◆現実を表現することと、フィクションとしておもしろいこととの綱引き
――現実とフィクションの綱引きになるというのは、たとえば肥谷さんが、「あるキャラクターがこういう場面で、こういうふうに行動してはどうだろう」と提案する。それに対して鈴木さんは、「現実の少年たちがそんなことをするわけがない」と言う。でも肥谷さんからしたら、「いや、それじゃストーリーとしておもしろくない」と意見が割れる、というようなことですか。
関根 おっしゃるとおりです。役者というか、その世界の住人としてのキャラクターのセリフや行動などのいわば「演技指導」は、基本的に鈴木さんにできるだけ全部見ていただいています。肥谷さんも『ギャングース』が鈴木さんあっての企画だということはすごく考えていらして、鈴木さんの指摘は基本的に一度すべて受け入れます。でも漫画を読ませるうえで大事なことってありますよね。いつもシリアスなムードばかりじゃなくて、たまに馬鹿なこととか、おもしろいことをやらないと読者が途中で飽きてしまう。今、この見開きで楽しめないと、読むのをやめてしまうというのが漫画の原則なので。そういうところはちゃんと、肥谷さんから鈴木さんに言っていただくようにしてもらっています。
――『ギャングース』は1回18ページ。そうすると、毎回毎回その18ページ分の内容を、丸1日かけた打合せで、ときにバトルしながら決めていくんですね。
関根 そうです。ただ、話が1回で収まらないこともよくあるので、2、3回分ぐらいの打合せをやることが多いです。打合せのあとにちょっと路線変更したりすることもよくあります。漫画って見開きごとにどんでん返しみたいなことが起きる構造にすることが多いのですが、それをもっと増やしましょうとか。そんな感じで柔軟にというか、行き当たりばったりというか(笑)。
――打合せは昼に始めて、夜には終わるんですか。
関根 そうですね。とても効率的とは言えないんですけど、夜中の12時までとか。
――12時間近くも!
関根 はい。これでも慣れてきて、やっとそれくらいで終わるようになったんです。最初の1年くらいはもっとヤバい局面がいっぱいありましたね。朝の6時ぐらいになっちゃうとか、着地しないとか、険悪な感じで終わる、とか(笑)。
――胃に穴が開きそう……。
関根 けっこうきついですが、ただ、それは『ギャングース』に限らず、昔から週刊連載の常のようでして。2日で話を作らなきゃいけないのに、まだ何もできてない、みたいなことはよくあるようです。
――打合せでなんとか着地したものを、今度は肥谷さんが漫画にしていく。
関根 肥谷さんが2日間ぐらいでネームにして送ってくださるので、それをまた見せていただいて、さらにどうおもしろくするかみたいなことをやっていきます。
――そこでも再び鈴木さんがご覧になるんですか。
関根 鈴木さんはものづくりに真摯な方で、最後まで責任を持ちたいというお気持ちもあって、チェックしていただいています。
――3人の一蓮托生というか、家族よりも誰よりも一緒にいる時間が長いとか、そんな感じですね。
関根 それはそうなりますね。漫画の週刊連載というのは世界中で日本しかないスタイルで、かなり特殊な世界だと思います。私もまだ経験が浅いのですが、先輩の話によれば、いろいろなことが起こるらしいです(笑)。