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近藤勝重氏に学ぶ文章上達の極意

2017.09.12 公開 ポスト

第8回

まず書いてみる。完璧なものを出そうと思ったら一生書けない。中原真智子(国語教師)

好評につき、第二期開催が決定した、コラムニスト近藤勝重さんによる、文章が学べるサロン「幸せのトンボ塾」。近藤さんから直接添削指導が受けられる、少人数制の贅沢な講座です。
具体的には、どんな内容の講座になるのか?あらためて文章を学びたいと思う方へ向けて、2016年に開催した、第一期受講者のお一人で、国語教師の中原真智子さんによるレポートをお届けいたします。

 

 文章講座が終わった翌日曜日、鳩森神社へ行きました。幻冬舎から歩いて5分くらいにところにあります。

 村上春樹さんは作家になる前、千駄ヶ谷でジャズ喫茶を開いていました。鳩森神社へもよく行ったそうで「千駄ヶ谷という土地の中で僕が一番好きな場所」と書いています。

 鳥が鳴き、花が咲き、人はゆったりとやって来る、なんだかほっとする空間でした。風はまだ冷たいけれど日ざしはなんだか春です。さあ、近藤先生の講評を続けましょう。


  (10)いい文章とは、だれにも書けないことを、だれにも分かるように書くことだ。では、だれにも書けないことはどう発揮するのか。

 k納さん(母娘で参加されていた娘の方)には音楽という強みがある。自分の強みである音楽についてのこと、自分にしか書けないことを書いてほしい。言葉には意味がある。音は鼓膜から入った瞬間ハートに来る。そこから後は自分がどう受け止めるかだ。ビートルズの曲は英語の歌詞は分からない。けれど音の持つ強さがある。k納さんには音楽を言葉で届けてほしい。

(11)k納さん(母の方)は「日々の暮らしの中で思うこと考えること」を書いた。これが何より大事なのだ。

 私はこの頃、1日がもっている意味、このこと自体を本気で考えるようになった。国境に壁を作ろうという大統領が出てきた。国境より尊いことは人道ではないのか。

(12)M尾さんの作品にある「自分サイズ」「リメイクをする」という言葉が印象に残った。「自分サイズの服を作ってみる」ということが文章を作ることだ。自分の心にあふれてきたものを書く。丁寧に人生を生きている。自分の中にひきだしをたくさんもっている。

(13)「トホホの女」H川さん。人生いろいろだ。いろいろだからいろいろ書ける。自分を客体化して虚飾を排除し、事実から真実を引き出して書いている。対比する力もある。自分史を書くのもいい。

(14)I井さんは文体の個性が際だっている。(注:「今があるそれは」を書いたウォータービ ジネスの方)自分しか書けないことを書いている。生半可な生き方ではない。仏教的な諦念がある。「私の用心棒」でいい作文が書けるのでは。自分の生き方とつながった特異なネタを持っている。これはとても貴重なことだ。

(15)Y名さんは圧倒的に字数トップだ。質、量ともに高い。作家、もの書きの目でものごとを見ている。対比的、複眼的、人間への好奇心が細部に行き渡る、下から見る、そういう眼をもっている。俳句もしているそうだ。   

  自分の作品は、出してしまって活字になるといろいろ思う。しかし、完璧なものを出そうと思ったら一生書けない。校閲を通しても100%の完成品ではない。しかし、そこが人間くさくていい。

 書くことの意味をもう一度考えてほしい。書かずして考えることはできない。皆さんの作品には、一つの節を書いている作品が多かった。

 今、時代の大きな転換期にある。戦争は大きな節だった。戦前、戦後と言うように、戦争体験のあるなしは、そのまま節のあるなしになっている。折々の節目に、書いて考えることは大切なことだ。書かないと今のウソっぽい政治にだまされる。TVに出て適当にしゃべったら、無茶苦茶を言っていてもキャラクターとして立ち上がる。適当な大衆操作にひっかかってしまう。

