
「ゴシック、ルネッサンス、アール・ヌーボー、アールデコなど、いろんな建築様式がありますが、理解しておくと時代背景がわかって楽しいと思います」
ガイドさんの言葉には説得力があるし、多少は勉強したから雰囲気はつかめていると思うけれど、例えばポルトの本屋さん「レロ書店」はアール・ヌーボーとネオ・ゴシックの折衷だったし、混ざるとようわからんな、なのである。
ポルトガルの教会や城は長い年月をかけて完成し、建築様式が混在しているものも多い。
シントラにある王宮もそのひとつで、元はイスラム教徒の建物を歴代の王様たちが増改築した結果、ムデハル、ゴシック、マヌエル、ルネッサンスなどいろんな様式が目白押し。
山の中のシントラ王宮は、外から見ると様式どうこうよりリゾートホテルのようにシンプル。不自然な感じで三角すいの大きな煙突がふたつ突き出しているところなどは、後付け感ありありである。
一転、王宮の中は美しいアズレージョ(ポルトガルのタイル)に彩られ、新しい部屋に入るたびに「わわわー」と、みなが感嘆をあげる。
「白鳥の間」という大広間の天井一面には27羽の白鳥が描かれていた。白鳥たちはそれぞれ違ったポーズというこだわりだ。
「あの白鳥の絵をクッキー缶のデザインにしたらかわいいやろな」
うっとり見上げる。
この広間のアズレージョは、トランプのダイヤ模様が連なったような直線的なデザインのムデハル様式。
『持ち帰りたいポルトガル』(著・矢野有貴見)によれば、アズレージョの語源はアラビア語の「小さな磨かれた石」といわれており、15世紀の終わり頃にセビリヤなどからポルトガルへの輸入が始まったらしい。「16世紀には『ムデハル様式』と呼ばれる幾何学模様のタイルが輸入され、ポルトガルで本格的にアズレージョの生産が始まったのもこの頃だといわれています」。ムデハル様式のタイルが、かなり古いものということがわかる。
ふたつの煙突は、建物の中から見上げるとドーム型の空間に。煙突下は炊事場として使われていたそうで、壁の白いアズレージョは貝殻のようにピカピカと輝いていた。
王宮見学を終え、街の小さな繁華街でしばし自由時間。土産物店でかわいい絵皿を見つけてレジに並ぶも、前のお客の会計がなかなか終わらない。集合時間に間に合わないので買うのは断念し、皿の写真だけ撮って店を後にする。普段使いには大きいかもな、とレジに並んでいるときから後悔し始めていた皿なので「買えなくてよかった」と安堵している自分がいたのだった。
キャベツの中にうさぎが描かれた絵皿。
日本で絵付け体験できる機会があったら、シントラで見たあのうさぎをマネて描こうと思う。
つづく
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ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。