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『その青の、その先の、』が素晴らしすぎる!

2013.11.23 公開 ポスト

特別対談 椰月美智子×樋口毅宏

『その青の、その先の、』が素晴らしすぎる!(最終回)椰月美智子/樋口毅宏

自分の中にある「感覚」を大事にする 

樋口 椰月さんは、自意識過剰であったり、被害者意識が強かったりっていう、そういう人物を描かないでしょう。病気っぽいのを売りにしない。自分の周りに当たり前にいそうな人たちのドラマを書くじゃないですか。僕はそこが好きなんです。

椰月 嬉しいです、ありがとうございます。

樋口 椰月美智子作品の根底にあるのは優しさなんです。それって、涙もろい椰月美智子さんそのものなんですよね。瀧井朝世さんが『坂道の向こう』の解説に書いていてまさに言い当ててるなと思ったんだけど、「豪快だけど繊細、真っ正直だけど穿っている、明るいのに切実、複雑なのに透明」っていう。

椰月 もう非常に感動しました、それ! もったいないお言葉です。

樋口 そんな人、なかなかいないよ。一体、どっちが素顔なの?

椰月 えー。うーん、両方とも私です(笑)。

樋口 不思議なんです。児童文学的な作品を書いていた人が、『かっこうの親、もずの子ども』で、シングルマザーが精一杯子どもを育てる姿を書いたら、ふつうは「もう児童文学は卒業しました」っていう宣言とも捉えられかねないんですよね。でも、『かっこうの親、もずの子ども』を書いた後で女子高生の物語を書けるっていうのが不思議なんですよ。どうして椰月美智子はこう何度も青春に回帰できるのかって。遠い過去と現在を自由に行き来できるのはなぜなのかと思って。

椰月 大人向けの小説を書いても、「子どもモノ」を書くのが卒業とはまったく思わないです。やっぱりそこはそこで、大事なことがありますよね、伝えていくべきことが。なので、「大人モノ」も「子どもモノ」も私の中では同じなんですよ。たとえば絵本みたいな作品を書くとしても、自分の心意気というのは一緒ですよね。

樋口 普通、書き分けができないと思うんだよなぁ。

椰月 書き分け……。でも、子どもの頃のこととかも、自分の中にずっと残っているんですよ。なんかふとした瞬間にそういうのが蘇ってきて、書きたいと思ってしまうんです、その感覚を。

樋口 椰月さん、お子さんが二人いらっしゃいますけど、子育て、大変ですよね。洗濯もしなきゃいけないし、料理もしなきゃいけないわけですけど、そういう日々の生活の中で、小説脳が作動して何かを思いついてしまったときってどうするの? 急いでメモとか取るの?

椰月 メモは取らないですね。頭に残ってることだけを書く。やっぱり小説を書くのが好きなんですよね。好きなことを仕事にできているので、「ああ、これを書こう」とか「これも書ける」とか「これを書きたいな」とか、そういう思いが頭の中にあるんですよね。

樋口 プロットも書かないし、メモも取らないのか(笑)。俺なんか物覚えが悪いから、「メモ取らないと!」ってなっちゃうんだよね。フレーズ思いついたときとかも、「どっかに残しておかないと忘れちゃう!」って感じでバタバタしちゃう。

椰月 私にもそういう時期があったんですけど、結局、メモって読まないし、見ない。頭の中に残ってるものしか使えないんだっていうのがわかったから、書かなくなっちゃった。もうメモをするのはやめました。

樋口 すごいなあ。

椰月 すごくないよ(笑)。

樋口 ……長々と、椰月さんがなぜ『その青の、その先の、』に至ったのかっていうお話をうかがっていたんですけど、どうもありがとうございました。僕みたいな凡人とは違うっていうのがね、よくわかりました。

椰月 何を言ってるんですか(笑)。私のほうこそありがとうございました。樋口さんがこんなにも熱心に読んでくれてるなんて……嬉しかったです。(了)

(構成:編集部 写真:小嶋淑子) 

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『その青の、その先の、』が素晴らしすぎる!

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椰月美智子/樋口毅宏

椰月美智子 1970年神奈川県生まれ。2001年『十二歳』で第42回講談社児童文学賞を受賞しデビュー。『しずかな日々』で07年に第45回野間児童文芸賞、08年に第23回坪田譲治文学賞を受賞。他の著書に『恋愛小説』『体育座りで、空を見上げて』『どんまいっ!』『みきわめ検定』『枝付き干し蒲萄とワイングラス』『かっこうの親 もずの子ども』『るり姉』『ダリアの笑顔』『シロ シロクビハダ』『フリン』『坂道の向こう』などがある。

樋口毅宏 1971年東京都豊島区雑司ヶ谷生まれ。作家。出版社勤務を経て、09年『さらば雑司が谷』で小説家デビュー。著書の『雑司ケ谷R.I.P』『日本のセックス』『民宿雪国』『テロルのすべて』『二十五の瞳』『ルック・バック・イン・アンガー』『タモリ論』がある。

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