だったのもあって、舞台上だけでなく仲間意識みたいなものがすごく生まれた気もして。要は、いい舞台でした。とても。次回は来年9月、本多劇場。また元気に皆さまとお会いできますよう。今日も“続き”、やるとします。

【本日の乾杯】1ヶ月以上コンビニ飯だったもので、公演が終わって近所のイタリアンの「ヤリイカと旬野菜のガーリックソテー」でワインをガブリ。待ちきれず容器そのままでいっちゃうとこはご愛嬌。ああ、終わった、としみじみ。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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