
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
* * *
元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第43回 恩田陸『珈琲怪談』

こう宣言して始まる、男だけの酔狂な世界。
異界が覗き、怪異が似合う古い街
─京都、横浜、東京、神戸、大阪、再びの京都。
なぜ働き盛りの四人は、遠征の上、喫茶店を何軒も
ハシゴしながら、怪談を持ち寄って披露し合うのか─。
ひと味ちがう"ホラー作家〟恩田陸の怪談は、
じわじわ効いて毎日の生活が怖くなります。
塚崎多聞シリーズ、17年ぶりの新作!
皆さん、こんにちは。珈琲とジョークはブラックに限る。ブラック好きのアルパカ内田です。
さすがの味わい。著者の熟練の技を堪能できる物語だ。内容はほぼ実話という恐怖譚である。喫茶店に集った四人の男たちは、土地の匂いと珈琲の香りを愉しみながら、それぞれ持ち寄った怖い話を披露する。日常にぽっかりと開いた異界への扉。不気味な気配の向こう側に隠された禁断の風景。淡々とした語りの中から様々な光と闇が見えてくる。
舞台は京都、横浜、東京、神戸、大阪という誰もが知る五つの街。古都があれば現在の首都、そして万博で賑わう大都会もある。意識を持った地霊が重なって、新たな風景を形づくる。港町の横浜と神戸は異国との邂逅の場所。夢と現実、彼岸と此岸を行き来するストーリーの舞台に相応しい。
読みながら奇妙な気分に取りつかれた。とりわけ神保町は、かつて勤務していた書店もあって個人的に馴染み深い街。いつの間にか物語の中に、自分の姿がはっきりと見えた。登場する喫茶店は、具体的な店名こそ明かされないが実在している(していた)店ばかり。脳内で聖地巡りができるのも魅力のひとつだ。
そしてこの『珈琲怪談』を読んだ場所は、まったくの偶然なのだが旅先の京都であった。京都大学近くの老舗喫茶店、四条烏丸の交差点、西側から御所を横切る足どり。何者かの視線が感じられるほど、実際の行程とシンクロした。この物語は本というカタチを飛び越えて、読む者の懐にすんなりと入りこんでくる。これぞ本物。身体の内側からジワジワと湧きあがる恐怖がここにある。

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
- バックナンバー
-
- 恩田陸『珈琲怪談』/賀十つばさ『ドゥリト...
- 久坂部羊『絵馬と脅迫状』/越尾圭『ぼくが...
- 井上荒野『しずかなパレード』/真下みこと...
- 柳広司『パンとペンの事件簿』/天野節子『...
- 増山実『あの夏のクライフ同盟』/町田康『...
- 南杏子『いのちの波止場』/森沢明夫『桜が...
- 鯨井あめ『白紙を歩く』/岩井圭也『夜更け...
- 辻堂ゆめ『ダブルマザー』/中山七里『作家...
- 下村敦史『全員犯人、だけど被害者、しかも...
- 浜口倫太郎『コイモドリ時をかける文学恋愛...
- 水野梓『金融破綻列島』/柴田哲孝『暗殺』...
- 真梨幸子『教祖の作りかた』/村木嵐『まい...
- 新川帆立『女の国会』/宮田愛萌『あやふや...
- 門井慶喜『ゆうびんの父』/黒木亮『マネー...
- ヤマモトショウ『そしてレコードはまわる』...
- 岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ ト...
- 【特別編】コロナ禍が一段落した2023年...
- 重松清『はるか、ブレーメン』/伊東潤『一...
- 神津凛子『わたしを永遠に眠らせて』/脇屋...
- 八重野統摩『同じ星の下に』/梶よう子『雨...
- もっと見る