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うちの娘はAV女優です

2017.01.25 公開 ポスト

「親公認AV女優」を生む環境の変化アケミン

AV出演強要問題がくすぶり続ける一方、親の応援のもと活躍する、AV女優たちがいる。「うちの娘はAV女優です」と言える親子関係とは、どういうものなのだろうか? AV女優もひとつの職業として認められてきたということなのだろうか? 1月12日に発売されたアケミン著『うちの娘はAV女優です』から一部抜粋し、AV女優という職業を考えてみたい。 

親公認AV女優は増えている?

「はじめに」にも記した通り、日々の取材をしている中でAV女優たちの口から「応援してくれています」「うちの親、この仕事を知っていますよ」という言葉を聞くようになったことがきっかけで、「親公認AV女優」について書くようになった。そもそも実際にこのような「親公認AV女優」は増えているのだろうか?

 単体女優をメインに扱うプロダクションのベテランマネージャーに聞くと、

「増えていますよ」

 という答えが返ってきた。

「そもそも周囲にこの仕事がバレる確率が増えていますから。ネットもない時代はメディアに出ない『パブゼロ』(パブリシティゼロ)でもAV女優の活動はできた。でも今は通販サイトやメーカーのホームページ、まとめサイトもあるので露出は不可避です。アイドル活動をさせることで知名度を上げて売り上げを伸ばしていこうという流れもありますし。もちろん事務所側やメーカー側も露出する雑誌や媒体を選んで、個々の露出調整はしますけど、ネットはもはや打つ手ないですよね。もちろん親バレしてAVを辞める子は圧倒的に多いです。親バレした子のうち7~8割は辞めていきます。特にデビュー間もない子の引退の多くの理由は『親バレ』ですし」

 親バレはむしろ不可避だ。そしてその中でバレの修羅場をくぐり抜けた者がAV女優となっているといっても過言ではない。

「親が積極的に応援するか、娘のことを仕方ないと放任するかはケースバイケースですが、『親がこの仕事を知っている』『知られても大丈夫』という土台を持つことが今の時代は売れるために必要な要素かもしれません。『公認が増えてきた』というより『公認であることが必須になってきた』のでしょうね」

 別の老舗AVプロダクションのスタッフに同様の質問をするとこんな風な答えが返ってきた。

「親公認でAVをしている子の数が100人から1000人にイッキに増えているなんて現象はないと思います」

「そもそもAV女優の競争が激化している今は限られた子にしか仕事が回ってこないんです。昔はAV女優が100人いたら、その100人全員に仕事が回ってきた。でも今は100人中、50人にしか仕事がない……そんな感覚でしょうか。その50人の限られた売れっ子っていうのは、容姿、スタイル、プレイ内容の幅、スケジュールの融通性、諸々の条件が揃った子です。かわいいだけ、胸が大きいだけじゃ仕事はこない。その条件の中には当然『親バレしても大丈夫』というのも入っています」

 競争の激化によって一部の女優に仕事が集まってくる。条件が揃った「売れっ子」と呼ばれる女優にはネットやテレビ、イベントなど露出の機会が増えたことによって、かつてとは比べものにならないほど強い光が当たるようになった。我々が「AV女優」として認知するのは、そんなごく限られた強い光の当たるトップ女優たちで、彼女たちの多くは親公認である。

「だからといってその他の、つまり光が当たらない女の子たちを含めた全体から見ると、決して親公認女優の数が増えているわけじゃないですよ。実際には、親にバレてすぐに引退してしまったり、なかなか言い出せないまま仕事を続けていたり、辞めたと噓をついてやり過ごしている女優もいっぱいいますからね」

 一部の売れっ子女優のケースがすべてにおいて適用されるわけではない。ただその光の当たり方が強まっていったというわけだ。仕事量の増加とメディア露出が比例した結果、親バレが起こり、さらに親公認となるのか、それとも親バレを恐れぬ女優が多くのメディアに登場し、知名度を上げた結果、仕事が増えていくのか……卵が先かひよこが先か、といった感じである。

 

AV女優よりも親が変わった

 一方、彼女たちを「公認」する親自体には、これまでと何か変化があるのだろうか?