 どうか、書いて考えることをしてほしい。書くという欲望をたぎらせて生きてください。   

 

 近藤先生の思いが伝わる2時間でした。近藤先生の風貌は仙人のようなところがあります。ふわ~っと、かさかさ~っと、しています。食事の量も少ないはずです。そんな先生が淡々と熱く語りました。受け止めました。文章を、自分を、磨いていきたいです。

 では、最後に私の節目になった出来事を書いた作品を載せます。まあ、この通信の100倍面白くありませんが(しつこい)、書き残しておきたいと思ったことです。

 

ある日の朝

                中原真智子

 一月、受験シーズンである。私も初めて受験生となった中学三年生の時はつらかった。希望している高校が危ないと担任から宣告され、ストレスやプレッシャーやらで友達や家族に当たり散らす毎日だった。特に被害を受けたのは二つ違いの妹だ。

 ある日、妹が朝ご飯を食べている姿にいらいらした。『私はこんなに苦しんでいるのに、こいつは隣でのんきにご飯を食べている』そう思うと腹が立ち、茶碗の盛られたご飯をガバリとつかんで握りつぶしてやった。指の間からトコロテンのように飯がぐにゅりと出てきた。「お母さ~ん、お姉ちゃんが~」妹は大声を上げて泣いた。また別の日の朝ご飯でも思った。『私はこんなに苦しんでいるのに、こいつはのほほんと味噌汁を飲んでいる』頭から味噌汁をかけてやった。「お母さ~ん、お姉ちゃんが~」一層大きな声で泣いた。

 今ならわかる、私が全面的に悪い。

 幸い私は希望の高校に進学することができた。しかし、本当の受難は進学後にやってきた。

  あまりの環境の変化についていけない私は、人と気軽に話すことができず、食欲がなくなり、笑うことができなくなった。体重がどんどん落ち、無口で無表情になっていった。十代の頃は繊細だ。今は何があろうと食欲は落ちない。

 四月、新しいクラスで友達がいない私は、健康診断で校内を回るときも一人だった。一人が好きなのだと自分に言いきかせていた。毎日何の楽しみもなく、ただ家と学校との往復をしていた。両親に心配をかけたくなかったので家で自分から学校の話をすることはなかった。そんな状態が半年続いて、夏休みが開けた九月に文化祭があった。

 文化祭とはいっても派手なものではなく、他校や保護者など大人の来客はほとんどない。その日の朝、生徒玄関に来場者がつめかけていた。同じ制服ばかりの中に大人が一人並んでいた。見覚えのある服に小柄で丸い背中。母だった。『な、なんで?』と思ったが、すぐに予想がついた。母は私の心境などお見通しだったのだ。『母にこれ以上心配かけられないな』そう思うと下腹に力が入った。うつうつ考えるのはやめて、何か新しいことをしよう。

 十月、私はバドミントン部に入部した。

                             2017.1.22

 

 読み返すとアラばかり見えてきます。1回目に書いたものはもっとシリアスな文章でした。近藤先生から「説明より描写。もっと気楽に。」というアドバイスをもらい、書き直しました。しかし、笑いを入れようとして文章全体がギクシャクしてしまいました。まったく良くなっていなくて、かえって前の方がいいんじゃないかと思うくらいです。

 書き出し部分で、前の作文には入れて、今回削除した文があります。「人生最初の大きな壁を感じたのは、中学三年生の時だ。秋に進路相談をしたところ、担任の先生から『中原はそこを受けるんか。勇気があるのお』と言われ傷ついた。」

 これは残したほうがよかったと近藤先生から言われました。何を入れて、何を削るかというのは難しいです。まだまだ修行が足りません。書き続けることによってしか上達の道はないから、これからもまだまだ書きます。そして、押しつけがましくOBA通信を配ります。人の目に触れることで磨かれるはずですから。

