イチロー、スティーブ・ジョブズ、羽生結弦……。一流はみな「ネガティブ思考」で成功した! ネガティブ思考がもたらすメリットを、科学研究結果をもとに分かりやすく解説した『一流は知っている! ネガティブ思考力』。
仕事ができない人ほど自己評価が高い——多くの人が薄々感じていた謎が、実は証明されていた! 今回は「ダニング=クルーガー効果」の話からスタート。連載第四回です。
ここではダニング=クルーガー効果と呼ばれるものについてみておこう。
なぜかできない人物が自信満々で、できる人物の方が謙虚で自信なさそうな様子なのは、周囲を見ていて多くの人が感じることだろう。それを証明したのがダニングとクルーガーである。
すなわち、ダニング=クルーガー効果とは、能力の低い人ほど自分の能力を著しく過大評価し、能力のとくに高い人は自分の能力を過小評価する傾向のことである。
ダニングたちは、ユーモアのセンスなどいくつかの能力に関するテストを実施し、同時にそうした個々の能力についての自己評価をさせるという実験を行った。
その際、能力の自己評価にあたってはパーセンタイルを用いた。つまり、自分のその能力が下から何%のところに位置づけられるかを答えてもらった。たとえば、12パーセンタイルというのは、下から12%のところだから、自分はその能力がかなり低い方だとみなしていることを意味する。50パーセンタイルというのは、自分はその能力については平均並みだとみなしていることを意味する。80パーセンタイルというのは、自分はその能力は相当に高いとみなしていることを意味する。
実際の成績順に全員を4等分し、最優秀グループ、平均より少し上のグループ、平均より少し下のグループ、底辺グループに分けた。
ユーモアのセンスに関するテストの成績が下位4分の1に入る底辺グループの平均得点は12パーセンタイル、つまり下から12%のところに位置する、非常に低い得点となっていた。ところが、底辺グループの自己評価の平均は58パーセンタイルとなっており、自分は平均以上にユーモアのセンスがあるとみなしていたのである。
つまり、下から12%程度の実力しかないのに、本人たちは自分は平均以上の能力があるとみなしているわけで、自分の能力を著しく過大評価していることがわかる。
それに対して、最優秀グループでは、そのような過大評価はみられず、むしろ自分の能力を実際より低く見積もる傾向がみられた。
論理的推論の能力についてもみておこう。
底辺グループの実際の平均得点は12パーセンタイルなのに対して、自己評価の平均は68パーセンタイルとなった。論理的推論の能力はきわめて低いにもかかわらず、自分の論理的推論の能力は平均よりかなり高いとみなしているのだ。ここでも、自分の能力を著しく過大評価する傾向が明らかにみられる。
一方、最優秀グループでは、そのような過大評価はみられず、むしろ自分の能力を実際より低く見積もる傾向がみられた。
このような実験結果は、なぜか仕事のできない人ほどポジティブで、根拠もなく自信をもっているということを裏づけるものといえる。
できない人の方が楽観的で、自分の能力を実際以上に見積もり、できる人ほど不安が強く、自分の能力を実際以上に低く見積もる。これは、できる人の方が、現実の自分自身や状況を厳しい目でみているため、自分を過信するよりも、まだまだ力不足だと思うということだろう。それがさらなる成長の原動力になるといった好循環になっている。
こうしてみると、ポジティブであればいいというわけではなく、ポジティブ信仰にはまるのは非常に危険で成長を阻害する面があると言えるだろう。
※最終回は6月14日公開予定です。