〈親公認AV女優1〉に登場した愛花は親バレをきっかけに一度は引退したものの、業界への未練や周りの女優の人気への焦り、持ち前の負けず嫌いな性格から復帰。彼女をなだめようとする事務所のスタッフには「そんなこと言うなら他の事務所に移籍してAV続けてやる!」、両親に対しても「それでもダメなら親子の縁を切ってもいい」というセリフを放っている。それらは半ば脅しに近い。恋人から別れを告げられると「別れるなら、今すぐ死んでやる!」と自殺をほのめかすメンヘラ彼女と似たノリである。愛花自身、本当に他事務所に移籍するつもりがあったのか、親子の縁を切る覚悟があったのか、今となっては確かめようもないことであるが「自分の意志は、なにがなんでも通したい!」というワガママさも伝わってくる。

「公認はありがたいけれど、子どもをコントロールできない親が多いのかな、と思います」

 前出のベテランマネージャー氏が語る。

「何か親が反対すると子どもが逆上する。そうして連絡がつかなくなったり、トラブルを起こしたりするなら、一旦は認める。『AVをやらせたほうがマシ』というパターンですね。子どものほうが立場が強く、親が言いなりになってしまうケースも多いですよ」

 子どもの機嫌を損ねてもいけない、というわけだ。愛花はAVを始める以前、上京する際にも親の反対に遭ったがキレて引きこもるという実力行使に出た。いわば力ずくで反対を押し切った前歴もある。

「AVをやらせたほうがマシ」という親の考えは逆上を恐れているだけではない、と同氏は続ける。

「AV業界に足を踏み入れる子の中には精神的に不安定な子もいる。月曜日から金曜日、朝9時から夕方5時まで決まった時間で働けないという子も多いんです。精神科に通う必要がある子もいるし、病名はつかなくても社会性が欠如しているタイプの子もいっぱいいます。これは高収入系の仕事に共通して言えることですけど、そんな子でもこの手の性産業だったら週に数回働けばそれなりの生活ができてしまうわけです。親から見ても『何もしないで自宅に引きこもるよりマシ』ということでしょう。ただ不安定な子だと結局、この仕事も続けられず途中で辞めてしまうことが多いですけどね」

 一方で両親の猛反対によって半ば強制的にAV業界から去っていく女優も多くいる。中には実家のある地元にUターンを余儀なくされる、両親としばらくの間、海外で生活をすることになる、そんな強硬派の親の話も聞く。未成年の場合、メーカーに親が問い合わせ、商品の回収を迫り、中には人権団体に駆け込む事例もあるという。

「今は情報も豊富なので、回収は20年前に比べたら増えましたね。以前は親も『そんな仕事を勧める事務所は、けしからん。でもそこで話に乗ったうちの娘も悪かった』そんな風に捉える流れがありましたね。『うちの子にも責任はある』というどこか『お互い様』という感じです。だから親バレで引退になっても回収騒ぎにはならなかったですよ」

 これまで幾度も親バレのトラブルを引き受けてきた老舗プロダクションらしくマネージャー氏は当時を振り返る。

「ただ最近は『うちの子にこんな仕事をさせた事務所やメーカーが悪い!』という一方的な言い分です。女の子というよりも親が変わった」

 当然ながら女性を騙して出演契約をさせる、違約金を盾に脅すなどの行為は法的にも社会的にも罰せられなくてはならない。未成年の場合、親が全面的に事務所やメーカー側と対立することも避けられない。しかし親が娘の仕事を全否定し、強引に辞めさせたところで、親子の信頼関係が回復するわけでもないのは明らかである。

「女優さんたちにとって、AV女優になると決めることって人生で一番大きな決断になると思うんです。結婚は伴侶となるパートナーがいる、受験や進学は親が大抵の場合、相談に乗ってくれる。でもAV女優になるときは誰も助けてくれない。あるのは自分の答えだけ。人によったら死ぬまでに下す一番大きな決断になりますよね」