  …まあ、文体もですが身体もなんとかしたいです。年末年始で3キロ肥えました。えーっと、文章講座のあとの日曜日、渋谷の東急デパ地下でチョコを10店舗ほど試食しました。買ってません。この週末はカニ食べ放題1泊2日のツアーに参加します。焼き肉や出石そばも食べ放題だそうです。これでいいのでしょうか。 

「OBA通信 文章サロンin東京シリーズ全9枚」読んでくれてありがとうございます。またこれを書く機会が来ることを祈りつつ終わります。あ~聞くのも考えるのも書くのも楽しかった。ではまたいつか。

2017年2月6日(月)早春

*   *   *

 

関連書籍

近藤勝重『今日という一日のために』

毎日新聞夕刊(一部地域朝刊)に連載のコラム「しあわせのトンボ」。新聞が届いたらまずここから読む、という人も多い大人気コラムです。週1回、10年に及ぶ連載分から64編を厳選し、大幅な加筆修正をして1冊にまとめました。 著者の近藤勝重さんは端正な文章に定評のあるコラムニストであり、ジャーナリストです。毎日新聞の社会部時代にはグリコ・森永事件や山口・一和会の大阪戦争、日航ジャンボ機墜落事故を最前線で取材し、記事にしてきました。しかし「しあわせのトンボ」では堅苦しい話は抜きにして、散歩中に心奪われた風景、友との会話で気づいたことなど、身近な話題と世相をていねいに織り上げることを大切にしています。「日々の暮らしが穏やかに続く。その日々のほんのささやかな幸福感やありがたさを書かず、語らずして、政治に物申すことも、政治を変えることもできない」と、近藤さんは言います。 心は内に閉じ込めるものではなく、外に連れ出すものなのかもしれない。そう気付いて始めたのは、外に出て自然に触れることであった。(「心は外に」) 改めて言うまでもなく、人の心はわかりにくい。本音と建前の物言いもあれば、うそも言う。さらに言うなら、自分の心すらわかっていないのが人間だ。鏡の自分を見て、そこに映っていないもう一人の自分がささやく。「本当のことを言ったら」と。(「『わかった』はわかっていない」) その一日、何か無為に過ごしたかのような気もしたが、思い返せばよく笑った日であった。ぼくは何人もの笑いの天使に会った。今日という一日も、こんなぐあいに過ぎてくれれば日々これ好日である。(「笑いの天使とともに」) しみじみと味わい深い文章で日常のなにげない風景を鮮やかに切り取った名コラム。近藤さんとゆく〈読む散歩〉をぜひお楽しみ下さい。

近藤勝重『書くことが思いつかない人のための文章教室』

「文章を書く」とは、長い間の記憶から体験を引き出して描写することだ。自分にはそんな特別な経験はないと考える人でも、うまい引き出し方さえわかれば書ける。また、伝わる文章にしたいなら、くどくどと説明してはいけない。とにかく描写せよ。細部に目をこらして書けば、真に迫る。たとえばさびしい気持ちなら、「さびしい」と書くな。さびしさを表わす「物」を描写してそれを伝えよ――ベテラン記者で名コラムニストの著者が、ありきたりにならない表現法から、書く前の構成メモ術まですぐ使えるコツをやさしく伝授。

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近藤勝重氏に学ぶ文章上達の極意

好評につき、第二期開催が決定した、コラムニスト近藤勝重さんによる、文章が学べるサロン「幸せのトンボ塾」。
プロのコラムニストである近藤さんから直接添削指導が受けられる、少人数制の贅沢な講座です。
具体的には、どんな内容の講座になるのか?
あらためて文章を学びたいと思う方へ向けて、第一期受講者のお一人で、国語教師の中原真智子さんによるレポートを全7回でお届けいたします。

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中原真智子 国語教師

中学校国語教師。岡山県倉敷市在住。 近藤勝重氏主宰の文章教室「幸せのトンボ塾」第一期生であり、その授業内容をまとめたレポートを近藤氏に評価され、幻冬舎plusでの連載にいたる。 趣味は旅・映画・読書。

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