北海道から沖縄まで、ふるさとの「名低山」100座を山岳ガイド協会所属のプロが紹介した『日本百低山』(日本山岳ガイド協会編)より、各都道府県の「名低山」をご紹介。
第6回は、山形の「名低山」経ケ蔵山、瀧山から、「経ケ蔵山」を。
経ケ蔵山 kyogakurasan 酒田市 474m
歴史秘めた里山
残雪の鳥海山が絶景
山形県庄内平野の東の一角に位置する。名前から想像がつくように、山頂付近の経塚に由来している。経塚には平安末期といわれる経典が納められ、歴史を秘めた里山である。
里山とはいえ、多少の急登は覚悟しなければならない。計画と装備を怠ることなく向かってほしい。アクセスはマイカー、バス利用で。
円能寺の集落から経ケ蔵川沿いの林道に入り、間もなく5~6台の駐車スペースが現れ、橋を渡ると登山口となる。すぐに急な尾根に取り付くが、特に序盤はばてないようにじっくり登ることが肝心だ。整備された登山道にはベンチもある。
里山ならではの植生を観察するのもいい。4月上旬は春を彩るミスミソウやキクザキイチゲ、イワイチョウなどが登山道沿いに咲き、樹木の花も競い合う。5月になればブナやミズナラの新緑が目に鮮やかだ。しばらく汗を絞られ、小しよう岩がん稜りようのはしごを上れば猿渡りの蔵に出る。開けた風景を眺めてさらに進むと、右手に胎内くぐりへの道が分岐する。どちらを行ってもまもなく合流するが、胎内コースは上り下りが急なため足元に気を付けたい。尾根を進むと、やがて座禅岩に着く。平らな大岩はいかにも座禅に格好だが、切れ落ちている岩には注意が必要だ。さらに尾根上を行くと山名の元となる石仏や経塚が安置されている露岩帯が現れる。ひと登りすれば展望台のある山頂だ。展望台からの眺めは雄大で、庄内平野と日本海が眼下に広がり、北には残雪の鳥海山が美しい。
帰路は北へ続く尾根道を行き、細いヤセ尾根をわずかに下ると、須弥壇岩となる。ブナの尾根を離れると、一変して激しい下りの連続になる。丸太で作った階段や手すり用のロープで整備された急傾斜を一気に下れば、赤い橋がかかる相沢川。林道に出てまもなく十二滝への遊歩道があり、つり橋を渡れば、十二滝の全容が眺められる。ひと巡りしたら林道に戻り、鹿島のバス停を目指す。
500メートルに満たない標高ゆえ酷暑時は避け、4~5月の新緑期と10~11月の紅葉期が適期となる。登山道は2万5千分の1地形図にある谷筋ではないので注意してほしい。
(日本山岳ガイド協会正会員 真鍋雅彦)
ガイドの目
山には雪解けまもなく春を告げる花が次々と咲く。希少なミスミソウは酒田市に合併された旧平田町の町の花だった。かれんな花は折られたり掘り起こされたりされがちで、減少の一途をたどることも少なくない。有名な固有植物でなくとも、里山ならではの大切な一員であることを認識して、慈しんでほしい。
登山道に水場はないので事前の用意が必要。円能寺へのバス便は本数が限られている。十二滝から鹿島間の車道に土砂崩れ区間があり、歩行も禁止されている。事前に酒田市平田総合支所へ問い合わせを。電話は0234(52)3111。
参考タイム
円能寺登山口(30分)−猿渡りの蔵(30分)−山頂(50分)−十二滝(20分)−鹿島バス停
日本百低山
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