椰月美智子の書き方、樋口毅宏の書き方
椰月 さっきも「何も考えないで書いている」って言ったけど、私、プロットを全然立てないんですよ。
樋口 えっ、そうなの?
椰月 その場で書いていくので。だから結末もいつも決まってなくて、物語の着地点を自分の感覚で探しながら書いていく感じ。
樋口 ホントかよ(笑)。あなた、本当に天才ですね。
椰月 天才じゃないけどね(笑)。逆に、プロット書くというほうが信じられない。最初に物語の全体像が見えているという、そのほうがすごいです。尊敬です。
樋口 ある程度は頭の中で組み立てるでしょ?
椰月 うーん、あんまり(笑)。
樋口 書く時に出て来るんだ。
椰月 書く時に。
樋口 怖えーっ、何なんだ、それ。そっちのほうがすごいよ。
椰月 樋口さんはどうしてる?
樋口 着地は決めてある。
椰月 あ、ほんと?
樋口 着地点を決めておけば、どんなに道に迷おうとも、どんなに高い山に登ろうと、深い谷を下ろうと、「いいじゃん、最後はあそこなんだから。ゴールは決まってるんだから」って思えるし。
椰月 そうか。私はね、ある場面のシーンが写真のように何枚かあって、そこに向かって行くっていう感じ。通過点、通過点っていう感じで。
樋口 やっぱり、風景?
椰月 風景っていうより場面。
樋口 場面が思い浮かんで、それを文字にしていくような感じか。わかるわかる。でも、そうだったのか。椰月さんって、インタビューでも、あまり自分のことを語らないというか、そういうふうにして書いてるって知らなかったよ。
椰月 特に話すべきことは何も持っていないし(笑)。小説についても、読者の皆さんが自由に読んでくれたらいいな、って思ってて。どういう解釈をしてもらっても全然構わない。
樋口 僕の小説って、バンバン人を撃ち殺しちゃったり、男も女も見境なくヤリまくるんだけど、そんな僕でもね、椰月さんの小説の”そこはかとない輝き”にグッとくるんですよ。この優しさは貴重なんですよ。現代に必要なものなんですよ。
椰月 大げさだよ(笑)。
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