
休日に求めているのは自己啓発より教養
読書のマイブームは常に何かしらあるが、年始からしばらく「原点回帰」をテーマに本を読んでいる。
特に集中して読んでいるのが、前回ご紹介した白洲正子・幸田文・須賀敦子。
三人に共通する強烈な美意識をシャワーのように浴びていると、自分がいかに文化的に軟弱かが浮き彫りになる。教養がないのだよ、教養が……。
コスパよくタイパよく、要領よく便利と見栄えを取りいれて生きていくことは否定しない。現代的で軽やかで結構なことだと思う。でも三十代も後半になって、それでは満足できなくなってきた自分がいる。自分の軽薄さが情けない。もっと、自分の根っこをしっかりさせたい。「美意識のある人」になりたい。
私もそこそこ賢くなってきたので、この渇望に特効薬が無いことは直感で分かっている。むしろ、「分かりにくさ」「面倒くささ」「あいまいさ」に真正面から向き合うことが大事なのだろう。薄靄のなかを探り探り歩く中で、もし私にセンスとチャンスがあれば、いつの間にやら身に付くものがあるのかもしれない。
そんな風に思えるようになったのは、実は幻冬舎plusのおかげ。1年と少し前に、幻冬舎plusのイベントで日本の古典芸能について話を聞いたときのこと。歌舞伎や能について楽しそうにおしゃべりする九龍ジョーさんと乙武洋匡さんの話を聞きながら、「今の私に必要なのは古典鑑賞では?」とビビっときたのがきっかけだ。
その後着物を始めたことも、古典芸能の世界に足を踏み入れる背中を押した。1年を振り返ってみると、歌舞伎・能・日本舞踊・落語……毎月何かしらの舞台を鑑賞できた。
加えて、クラシック音楽やオペラ・バレエに関しても周囲に愛好家が多いので誘ってもらう機会に事欠かない。今年もぜひ、いろいろな芸術に触れる機会を持って、平日に鍛えている能力以外のものを育てたい。
金曜日の帰り道、職場での課題や悩みで頭がいっぱいなとき、週末の予定を思い出すと心がふっと軽くなる。「休日も、仕事に関連する自己啓発を」なんて言う声には背を向けて、私は美意識を育てたい。教養を身につけたい。自分をもっと豊かで包容力のある、大きな人間に育てたい。
「美の賢人」の本を読むのに疲れたら、「生徒」サイドの物語を手にとりたくなる。私と同じように背伸びをして、美への憧れを募らせる女性たち。彼女たちに励まされながら、また週末を目指して今日も働く。
『日々是好日』(森下典子/新潮文庫)
先生は手順だけ教えて、何も教えない。教えないことで、教えようとしていたのだ。
それは、私たちを自由に解き放つことでもあった。――『日々是好日』より
両親のすすめで始めたお茶のおけいこ。ルールやしきたりにがんじがらめの茶道の世界に目を白黒させながらも、毎週こつこつ通った先生のご自宅。何を聞いても「それがお茶なの」と答える先生には不思議な威厳があり、就職や恋愛でつまづいたときも、お茶に来ればいつもなんだか心が落ち着いた。お茶のおけいこと共に人生を歩んできたライターの森下さんが、先生との豊かで静かな日々を振り返るエッセイ。
『歌舞伎座の怪紳士 』(近藤史恵/徳間文庫)
毎月でなくてもいい。何カ月に一度でもいいし、年に一度でもいい。舞台を観続けられるようになりたい。
そのためには、やはり働きたい。――『歌舞伎座の怪紳士』より
パワハラが原因で会社を辞めた久澄27歳。働きに出ている母のために家事をして、姉の犬の世話をして日々が過ぎていく。「このままではいけない」と焦る久澄のもとに、父方の祖母から変わったアルバイトの話が舞い込んでくる。「私の代わりに舞台を観に行き、感想を伝えること」。歌舞伎座なんて、何を着て行けばいいの? 演目は理解できるかな? オペラなんて初めて! 会場で出会う不思議な紳士のエスコートにより舞台の面白さに目覚めていく久澄に、自分の人生に向き合う勇気が湧いてくる。
『銀太郎さん、お頼み申す 』(1~6巻、東村アキコ/集英社)
着物を着るようになってから
着物の柄
お菓子
そしてお香
色んなことがつながっていく――『銀太郎さん、お頼み申す』6巻より
街のコーヒーチェーンでアルバイトするさとりは、ひょんなんことから元京都の芸妓の銀太郎に出会う。今は東京で器屋を営む銀太郎に弟子入りし、着物の世界に飛び込んださとり。現代っ子の感覚ではとうてい理解できない和文化のあれこれに驚きつつ、銀太郎とその仲間たちの指南により、その面白さにどんどんはまっていく。着物をきっかけに、四季折々の風景、身の回りにひそむ文様、人々の心配りに気づいていくさまをビビッドに描く東村アキコワールド。
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コンサバ会社員、本を片手に越境する

筋金入りのコンサバ会社員が、本を片手に予測不可能な時代をサバイブ。
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