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近藤勝重氏に学ぶ文章上達の極意

2017.09.06 公開 ポスト

第5回

文章は、足していくよりも削った方がよくなる中原真智子(国語教師)

好評につき、第二期開催が決定した、コラムニスト近藤勝重さんによる、文章が学べるサロン「幸せのトンボ塾」。近藤さんから直接添削指導が受けられる、少人数制の贅沢な講座です。
具体的には、どんな内容の講座になるのか?あらためて文章を学びたいと思う方へ向けて、2016年に開催した、第一期受講者のお一人で、国語教師の中原真智子さんによるレポートをお届けいたします。

 

 今回は、なぜ私が近藤先生の文章講座に行くようになったか、から説明します。

 近藤先生は「健さんからの手紙」という本を書かれています。私は中学生の時からずっと高倉健さんのファンですから、健さん関係の本はたくさん持っています。その中でも近藤先生が書かれた「健さんからの手紙」という本は、素の健さんが浮かび上がってくるすばらしい本です。

 感激した私は本に付いていた「読者アンケート」に感想を書いて送りました。すると8月にその本の出版社である幻冬舎から「近藤先生の文章サロンがあるので来ませんか?」というお誘いを受けたのです。場所は東京の幻冬舎、時は9月から2月までの毎月第1土曜日の1時から3時まで。ふむ。すごい。行きます とも。

<近藤先生と健さん>

 健さんと親交のあった近藤先生から文章の書き方を学べるとあっては、行かないわけにはいきません。行って本当によかった。近藤先生はもちろんですが、受講生の方からも学ぶことは多いです。文章講座の後、東京近郊にいる友人に会ったり、歌舞伎を見たり、知らない土地を歩いたりするのも楽しいです。

さて、それでは文章講座にもどりましょう。

 


 文章に大切なことは2つ、 「(1)誰も書いていないことを、(2)誰にもわかるように書く。」ことである。

 そのために必要なことが「独自の体験+伝わる表現」だ。「伝える」のではなく「伝わる」でなくてはならない。作文は読み手がいることを前提としている。そこが日記とは違うところだ。読み手にわかるように書かなくてはならない。

 文章は、足していくよりも削った方がよくなる。長めに書いたものを削る。短めに書いて足すのは難しいし、よくはならない。今回の文章サロンのように400字の原稿を書くのならば、600字くらい書いておいて削るくらいのつもりで書いたらよい。村上春樹は「原稿の3割を消す」と言っていた。

 書くときはいきなりパソコンで打つよりも、コピー用紙など何か白紙に手で書くほうが早い。ペン先に言葉が脳から落ちてくる。パソコンにいきなり打つと浅くなる。

 大人になると1年が経つのが早い。子供の頃はもっと遅かった。それは、子供は知らないことが多いから毎日が新鮮で長く感じたのに対し、大人になると経験を積んで新鮮なことが減ってくるからだろう。しかし、年相応にひっかかること、気付くことはある。若い頃、気付かなかったことに気付き、どう書くかが我々のすべきことだ。

 では、そのために必要なことは…「メモをする」ことだ。メモをすることによって書く材料が蓄積される。気付いたときにメモをする。文章勉強をしたいのであれば、メモの習慣をつけることだ。人間は忘れていく生き物だ。自分を信用するな。

 ある若い作家が書いていた。「ご馳走は皿に載っているとご馳走なのに、食べ終わって捨てたらゴミになる。ご馳走とゴミ、その境目が気になる。」と。なるほど共感した。自分はメモがないと1週間1回のコラムは書けない。(近藤先生は毎日新聞夕刊に週1度「しあわせのトンボ」を連載しいている)メモをとろう。その時頭をよぎったことをメモする。そうすればいつか日の目を見ることになる。

 

 濃いわあ。宝の言葉が次々に出てきました。私もメモは好きでよく取っていますが、頭をよぎったことを書くのではなく、行きたい店とか愚痴とか人の年齢とか、下世話なことばかり書いていました。一番最近のメモは「美味しい店:鴨方インター近くのうどん屋『たぐち』特に肉うどん」だ。とほほほほ。

 近藤先生に添削してもらった作文がもう一つあるので載せます。

 

いつもそこにあるもの

中原真智子

(1)日本の空はなんて美しいのだろう。

 去年の春まで、私は中国の蘇州で三年間暮らした。蘇州は上海から新幹線で三十分の場所にある。上海や北京と同様、大気汚染がひどくて、いつも空は薄曇り状態だった。青空が見えたとしても、やや青いという程度で入道雲も夕焼け空も見たことがなかった。

 三年間という期間限定で暮らしていたから我慢できたのだと思う。(2)仕事は楽しいし仲間にも恵まれていた。中国の人達も親しみやすく親切だし、食べ物も言葉もそれほど不自由しなかった。日々の生活は充実していた。しかし、水や空気の汚さには閉口した。

 帰国して一番に思ったのは日本の空の美しさだ。青空、雲、光、毎日感動する。早朝の清々しい空、仕事終わりの夕焼け、一番星、月。(3)こんなに美しいものに囲まれて暮らしていたのだ。私達の国はこんなにも誇らしい。


【添削箇所とアドバイス】

(1)いらない。結局はこのことを書くのだから、初めにかいてしまうと味わいが弱くなる。

(2)説明よりもエピソードにする。いろいろな説明よりも1つのエピソードで伝わるものがある。そういうエピソードを探してほしい。エピソードから他のことまで読者に想像させる。

(3)「こんな美しいものに囲まれていたことにまた感謝した」あたりがいいのでは。

 