 単体作品を数多く手がけるAV監督・南みなみ★波は王おう氏が語る。最近では毎月5、6本ほど新人デビュー作の撮影を手がけているという。

「『あなたは、わざわざ来なくてもいいところに来てしまった。ここからは大変だよ。ただ一歩でも踏み込んだらこの世界は1回出るのも100回出るのも同じ。一生残るし、それをキレイなものにするか消したい過去にするかどうかは自分次第だから』。そんな話をよく現場でしていますよ」

 進むも辞めるも自分次第。一度選んだAV女優という職業は、どんな仕事よりも覚悟が問われる。

「『今の子』ってひとくくりにしてしまうと雑ですが、やっぱり裸になる抵抗感は減っているのを感じます。だからこそ僕の現場では脱ぐ意味を考えてもらいますね。特に初脱ぎのシーンは勢いだけで終わらないよう考えています」

 結婚や進学、就職、転職……人生には数々の選択を迫られる場面があるが、「一旦自分が世に放ったものは元通りにならない」という意味ではAV出演は出産に似ている気がする。産んだ我が子を再び胎内に戻すことはできない。いくら出演後に回収や発売の差し止めができるとはいえリセットはきかない、なかったことにはできない。それによってかえって以前よりも多くの注目を浴びることもある。女性一人の体から「生み出す」こと、それによって引き起こされる本人の意志と覚悟の必要性を今、改めて感じている。

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「裸を売る仕事」をめぐる価値観はどのように変容しているのでしょうか? つづきは、『うちの娘はAV女優です』をご覧ください。

<イベントのお知らせ>

◎2月15日 19時半~
『うちの娘はAV女優です』刊行記念
「AV業界で働く私たちの本音」

出演:紗倉まな、カンパニー松尾、アケミン
会場:ロフトプラスワン

チケット購入等の詳細は下記をご覧ください。
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/55553

関連書籍

アケミン『うちの娘はAV女優です』

AV女優は、親も応援する普通の職業になったのだ。「裸を売る仕事」をめぐる親子関係、価値観の変容を浮き彫りにする衝撃作! 「お母さん、ごめんね。 ……でもどうして、謝らなくちゃいけないんだろう。」 ―――紗倉まな(AV女優) 「AV女優は別世界の存在ではない。 彼女たちの言葉には、常に現代社会が映し出されている。」 ―――中村淳彦(ルポライター)  性業界には、現在の変化がもっとも速く、顕著にあらわれる。では、親が応援するAV女優が増えていることは、何を意味するのだろうか。 本書は、「カラダを売る仕事」をめぐる社会の価値観、親子関係の変化を10人のAV女優のインタビューから浮き彫りにした。 同時に、彼女たちの言葉をよりわかりやすく理解するために、「AVアイドルの存在」「ギャラの実情」「女性たちの好奇心」など、「AV女優の仕事環境」がわかるコラムを収録。 女性たちの生き様、性に対する価値観はさまざまで、一筋縄ではいかない。それは本書のAV女優たちの言葉にもあらわれている。ある人にとっては、たくましい女性たちに思えるだろうし、ある人にとっては、彼女たちの性に引きずられることにいたましさを感じるかもしれない。 ただ、彼女たちの徹底したプロ意識には誰もが驚かされるのではないだろうか。 ここに「親公認」が生まれる理由があるのかもしれない。 現代の性意識の最先端を読み取れる衝撃の一冊。 ・「親公認」は売れるAV女優の必須条件。 ・事務所へのお中元、お歳暮を欠かさない母親 ・父の暴力とお金のない家。母を守りたい一心だった娘 ・ファン向け動画についてアドバイスする父親 ・不特定多数を相手にする風俗よりAVのほうが安心だという親 ・52歳の人気AV女優が父親に打ち明けた理由……

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アケミン

ライター。上智大学卒業後、派遣社員や字幕翻訳のアシスタントを経て、AVメーカーに広報として就職。09年にフリーに。週刊誌やウェブメディア、書籍で執筆中。著書に『うちの娘はAV女優です』(幻冬舎)、編集協力に『ガチ速”脂”ダイエット』(扶桑社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)など。

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