
編集のOさんからメールが届いたのは2月の末のことでした。
「知り合いの編集者が40代以降に趣味にハマった人へのインタビューページに載せるのに、お話を聞きたいと言っているのですが、連絡先を伝えてもいいですか?」
返事はもちろんYESです。
趣味としてのバレエなら私だって語れることはたくさんありますし、何よりおもしろそうです。インタビューだけなのか、あるいはインタビューとイラストなのか、どんなページなのかなぁと楽しみにしながら連絡を待ちました。
ほどなく届いた担当編集者のKさんからのメールには、記事の内容が書かれており、掲載ページの手描きのラフが添えられていました。
文章が入るところには縦線描かれています。写真が入るところは四角く囲われ、ざっくりしたイメージ図と内容についての説明が書かれています。小さな四角の横には
「レッスンで使う小物など」
「イラストレーターとして関わったバレエ本など」
と書かれていました。
ページ左下には誌面の4分の1ほどを占めるひときわ大きな四角があり、人物らしき絵が見えました。
「レッスンをしているところ」
は?
レッスンをしているところとは?
レッスン姿の写真ということで?
いや、無いわー。
冗談きついわー。
無いわー。
ここはイラストで、って提案しよう。
うん、そうしよう。それがいい。
Kさんもかつて一緒に仕事をさせてもらったことのある方なので、私の仕事はよくご存知です。「ここは写真ではなくイラストでいいですか?」と言えば、「もちろんです!」と、むしろ前のめりで返ってくるはずと思っていました。
ところが、返事はNO!!!
「写真は絶対に、何としても、必須です!!」
「バレエをしているところでお願いします!」
「撮影は京都でも東京でもいいですよ。関西のスタッフもおりますので!」
いや、そういう問題じゃないんだが。
こうして私はこの歳にして人生初、レオタード姿を世間にさらすことになりました。
ごめんよ世間!
せめてコロナ前の熱心にレッスンに通っていたときとか、先生にバレリーナらしい体型になってきましたねと言ってもらえていたときとか、生涯最初で最後のチュチュを着た私的ピークだったあの年とかだったらよかったのに。
しかし、過去には戻れないし、今の話は今だからこそいただけたわけで。今できることを最大限にやって、撮影に備えるしかありません。前進あるのみです。
撮影までに2週間ほどしかないけれど、レッスンには行けるだけ行こう。
突貫工事でもやらないよりやる方がいいに決まっています。レッスンに行けば、いくらか感覚も取り戻せるでしょう。
推しの動画ではなくバレエの動画を見よう。
いつだってイメトレは大切です。
ストレッチと筋トレはずっと続けているけれど、種類と回数を増やそう。
食事に気をつけて身体も少し絞らないと。
あれ?
レオタードも必要では?
最近はレッスンにあまり行けていないため、緩んだ身体を隠そうとずっと同じ黒のレオタードばかり着ています。
ここは写真映えのする素敵レオタードを買うべきでは?
足が長く見えるレッグウォーマーもいる?
エレガントに見えるスカートも?
ああ、お化粧! お化粧品は必須だわ。
普段ほぼお化粧をしないので、こういうとき本当に困ります。
ヘアスタイルはどうしよう?
バレエの写真ならまとめ髪がいいよね?
とりあえず、予約していたヘアサロンは延期させてもらおう。
日常と仕事と撮影(してもらうための)準備でバタバタしていると、Kさんから撮影場所についての連絡がありました。「京都にしますか? 東京にしますか? 京都なら、いつも通われているレッスンスタジオで撮影させてもらえませんか。」と。
また「東京で撮るなら、某バレエ団や某有名プロダンサーを撮っているカメラマンさんに撮ってもらえますよー。」とも。ただし、交通費は自腹ですと。
何たる誘惑。なんと魅力的なお話。
が、しかし、私ごときのレオタード姿と往復の新幹線代を天秤にかけると、どう考えたって新幹線代の方が激重だったので、東京行きはパス。
いつものスタジオは先生が快諾してくださって「ここで撮るなら『もうちょっとこっち向いて。その方が細く見えるよ。』とか言ってあげられますよー。」とまで言ってくださったのに、日程が合わずパス。
結局、京都の貸しスタジオで、関西在住のスタッフさんに撮影と取材をしてもらうことになりました。
取材をしてくださる関西のスタッフさんはバレエにはあまり馴染みがない方とのことで、自分のポーズや動きを自分でチェックしながら撮ってもらわなければなりません。編集のKさんは当日オンラインで一緒に見てくださるとのことでした。
できるかなぁ。
不安しかないぞ。
とりあえず、ここまでの教訓としてはこちら。
「人生いつ何があるかわからないから、化粧は練習しとけ!」
(後編に続く)
掲載雑誌リンク:「大人のおしゃれ手帖」
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大人バレエの世界

いくつになっても憧れる華やかなバレエの世界。アラフォーからバレエを始めた著者による、楽しく、たくましく、哀しくもおかしい“大人バレリーナ”の日常。
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