日本の住宅ローン金利は2008年頃から、「異次元の金融緩和」やマイナス金利導入を通じて下落傾向が続いてきました。その間の0.5%を切るような変動金利の水準は、多くの人をマイホーム取得に駆り立ててきました。
しかし、2024年3月に日銀がゼロ金利政策解除を発表し、約15年ぶりに「金利上昇」に直面することになったのです。変動金利で住宅ローンを組んでまだ返済が多く残っている人、これからマイホームを買う人はどうすればいいか、現役のファイナンシャルプランナーが解説します。
自己資金ゼロだけど、家賃がもったいないから家を建てたい!
ゼロ金利解除前のことですが、筆者が講師を務めた住宅メーカー主催のセミナー受講者のAさん(20代後半/女性)。セミナー終了後に簡単な個別相談を受けました。
「今は賃貸住宅に住んでいるのですが、家を買って住宅ローンを払えばいずれ自分のものになるし、いいんじゃないかと思って。金利が低いからローンも返していけそうだし、今のままでは家賃がもったいないですよね」
では、自己資金はいくらあるのか尋ねたところ、
「貯金はほとんどありません。全額ローンを組めると聞いたので」
とのこと。
Aさんは、住宅ローンの変動金利が0.5%を切るような超低金利のため、自己資金がなくても家を買えるのではないかと期待して、セミナーに参加したようです。
住宅ローンの金利タイプは大きく分けて半年ごとに金利が見直される変動金利型と、一定期間同じ金利が続く固定金利型があります。一般的に固定金利型に比べて変動金利型の金利のほうが低く、アベノミクスの異次元金融緩和をきっかけに年率0.5%切るような水準が続いてきました。
そのため、住宅ローンの金利タイプでは、変動金利を選ぶ人がほとんどです。ゼロ金利政策解除後に公表された住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者調査(2024年4月)」でも、変動金利を選択する人は全体の76.9%と依然として高い水準となっています。
0.5%を切る金利水準が永久に続けば、迷わず変動金利を選ぶとよいでしょう。残念ながら変動金利は、常に金利が上がるリスクにさらされています。仮にAさんが変動金利で35年のフルローンを組んだ場合、返済中に何度も金利が上がって返済額が大幅に増えるかもしれません。
また、Aさんのように自己資金がなくてもフルローンを組める場合もありますが、審査が厳しくなり、肝心の金利が高くなりがちです。住宅ローンで実際に適用される金利は、審査によって決まります。銀行にとって有利な、貸し倒れのリスクが少ない人ほど優遇される仕組みなのです。つまり、自己資金が少ない人より多い人、収入に対する返済額の割合(返済率)が高い人より低い人に有利な金利が適用されます。
特に今のように金利の上昇が目に見えている状況では、希望的観測だけで見切り発車するのは危険です。一度買ってしまった家は返済が苦しくなって売ろうとしても、ローンの残債以上の金額で売れないケースもたくさんあります。
だからといって誰もがマイホーム取得を諦めたほうがいいのかといえば、そんなことはありません。こんなときだからこそ、慎重に計画を立ててほしいのです。
2025年以降の住宅ローン金利の見通しは?
