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衰えません、死ぬまでは。

2025.03.04 公開 ポスト

第24話 筋トレへの回帰と、新たなる不調(前半)

還暦を超えた宮田さんが同窓会へ行ってみると、4人中3人が散歩をはじめていた!宮田珠己

前回の宮田さんは、中性脂肪が激減したのに体脂肪率がアップしたり、散歩を頑張っているのに筋肉が増えていなかったりで、悩みはじめました。悩みは続く…?

*   *   *

また同窓会があった。還暦にもなると同窓会ラッシュである。

高校時代の仲が良かったグループ男子4名のミニ同窓会。

 

居酒屋で顔を合わせた瞬間、一気に昔に戻った。昔の同窓生に会うといつも不思議に思うのは、もう40年以上経っているのに、なぜかみな昔と同じ顔だということだ。もちろん白髪もいれば、禿げた者も、太った者もいる。それでも顔面は同じである。

(写真:宮田珠己)

昔見た大人はみんな大人の顔だったのに、今見る同窓生はみんな高校生顔。われわれは成長していないのか。昔は60歳なんて今にも死にそうに見えたが、あれは何だったのか。

私はすでに父が死んだ年齢を超えているわけだが、亡くなる前の父はもっと老人だった。目の前にいる同級生のほうがより老人であるべきなのに、そんなふうに見えないのであった。謎だ。 ところで、驚いたのは、自分を含め4人中3人までもが散歩をはじめていたことである。スマホの歩数計を見せあって、お前もか、と盛り上がった。3人とも1日1万歩を目標としているところも同じ。さらに、散歩を意識しはじめたのが、コロナで不要不急の外出を控えるようになった頃というのも同じ。思わず、

「コロナ以降、散歩ブームが来てる気がする」

と身を乗り出すと、

「いや、この歳になると自分のまわりがみんな歩きはじめるだけだろ」

と、友人はにべもなかった。

ちなみに私はフリーランスだから時間があるけれど、いまだ会社勤めのふたりはどうやって散歩の時間を確保しているのだろう。聞いてみると、もともと仕事中に6~7000歩ぐらい歩いているから、あと3~4000歩追加で歩けばいいのだと友人は答え、それだと1時間もあれば十分なんだともうひとりが言った。

なるほど会社への通勤だけでも結構な歩数になるし、営業で出かけることだってあるだろうし、そういう意味では、会社に勤めていない自分は結構熱心に散歩しているつもりでも、サラリーマンの平均とたいして変わらないのかもしれない。みんなは、わざわざ散歩する必要もないぐらい仕事で歩いているのだ。仕事中ほとんど机に座っている私は、もっと歩かないといけない。

(写真:宮田珠己)

以前から散歩に凝っていることは書いてきた。今では自分が歩いた道をグーグルマイマップにマッピングして、網の目のようにはりめぐらされた自分の足跡を眺めるのが日課になっているほどだ。

そして最近はさらに、スマホにいくつもの散歩アプリをインストールして、ポイ活みたいなこともやっている。

アプリによっていろいろだが、歩けば歩くほど(正確には広告を見れば見るほど)ポイントが貯まるアプリがたくさんあり、そのポイントに応じて電子マネーがもらえたり、自販機でペットボトルがただでもらえたりする。ありがたいことにアプリは重複しても問題ないから、アプリを入れただけ、多くの特典が手に入るのである。この世に存在するすべての散歩アプリを入れて歩き倒せば、それだけで働かずに暮らしていけるのではないか。

といっても現実には、相当な歩数を稼がないと(相当な広告数を閲覧しないと)十分なポイントは貯まらないが、それでも好きで歩いているのだから、こっちは何も失うものはない。

某飲料メーカーのアプリでは、歩くことでスタンプが貯まり、それらが一定数に達すると自販機で一本飲み物が無料になるので、今はそのアプリを一番活用している。スタンプを入手するために、もうあと1000歩だけ歩いておこう、なんて日もあるから、明らかに健康増進に役立っている。

願わくば他の飲料メーカーでも同様のサービスをやってもらいたいが、今のところその気配はない。コンビニでお昼を買うときなど、飲み物は買わず、外に出てそのメーカーの自販機を探すようになった。おかげで私が一番好きな飲み物「午後の紅茶 おいしい無糖」から最近遠ざかっている。キリンは私の「おいしい無糖」離れを防ぐためにも早急に散歩アプリを導入すべきである。

それともうひとつ楽しく活用しているのが「散歩で日本一周」というアプリで、これは自分の歩いたのと同じだけグーグルマップ上のアイコンが進むもの。私の代わりにそのアイコンが日本一周してくれるのである。現在地をストリートビューで見ることができるのがミソで、どこらへんまで進んだかなと、歩くたびにストリートビューで確認している。これまでにも東海道を歩いたりするアプリはあったが、それは距離から換算して今何宿に到着とか教えてくれるだけで、実際にどこを歩いているとかはわからず、地図の上を進んでいる感覚もなかった。その意味で、これこそは散歩アプリの王道というか、そうそう、そういうふうに伝えてほしかったんだよという、かゆいところに手が届くアプリなのだった。

(写真:宮田珠己)

ただ、それほどハマっている散歩なのだが、実は最近、疑念を抱きはじめてもいる。

というのも、歩いても歩いても何も変わらないのである。

歩くことは健康にいいと誰もが言う。病気の9割は散歩で治るみたいな、そんな感じのタイトルの本も見た気がするぐらいで、現代人の散歩信仰は揺らぐことがない。

だが、この5年間歩き続けてきた私に言わせると、べつにたいした変化は感じられないのだった。先日激減していた中性脂肪も、散歩3年目では逆に増えていたぐらいだから、散歩は脂肪の改善に関与していないように思われる。

なにより筋力がついている感じがしない。いまだ何の根拠もないところで躓くし、しゃがんだ姿勢から立ち上がるのがちょっときつくなってきたし、全力疾走もできないままだ。とくに運気が上がってる感じもない。

散歩って、ほんとに効果ある?

もちろん知らない道を歩くと気持ちに少し張りが出るということはあるし、自分の足跡地図を眺めるのは楽しい。そういう精神的な喜びは感じるものの、散歩によって肉体が進化した実感はゼロ。それとも進化はしなくても退化するのを防いでいて、変化がないことこそが効果の現れということだろうか。

(後半へつづく)

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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか悶々。まじめに老化と向き合おうと一念発起。……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『ニッポン47都道府県 正直観光案内』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』『のぞく図鑑 穴 気になるコレクション』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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