◆打合せでは誰かが怒って出ていくことも
――前回、『ギャングース』のおおまかな骨格は、連載が始まる前に固めておいたとうかがいました。そうだとしても、連載がスタートしたら、入稿(印刷所に原稿を渡すこと)は毎週、毎週やってきますよね。1回ごとのお話は、どういう流れでできるんですか。
関根 週1回、だいたい昼の1時ごろから集まり、夜まで長時間の打合せをして話を決めます。
――たとえば今週だと、何週先の打合せを? そんなにストックってできないですよね。
関根 打合せは本当にもうギリギリですね。読者の皆さんが読んでくださる2週間前に話をつくって、1週間前ぐらいに原稿が完成するという、ギリギリで回している感じです。
――私たち、そんなに鮮度ピチピチなものを読んでいたんだ(笑)。
関根 ピチピチでもありますし、何というか、過ちもいっぱい起き得る、みたいな緊張感は常にあります。
――『モーニング』は毎週木曜日発売ですが、校了(すべての編集作業の完了)は何曜日ですか。
関根 校了は基本的に発売日の2週前ですけど、そんなに理想的に行かないので、たいてい4日くらい遅れて、その前の週の月曜日とかになるんです。だから話を考える作業はちょうど発売日の2週間前ぐらいになります。
――毎週そんな綱渡りを続けるのは苛酷ですね。
関根 週刊連載の作家さんはみなさん「超人」です。休みがなくて常にフルスロットルの生活を強いられる。実際、そんなことができるのは、才能と気力と体力を兼ね備えた限られた人だけです。
――打合せでは、おおよその下敷きとなるようなアイディアがあって、そのうえで細かいところを詰めていくんですか。
関根 下敷きとまではいきませんが、全体の流れはあるので、それは意識しています。まず昼の1時に集まって、それぞれが次の話について、「こんな展開にしたらどうか」とか、「こうしたい」と言い合います。作画の時間を確保するためにも、打合せはなんとか1日で収めたいので、「ここだ」という線を固めていく。
週刊連載では、ある程度ストーリー展開に型があります。最初に読者の心をつかむような出来事が起きる「つかみ」、そこから一番盛り上がる「山場」に展開して、次週に興味を引っ張る「引き」というようにリズムが決まっている。そのなかで今回何ができるかというところが一つ。あとはこの回で何がやりたいかというか、どういうふうに持っていきたいかを決める。それが打合せのメインです。
そこでケンカになることも多いですね。鈴木さんは本当の、生のネタを見ているし、取材した方たちの壮絶な人生を見ているから、とにかく真実を表現してほしいという思いがある。それはすごくよくわかります。ただ、フィクションである漫画が漫画としておもしろくなければ、成立しないところがある。そこは常に綱引きになりますね。
――見解が割れてヒートアップするのは珍しくない。常にそんな感じですか。
関根 もう常にですね。それぞれ立場が違いますし、肥谷さんも鈴木さんも、今まで生きてきた人生が違うわけですから、当然、価値観が違います。だからやりたいことが対立するときもある。鈴木さんは、住む家もなくて、学校もろくに行っていない子たちの置かれている状況について、ものすごく情熱的にお話しされる。私も、もともとの性格なのか、家が昔経済的に厳しく困難な時期があったからか、そういうことを理解したい。でも肥谷さんは、実際の表現のバランスはとても難しい、と感じている。その両面を盛り込んでいったり、どちらかを捨てたりということは、ドラスティックにやらないとできない。だから議論が激しくなると、誰かが怒って出ていくこともあったりします(笑)。
――すごいですねえ。
関根 ただ、鈴木さんも肥谷さんも、よいものを作るという意味では、ものすごく誠実な方です。そこは絶対に裏切らない。だからこそケンカになっても最後は理解しあって、一緒にがんばれるんでしょうね。