これから住宅ローンを組む予定の人や返済中の人が、注視すべき金利動向を確認しておきましょう。
2024年3月の日銀によるマイナス金利政策解除を受け、多くの銀行で住宅ローン基準金利が約0.15%上昇しました。しかし、一部の銀行は優遇幅の拡大によって実質的な適用金利を据え置く対応を取っています。
10月には石破首相が追加利上げに慎重な姿勢を表明したため、多くの金融機関が住宅ローン金利の据え置きを継続する方針を示しています。
一方で、2024年最大の政治イベントであるアメリカ大統領選挙では、トランプ氏が勝利しました。トランプ氏の掲げる減税やインフラ投資といった経済政策はインフレ圧力を高め、間接的に日本の金利上昇をもたらす可能性があります。
これまでの経緯から推測すると、金融機関間の競争や政策的な配慮から、急激かつ大幅な金利上昇は考えにくい状況といえるでしょう。そのため、今後も金利タイプの主流は変動金利だと考えられます。ただし、特に長期のローンを組む場合は、金利が上がって返済額が増えるかもしれない、ということを想定しておいてください。
また、「返済額が増えるのはどうしてもイヤ」という人は、変動金利より金利は高くても最初から長期固定金利のフラット35などを選んでもよいでしょう。
状況によっては借り換えもできるため、金利の動向からは目を離さないようにしましょう。金利の動向はニュースの他に、住宅ローンの比較サイトなどをチェックするとわかりやすいです。
これから変動金利を選ぶ場合に心がけてほしいこと
今後、変動金利で住宅ローンを組む場合、無事に返しきるまでに心がけてほしいことがいくつかあります。
最後まで無理なく返済を続けられるか
大雑把に言うと、住宅ローンの審査は現在の収入と金利での返済が可能であれば通ります。しかし、返済はマラソンのような長期戦です。大切なのは、長い返済期間中に金利が上昇して返済額が増えた場合や、教育費などの支出が増えた時期でも返済を続けられるかどうかです。
たとえば、4,000万円を35年で借りた場合、当初の金利が0.5%なら月々の返済額は約10.4万円ですが、10年目に金利が2%に上昇すると約11.7万円に増加します。 この差額1.3万円を、教育費のピーク時期と重なっても支払い続けられるでしょうか。
長期のローンを組む場合は、家計が最も厳しい時期でも返済に困らないかを考え、無理なく返済できる金額に合わせて物件の予算を決める必要があります。
金利が上がらなければ無理に繰り上げ返済はしなくてよい
住宅ローンを少しでも早く返済したいと考え、繰り上げ返済を検討する人も多いでしょう。
しかし、変動金利で金利が上がらない、あるいは上がったとしてもわずかな場合は、繰り上げ返済を急ぐ必要はありません。
特に、住宅ローン減税を受けている間は、ローン残高に応じて所得税の還付額が決まります。そのため、ローン残高を減らしてしまうと、せっかくの減税効果を十分に活用できなくなってしまうのです。
また、繰り上げ返済のために貯蓄を使いすぎると、急な出費に対応できなくなる可能性もあります。必要以上に手元のお金を減らさないようにしましょう。
住宅ローン金利以上で運用していざというときに備える
低金利の住宅ローンで浮いた資金は、運用して将来に備えましょう。
たとえば、住宅ローン金利が0.5%のとき、繰り上げ返済ではなく年利1%で運用すれば、0.5%分の利益が生まれます。100万円なら年間5,000円の差益となり、長期で積み上げると、さまざまな用途に活用できます。
ただし、預貯金だけでは住宅ローン金利を上回る運用は難しいのが現状です。また、債券のような比較的安定的な資産でも、元本割れのリスクはゼロではありません。しかし、年利1%程度を目標とする場合、慎重な運用であれば大きな損失を避けられる可能性が高いでしょう。もちろん、リスクを取れる人は、それ以上のリターンを狙うこともできます。
余裕資金を運用していて住宅ローン金利が上昇してきたら、状況に応じて運用した資産を繰り上げ返済に充てるとよいでしょう。
団信は特約付きを選び、不測の事態に備える
住宅ローン返済中には、健康リスクへの備えも必要です。民間の住宅ローンでは団体信用生命保険(団信)への加入が必須ですが、通常の団信(一般団信)は、死亡・高度障害時のみが保障対象です。
一方、特約付き団信なら、死亡・高度障害以外のがんなどで所定の状態になった場合でも、住宅ローンの残債分が支払われます。特約付き団信には「がん保障特約付き」「3大疾病保障特約付き」「8大疾病保障特約付き」などがあり、金融機関によって取り扱う種類は異なります。
がんになった場合に住宅ローンの残債分の保険金を受け取れる民間の生命保険に加入すると、年齢にもよりますが、保険料は数万円 になるでしょう。
しかし、3大疾病保障特約付き団信の場合、一般的に年0.2~0.3%程度の金利上乗せで、がん・急性心筋梗塞・脳卒中にかかったときの保障を得られます。たとえば、4,000万円を35年で借りた場合、金利が0.5%なら月々の返済額は約10.4万円ですが、0.8%なら約10.9万円と約5,000円が保険料相当となります。
つまり、住宅ローン返済中の健康リスクに備えるなら、民間の生命保険より特約付き団信を活用するほうが合理的といえるのです。
ゼロ金利解除後も、住宅ローンの変動金利の優位性は変わらないでしょう。けれども、変動金利を選んだ人は、金利が上がる前提で返済を続けることになります。以前よりシビアな状況になりますが、リスクヘッジをしながら乗り切っていきましょう。
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