
アイドルとして長年活躍しながら、現在はサラリーマンの顔も持つ村上信五さん。自身初となる著書『半分論』は、アイドルが書いた哲学的概論として話題沸騰中。単純な二者択一的な考え方を超え、思考の幅を広げることにより、人生を充実させるためのヒントが詰め込まれている。『半分論』によって導かれた、彼自身の学びやキャリアとは?
(小説幻冬2025年5月号より転載)
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――「半分論」とはどういう考え方なのでしょうか?
簡単に言えば、「AかB」とどちらかを選ぶのではなく、その間の選択肢も考えてみようということです。
僕たちは、子どもの頃から「イエスかノーか」「やるかやらないか」の二択で物事の判断を求められることが多かったと思います。でも、実際の人生はそんなに単純なものではないし、二択の“間”に存在する多くの可能性に目を向けて、選択肢を膨らませていくほうが、より柔軟に生きることができるはず。
例えば、僕でいえば大阪から東京に出ていくとき、「行くか行かないか」だけではなく、「いつ行くのか? どのように行くのか? 誰と行くのか?」といった視点を持つことで、選択肢の幅が広がり、納得のいく決断ができたなと思います。
――決断の前に、まず多くの選択肢を考えることでより納得できる答えにたどり着けると?
たくさんの選択を重ねていくと、自分がよしとする答えの精度は高くなっていく。そこを自分の軸として持っておくと、他人の意見や評価に対して、「そういう考えもあるんだな」とおおらかに受け止めることができるようになったんです。すると心もラクになれました。
30年近くこの仕事をやらせてもらっている中で、ラジオの仕事を通して、いろんな職種、年齢の方たちの悩み相談を聞いてきた経験も大きくて、人様が悩んでいることってだいたい一緒だなと。
その上で、ここ2年間ほどサラリーマンをやらせていただき、タレント目線では通じない社会のルールも体感することで、よりシームレスに汎用的に僕の考えや思考法を落とし込んだのが『半分論』です。
――この考え方は、いつ頃から意識されていたのでしょうか?『半分論』が生まれた背景は?
振り返ってみると、ずっとこの考え方で生きてきたように思います。
特に10代や20代の頃は、さまざまな葛藤があって、悩むとなるとどうしてもネガティヴな要素が強く出てしまう。だから、悩むのではなく考えるという思考に無理やりですけどシフトしていって、「AがダメならB」「BがダメならC」と考え続けることで、道が拓けていった。
当時はまだ、この考え方に確信を持っていたわけじゃなくて、本を書き終えたときに『半分論』と後付けした感覚。書いている最中は、自分が「こういうふうに考えて生きてきたんだ」と整理することができましたし、書き終えたときは、それまで無意識にやっていたことが、積もり積もってカタチになった瞬間でした。
別に説教するつもりはないんですけど、インターネットのある生活がごく当たり前になってから、むちゃくちゃ最短で答えを探すことがよしとされて、なんでも効率化を求められてしまう。それが、日々の仕事にも反映されているし、エンタメにさえ感じるんですよね。音楽もイントロなしで、すぐにサビ。15秒で心に刺さるメロディーと歌詞を届けられないと聴いてもらえないとか。映画だって、1.5倍速で観るような時代。
その風潮がいいか悪いかというのはさておいて、ご自身の生活で置き換えたときに端的に答えを求めてもあんまり自分の中に残っていないと思うんです。
でも、自分で悶々と考えて、ひねり出した答えやったらきっと残ると思うんですよね。納得もできるし、納得できるからこそ心に残っていく。人に何か聞かれたときにきちんと自分の言葉で説明できるし、友達の悩みや相談にも心を伴って乗ってあげられると思うんです。ネットで調べて、誰かが出した答えに乗っかるだけじゃもったいない気がするんです。
考えるだけってタダでできるし、子どもの頃にしていた空想みたいに「こうなったらいいな」という理想と、今の現実とを照らし合わせてみる。
理想と現実の間の部分って無限の可能性があるので、思考術が身につけられたら、人生ってもっと豊かに楽しくなるはず。
――村上さんの思考のプロセスを書籍一冊にまとめられたわけですが、自分の言葉で書き下ろす作業はスムーズでしたか?
書籍にまとめたような自分自身の言葉や考え、過去の経験を発信する場は意外と少なくて、今までは考えてきたことを蓄積するばかりだったんです。改めて文字として書き出していくと、頭の中を整理できましたし、気持ち的にはスッキリという感覚が一番近い。
ゾーンに入っていたせいか、2024年12月から書き始めて、実質2ヶ月ほどで書き上げることができました。
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他にも、村上さんが新しいことを学ぶ際の指針など、たっぷりお話いただきました。また、撮りおろし写真も多数掲載! ぜひ続きは、小説幻冬2025年5月号をお手に取って、ご覧ください。
取材・構成/長嶺葉月、撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)、ヘア&メイク/滝波一樹(GON.)、スタイリング/和田ユキヨ
ジャケット¥290,400、シャツ¥61,600、パンツ¥96,800、シューズ¥86,680 全てボス/ヒューゴボスジャパン(03-5774-7670)
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