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春はまた来る

2025.02.28 公開 ポスト

「女子だけインカレっておかしくない?」早稲田女子が覚えた違和感とは絶対に終電を逃さない女/真下みこと

インカレ(インターカレッジ)サークルとは、大学の垣根を越えて学生が集まり、交友を深める場所のこと。しかしその実、「女子だけインカレ」のサークルが多いのはなぜなのか――。早稲田大学在学中から、そのことに違和感を覚えていた真下みことさんが書きあげた新作小説『春はまた来る』は、名門大学理工学部に所属する順子が、高校の同級生で女子大に進学した紗奈と、インカレサークルを介して再会するところから始まります。インカレサークルへの違和感をSNSに吐露したことのある文筆家で、同じく早稲田出身の「絶対に終電を逃さない女」さんと行った対談の、前編をお届けします。

*   *   *

いつかどこかで書かないと、と思っていた

真下みこと(以下、真下):2016年に終電さんが〈男子オール早稲田 女子インカレのサークルはその理由を新入生にちゃんと説明しろ〉とTwitter(現X)に投稿されていたのが印象的で。今作についてお話をするならぜひ、終電さんとがいいと思ったんです。

絶対に終電を逃さない女(以下、終電):お話をいただくまで、そんな投稿をしていたことはすっかり忘れていたんですけど、『春はまた来る』を読みながら、当時抱えていた違和感がよみがえってきました。私は大学3年生で、サークルの幹事長(代表)をしていたんです。新歓(新入生歓迎)活動期間に、ふと「女子だけインカレっておかしくない?」と気がついて。

真下:しかも「男子は早稲田、女子は女子大」という、早稲田の女子が参加していないサークルも多いんですよね。

終電:でも実をいうと、1年のときは全く、疑問に思っていなかったんです。作中にあった一姫二女三婆四屍いちひめにおんなさんばあしかばねというフレーズも、耳にしていたはずなのに笑って聞き流していた。早稲田だけの造語だと聞いたことがありますが、改めて聞くとひどい表現ですよね。

真下:別の小説で使おうとしたとき、編集者の方から「表現がきつすぎるのでやめましょう」と言われたこともありました。でもいつか、どこかで書かないと、と思っていたんです。マイルドな表現にしてしまったら絶対に伝わらないものが、そのフレーズにはあると思ったから。

終電:作中に登場する「ライムスマッシュ」みたいなインカレサークルも、きっとあっただろうな、今もあるかもしれない、と思いました。ただ、紗奈のような女子大の女の子だけがちやほやされるかといえばそうでもなくて。順子のように、女子の少ない学部に所属すると、ホモソーシャルなノリに迎合した女子として尊重される、歪な状況も生まれるんだなと、読んでいておもしろかったです。

真下:高校までは男子としゃべったこともない、存在をスルーされてきた順子のような子が、急に男社会でうまくやっていかなきゃいけなくなる。そうなると〈女子大の子、頭悪くて話にならない〉なんて言う同期にあわせて、無自覚に笑ってしまうこともあるだろうなと思いながら書いていました。

男子のまなざしを内面化してしまった女性たち

終電:学部の同期の男の子が順子に〈髪とか染めないでね〉って言うシーンもリアルでした。私も、仲の良かった男の先輩に「化粧とかあんまりしないでほしい」と唐突に言われたことがあるんですよ。私のことが好きなのかな、と一瞬思ったけど、そういうことではないんですよね。その先輩は、サークルで一番人気のあった女の子とその後つきあっていたし。

真下自分のなかにある、純粋無垢な女の子像を壊さないように生きてほしい、みたいな願望があるのかなと思います。あとはやっぱり、順子と紗奈のように、タイプの違う女子同士が仲良くなってほしくない……連帯することをおそれているのだろうな、と。冒頭に、高校時代の順子が、女子を「可愛い」「可愛くない」でランク付けするシーンに立ち会ってしまう場面を入れたのも、そんなふうに少しずつ女子は分断されているのだということを描きたかったから。

終電:その分断に、いつのまにか女性たちも飲み込まれているんだなと、読みながらはっとさせられました。在学中、入会に顔審査を設けているサークルをいくつか見かけたんですよ。新歓活動期間に女子トイレで「うちのサークルにかわいい女来た?」「いや、だめ」っていう会話が聞こえてきて、男子だけでなく女子もビジュアルで選別する側にまわっているのかと驚いたのを覚えています。冒頭のそのシーンで紗奈が男子と一緒に笑っていたように、無意識のうちに男子のまなざしが内面化されてしまっている。それは、とても悲しいことだなと思います。

真下:私も「早稲田の女子と女子大の子たちは全然違うから」みたいに同期の子たちに言われたとき、そのまま流してしまったことはあるんですよね。どうして大学が違うだけで「全然違う」とまで言われなくちゃいけないんだろう、とはずっと思っていたけれど……。

終電:積み重ねで「そういうものか」と思ってしまうところもありますよね。でも、順子と紗奈は腹を割って話したことで、お互いに相手を自分と違うタイプと決めつけ、馬鹿にしていた自分自身に気づくじゃないですか。あそこ、すごくよかったです。女子大の子に限らず、自分と違ってキラキラしているように見える女の子たちに対する偏見が、正直、私にもあったなと気づかされました。私は紗奈と同じように、ジェンダー論の授業をとることで構造の歪さに気づけたけれど、機会がなければ疑問に感じることもなかったのかと思うと、それ自体も結構怖い。

真下:私は理系の学部だったので、ジェンダー論に触れる機会もなくて。たまたま「インカレサークルって変だな」と思ったから、本を読んで学ぶこともできたけど、もっと誰もが気づきを得られる機会が、身近にあるといいのになと思います。今作が誰かにとって、きっかけの一つになれば嬉しいです。

構成・文/立花もも 撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)
小説幻冬3月号より転載

関連書籍

真下みこと『春はまた来る』

名門大の理工学部に通う順子は、大学二年の春、高校の同級生で女子大に通う紗奈と再会する。高校生の時は「上」の人間だった紗奈と、「下」の人間だった順子は話したこともなかったが、不思議と二人の間には友情が芽生える。インカレサークルで「高学歴」男子と交流する紗奈が、ある日性被害に遭い――。 注目の作家が描く、ボーダー超越系友情小説。

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春はまた来る

2月19日発売の真下みことさん『春はまた来る』に関する記事を公開します。

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絶対に終電を逃さない女

1995年生まれ、早稲田大学卒業。エッセイを中心にWebメディア、雑誌、映画パンフレットなどに寄稿。著書に『シティガール未満』。

真下みこと

1997年生まれ。早稲田大学大学院修了。2019年『#柚莉愛とかくれんぼ』で第61回メフィスト賞を受賞し、2020年同作でデビュー。その他の著書に『あさひは失敗しない』『茜さす日に嘘を隠して』『舞璃花の鬼ごっこ』『わたしの結び目』『かごいっぱいに詰め込んで』がある。

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