 なるほど。文章にエピソードがあるかないかでずいぶん違います。どんなエピソードがいいのでしょう。ちょっと中国生活を振り返って、ワンエピソード書いてみます。(2)に入れるにはどれがいいでしょうか。

1,職場の仲間とは毎週食事会をしていた。日本食が多かったが、上海ガニや北京ダック、スッポン鍋など珍しい物を食べながら、話に花を咲かせた。

2,北京、大連、桂林など中国各地を旅するのは楽しかった。北朝鮮との国境の町、丹東に行ったときは中国語の先生と万里の長城の東端を歩いたりした。

3,中国人の友人もたくさんできた。中国語の先生のお宅で手作り餃子いただいたり、故郷の大連を案内してもらったりしたのもいい思い出だ。

4,中国人は親しみやすく、よく街角や駅で道を聞かれたり話しかけられたりした。もっとも、中国語が話せない私は、ろくな受け答えができなかった。

*****

 中国生活の充実ぶりを伝えるエピソードはいくらでもあります。そうすると何を選ぶかが難しくなって きます。うーん。

 ああ、それにしても中国生活について書いたり写真を選んだりしていると、どんどん思い出がよみがえってきました。書くということはいいですねえ。楽しいですねえ。

 中国にいた3年間は新鮮なこと驚くことの連続で毎週末には「蘇州日記」として日本の友人にメールで送っていました。今しかできない体験を書き残しておきたいと思ったのです。「いつもそこにあるもの」の作文は、帰国直後に空を見てつくづく思ったことです。書くことで考え、書くことで前向きになれます。

 近藤先生も文章を書くことの長所は「考えられる、生きられる、優しくなれる」ことだとおっしゃいました。「今を語ることによって、少しでも世の中が平和になればよいと思って書いている」とも。だから近藤先生のコラムはいつも優しかったり切なくなったりするんです。私もさりげなくそんな文章が書きたいです。

2016年12月11日(日)

*   *   *

<2017年9月9日から開催決定!>
近藤勝重さんから直接文章指導が受けられる、第二期「幸せのトンボ塾」のお申し込みも受け付けております。

関連書籍

近藤勝重『今日という一日のために』

毎日新聞夕刊(一部地域朝刊)に連載のコラム「しあわせのトンボ」。新聞が届いたらまずここから読む、という人も多い大人気コラムです。週1回、10年に及ぶ連載分から64編を厳選し、大幅な加筆修正をして1冊にまとめました。 著者の近藤勝重さんは端正な文章に定評のあるコラムニストであり、ジャーナリストです。毎日新聞の社会部時代にはグリコ・森永事件や山口・一和会の大阪戦争、日航ジャンボ機墜落事故を最前線で取材し、記事にしてきました。しかし「しあわせのトンボ」では堅苦しい話は抜きにして、散歩中に心奪われた風景、友との会話で気づいたことなど、身近な話題と世相をていねいに織り上げることを大切にしています。「日々の暮らしが穏やかに続く。その日々のほんのささやかな幸福感やありがたさを書かず、語らずして、政治に物申すことも、政治を変えることもできない」と、近藤さんは言います。 心は内に閉じ込めるものではなく、外に連れ出すものなのかもしれない。そう気付いて始めたのは、外に出て自然に触れることであった。(「心は外に」) 改めて言うまでもなく、人の心はわかりにくい。本音と建前の物言いもあれば、うそも言う。さらに言うなら、自分の心すらわかっていないのが人間だ。鏡の自分を見て、そこに映っていないもう一人の自分がささやく。「本当のことを言ったら」と。(「『わかった』はわかっていない」) その一日、何か無為に過ごしたかのような気もしたが、思い返せばよく笑った日であった。ぼくは何人もの笑いの天使に会った。今日という一日も、こんなぐあいに過ぎてくれれば日々これ好日である。(「笑いの天使とともに」) しみじみと味わい深い文章で日常のなにげない風景を鮮やかに切り取った名コラム。近藤さんとゆく〈読む散歩〉をぜひお楽しみ下さい。

近藤勝重『書くことが思いつかない人のための文章教室』

「文章を書く」とは、長い間の記憶から体験を引き出して描写することだ。自分にはそんな特別な経験はないと考える人でも、うまい引き出し方さえわかれば書ける。また、伝わる文章にしたいなら、くどくどと説明してはいけない。とにかく描写せよ。細部に目をこらして書けば、真に迫る。たとえばさびしい気持ちなら、「さびしい」と書くな。さびしさを表わす「物」を描写してそれを伝えよ――ベテラン記者で名コラムニストの著者が、ありきたりにならない表現法から、書く前の構成メモ術まですぐ使えるコツをやさしく伝授。

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近藤勝重氏に学ぶ文章上達の極意

好評につき、第二期開催が決定した、コラムニスト近藤勝重さんによる、文章が学べるサロン「幸せのトンボ塾」。
プロのコラムニストである近藤さんから直接添削指導が受けられる、少人数制の贅沢な講座です。
具体的には、どんな内容の講座になるのか?
あらためて文章を学びたいと思う方へ向けて、第一期受講者のお一人で、国語教師の中原真智子さんによるレポートを全7回でお届けいたします。

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中原真智子 国語教師

中学校国語教師。岡山県倉敷市在住。 近藤勝重氏主宰の文章教室「幸せのトンボ塾」第一期生であり、その授業内容をまとめたレポートを近藤氏に評価され、幻冬舎plusでの連載にいたる。 趣味は旅・映画・読書。

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