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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2025.03.12 公開 ポスト

オタクの親とオタクじゃない親、どちらがありがたいのかカレー沢薫

刀剣乱舞が10周年を迎えたようだ。

つまりあれから10歳年を取ってしまったという事実に驚愕だが、10年前とてさほど若かったわけではない。

0歳と10歳とでは昆虫とブルドッグぐらいの差があるが、30代と40代は蝉と七日目の蝉程度の差でしかない。

しかし、今までハマったジャンルは数あれど、あれほどアクティブに活動したコンテンツはない。

生まれて初めて自分で同人誌を作って大阪や東京まで売りに行ったし、会社に行くのを途中で辞めて、新幹線に乗り込みへし切長谷部(本刀)を見に行ったり、長谷部が作っているうどんを食べに行ったり、現物から幻覚まで様々な物を見に行った。

若くはなかったが、体力的にはまだギリギリ動け、かつ学生時代ほど行動に制限がなく、今思えばベストな時期にハマったと言える。

だが、もし70歳ぐらいで何かにハマったとしても「とにかく時間だけはある、今がまさにベスト」と言っているような気はする。

オタクにタイミングなどない、今立っているそこが常に最前線だ。

しかし10周年ということは、当時二十歳だった人間も蝉になっているころだし、私と同世代のファンも多いあろう。一方で途中から参入してくる中高生もいたりする。

よって刀剣に限ったことではないが、長く続くジャンル内の年齢分布はかなり広範囲である。

実際私より20歳年下の姪も刀剣ファンだそうだ。

これは、老とカラオケに来た若が青い珊瑚礁を歌い出すような気づかいではないし、こちらもそこまでは古くはない。

忖度カラオケは年代を10年単位でミスると逆に気分を害されるので好きな曲を歌うのが最善である。

昨年末、義父が急逝し、親戚一同が会したのだが、その時姪に「伯母さんのPNってカレー沢薫ですよね」と聞かれたのだ。

親戚にペンネーム呼びされる時点でかなりヘビーであり、ここから記憶が曖昧なのだが、要するにたまたま読んだ刀剣乱舞のアンソロに私が寄稿していたのを見つけたと言っていたような気がする。

漫画家をやっているのは知られているが、ジャンプで描いていないため、誰も自分が描いているものを知らず、親戚内で無職よりも腫れ物化するというのは零細漫画家あるあるだ。

しかし、自分が描いた漫画を身内に読まれるぐらいなら無職と思われていた方がある意味楽であり、危うく棺桶で寝ているお義父さんのお隣に失礼するところだった。

ともかく「アンソロ」という、知らない人間は一生知ることのない単語が出て来たのを見るに、かなりの刀剣ファンとみて良いだろう。

「それお母さんが好きでした」は若が中高年を殺す滅びの呪文だが、最近は「それお母さんが好きだし私も好き」もそこまで珍しいことではではないのだろう。

「親と路線が同じ」というのはアドバンテージと言ってもいい。

もちろん親が漫画やゲーム好きだからと言って、子どもが際限なくそれを与えられるわけではない。

しかし、親がその分野に全く精通していないと、自分が何を欲しているかさえが親に伝わらず「コレジャナイ」が起こりがちなのだ。

お母さんにジャンプを買ってきてと言ったらサンデーを買ってきたという怪現象はお母さんがカタカナを読めないわけではなく。漫画雑誌というシステムさえ理解していないため、漫画が描いてあればどれでも同じようなものという雑感覚で起こるものだ。

私が中学生の時、2週間ほど入院することがあった、その時母が暇つぶしにと適当に買って来た漫画雑誌は「プリンセス」であった。

私は母の前でプリンセスを読んだことは一度もなく、ガンガンやギャグ王とかを読んでいたはずだが、母には同じにしか見えないのだ。

私は当然「コレジャナイ」と文句を言ったのだが、何が気に入らないのかさえ母には理解できないため、仕方がなく前後が全くわからないエロイカより愛をこめてを精読したのを覚えている。

親と路線が同じであれば少なくとも「話が早い」という点では助かるのだ。

しかし「親が自分がやっていることをすぐ理解してしまう」という意味では諸刃の剣である。

私の親は全くオタクではない上、インターネットを見ない世代である。

よって私がいかがわしい絵を描いてネット上に公開するという脳内露出行為に興じていても、親は子供が何をやっているかさっぱりわからないのだ。

しかし、親が同じ界隈だと、子どもがそういう合法公然わいせつをしていると瞬時に理解するし、ジャンルやカップリング、BLや夢など、属性まですぐに理解するし、アカウントも巧妙に隠しておかなければすぐに特定されてしまうだろう。

もしかしたら、最近の親子はそういったこともオープンであり、推しのライブに一緒に行く感覚で、押しカプの8合同誌を作って即売会参加までしているのかもしれないが、少なくとも私は中高生時代に自分が描いていたものを親に見られたら8時間ぐらい家出すると思う。

だが、知識がない親も子供がなにやっているかはわからなくても、コソコソと何かやっているのは気になるものであり、もっと大それたことをしでかしているのではないかと思われてしまったりもする。

いらぬ疑いをかけられるぐらいなら、一瞬で推しの絵を描いてpixivに投稿しようとしているだけだと理解し、見て見ぬふりをしてもらえた方がありがたいのかもしれない。

だが子どもが中学生以下の場合は、親として「それ10年後黒歴史になるからネットに上げるのはやめたら?」ぐらいは言ってあげてほしい。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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