部下や後輩とどうコミュニケーションをとり、どうチームをマネジメントするか。人の上に立つリーダーなら、誰しも頭を悩ませたことがあるでしょう。2023年、107年ぶりの甲子園優勝を果たした慶應義塾高校野球部のメンタルコーチで、著書『強いチームはなぜ「明るい」のか』を上梓した吉岡眞司さんに、ビジネスシーンで役に立つ、「強いチーム」をつくるコツをアドバイスしていただきました。
* * *
「明るいチーム」をつくるには?
──吉岡さんのメソッドは、ビジネスシーンでも役立つと思います。部下や後輩をどうマネジメントするか、悩めるリーダーにアドバイスをいただけますか。
まず大事なのは、どういうチームをつくるべきかということです。私のこれまでの経験上、成績のいい組織や強いチームには共通していることがあります。それは、雰囲気が明るいことです。
明るいといっても、ただふざけているとか、おちゃらけているわけではありません。厳しさもありながら、一人ひとりのメンバーが「いい顔」で仕事をしていて、「ありがとう」などプラスの言葉が飛び交っているイメージです。
具体的には、そこに集うメンバーに主体性があることが重要です。似たような言葉に「自主性」がありますが、自主性はやるべきことが決まっている中で、人から言われなくても進んでやることを指します。
一方、主体性は、やるべきことが決まっていない中で、人から言われなくても進んでやることを指します。自分の役割や立場において、何をすればチームにプラスに働くのかを自分で考えて、行動して、責任がとれるのが主体性があるということです。
チームのために今何をしたらいいのか、自分で考えることのできる人が集っていると、たとえば落ち込んでいる仲間がいれば思いやりの心が発動して、適切な言葉と表情で励ますことができます。
人間は社会的な動物なので、一人では生きていけません。最低限のコミュニケーションが必要になります。そのとき、主体性というのが明るい雰囲気をつくるうえで大切なポイントになります。
まずは、そうした明るい雰囲気をつくれるかどうか。それがファーストステップで、そのうえでのテクニックだと思います。
──主体性のあるチームをつくるために、意識すべきことはありますか?
多くの会社のリーダーは、部下や後輩に対して教えることが多いと思うんです。たとえば、進捗がはかどっていないときに、「こうするといいよ」と指導するケースが多いのではないでしょうか。
しかし、それでは部下や後輩は自分で考えるようになりません。といっても、ほったらかしにするわけではありません。どんなところで困っているのかを聞き出し、改善するところがあればどうすればいいか一緒に考える。いわばコーチング的な関わり方を意識することによって、自分で考える習慣が身につきます。
人から言われたことを指示どおりやってできたとしても、頭から抜けるケースが多いものです。でも、自分で考えてやってできたことは、頭に残ると思うんです。
意識してコーチング的なコミュニケーションを重ねることで、自分で考える習慣がチームに醸成されます。時間はかかるかもしれませんが、くり返し行なうことによって、主体性のある人が増えていくはずです。
「否定的な問いかけ」をするな
──本書には、「できない理由」を問うてはいけないというアドバイスもありました。
私たちの脳には、問いかけに応えるという特徴があります。たとえば、「どうしてできないんだ?」と聞かれると、できない理由を見つけて返してくる。でも、それでは解決策にはなりませんよね。
しかも、できなかったときのイメージが思い起こされるので、その人の脳はマイナスの感情で満たされてしまいます。そんな状態では、前向きで建設的な解決策を導くことはできません。
だったら、「どうすればできる?」と聞いたほうがいい。プラスの問いかけに対し、脳はプラスの答えを返しますから、「こうすればいいと思います」といった前向きな解決策が出てくるようになります。
否定的な問いかけではなく、肯定的な問いかけをしてみてください。そのほうが、脳の特性から見てもベターです。
──最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。
残念ながら亡くなってしまった私の大親友で、平尾誠二くんという偉大なるラグビー選手であり、日本代表監督だった人物がいます。彼は生前、「僕らの人生はラグビーボールと一緒で、どっちに転がるかわからない」とよく言っていました。
どちらに転がるかわからないのなら、自分でコントロールできることはしっかりコントロールして、できるだけいい方向にみずから持っていく。そういう状況に導いたほうがいいと思います。
そのために、どんなことに注意すべきか。それは、自分の持っている能力やいい面を、仕事でもプライベートでもしっかり発揮することだと思います。
能力発揮に大きく影響を及ぼすのは、感情です。プラスの感情をつくれば能力が発揮しやすくなります。
では、プラスの感情をつくるにはどうすればよいのか。プラスの態度や、表情や、言葉を、どんな状況でも意識的にアウトプットすることです。そうすることで、プラスの感情はつくることができます。
人生はコントロールできなくても、自分のことはコントロールできます。いい状態の自分をつくるために、自分で自分の感情をしっかりコントロールして、いい人生を送っていただきたいです。
そうしたことを一冊にまとめたのが本書です。ぜひ書店で手にとって、お目通しいただければ嬉しく思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】吉岡眞司と語る「『強いチームはなぜ「明るい」のか』から学ぶメンタルトレーニング〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』はこちら
書籍『強いチームはなぜ「明るい」のか』はこちら
武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
- バックナンバー
-
- 「どうしてできないんだ?」「こうするとい...
- 「ありがとう」「いい顔」「チャレンジ精神...
- 「働けない」のは甘え、サボりではない…誰...
- 貧困は自己責任ではなく「働けない脳」のせ...
- 「直感」は脳が出した最適解…最先端研究で...
- 「ひらめき」は寝ている間につくられる…脳...
- トルコからの石油を止める、ネタニヤフ政権...
- イスラエルとハマスの衝突は「宗教対立」で...
- ついに日本でも始まった、元金融庁官僚が手...
- 「インデックス投資信託」以外は見向きもし...
- 情報はイベントではなく人間から理解せよ…...
- 独裁主義者に操られる究極のニヒリスト…ト...
- 「叱られ耐性」がある、「自分が決めたルー...
- 「VUCA」の時代を生き抜くために…話題...
- とにかく一歩踏み出してほしい…『女性の品...
- 30~40代ビジネスパーソンにおすすめ!...
- 外国語を身につけたいなら「スピーキング」...
- ものごとにはすべて裏と表がある…元外務省...
- 文系ビジネスパーソン必見…「数学への苦手...
- ムダなく、最短距離で、正しそうに…文系ビ...
- もっと見る