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言ってはいけない宇宙論

2018.02.17 公開 ポスト

『言ってはいけない宇宙論』その1

目では見えないミクロな世界はどんなルールが支配しているのか?小谷太郎

  2002年小柴昌俊氏(ニュートリノ観測)、15年梶田隆章氏(ニュートリノ振動発見)と2つのノーベル物理学賞に寄与した素粒子実験装置カミオカンデが、実は当初の目的「陽子崩壊の観測」を果たせていないのはなぜ? また謎の宇宙物質ダーク・マターとダーク・エネルギーの発見は人類が宇宙を5%しか理解していないと示したが、こうした謎の存在を生んでしまうアインシュタインの重力方程式は本当に正しいの? 元NASA研究員の小谷太郎氏が物理学の未解決問題をやさしく解説した『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』が発売1週間で重版となり、反響を呼んでいます。

 ひとつめのタブーは「陽子崩壊説」。ミクロな世界を支配するルールを知るために、巨大な実験装置がいくつも建設されています。まずはミクロな世界のルールについて、ここまでにわかってきたことを見ていきましょう。

Shutterstock.com/Egorov Artem

タブー1 陽子崩壊説

 素粒子の「大統一理論」というはなはだ大仰な名称の理論によれば、陽子という粒子には寿命があり、長い時間の後に崩壊して別の粒子に変わります。

 けれども、この崩壊を観測しようという計画で建造された実験装置は、理論家の予言よりも遥かに長い間待っているのに、いまだに陽子崩壊現象を見つけていません。(その代わりに、超新星からのニュートリノを見つけてしまい、ニュートリノ天文学という新しい分野を創始してしまいました。)

 果たして現在の理論は正しいのでしょうか。

 

素粒子界を支配するルールを探せ

究極の基本粒子の条件とは

 身近な物体や、私たち自身の体、太陽や月など、この世界の物質は分子・原子というミクロな粒子の集まりです。

 原子は中心の「原子核」と、その周囲を取り囲む「電子」からできていて、その原子核は「陽子」と「中性子」という粒がくっつきあってできていて、陽子と中性子は「クォーク」という粒がひっつきあってできています。矢継ぎ早に物理学用語が出てきて目を白黒させてしまいそうですが、研究の順番や年代を無視してミクロの世界のイメージを描くと図1-1のような感じです。

作成:小谷太郎

 自然界にはこういうミクロな連中が際限も秩序もなく存在しているのでしょうか。連中を支配する統一的なルールはないのでしょうか。そんなことを考えてあれこれ分類し始めるのが人間の習性というものです。19世紀には多種多様な元素を分類するのに成功し、周期表を作成したのでした。

 20世紀初めにまず明らかになったのは、物質を作る基本的な粒子であるはずの原子が、実は基本的な粒子ではないということでした。

 原子は原子核と電子からできていて、さらに原子核は陽子と中性子が集まったものでした。原子は衝撃を与えるとぽろぽろ電子をこぼし、もっと強い衝撃を原子核に与えると、あるいは放っておくと自然に、原子核もばらばら壊れることが見いだされたのです。

 これで何が基本的な粒子で何が基本的でないか、見分けるヒントが一つわかります。壊れて部品に分解するならそれは基本的な粒子ではないのです。

 どうしても部品に分けることのできない粒子があれば、それは究極の基本粒子である素粒子の候補になります。

 素粒子を見分けるもう一つの手がかりは、そのサイズです。構造といってもいいでしょう。

 いくつもの部品からなる複合粒子にはサイズがあります。複数の部品からなるため、そこには必ず部品と部品の間隔というサイズが生じるのです。これをゼロにはできません。

 もしサイズも構造もまったく見られない、完全に点状の粒子があれば、それは素粒子の可能性があります。

クォーク6種とレプトン6種

 ミクロな粒子をぶつけたり壊したりして部品や構造を調べた結果、陽子と中性子は複合粒子と判明しました。陽子も中性子も、「クォーク」という素粒子が3個集まってできています。

 一方、電子は素粒子と呼んでよさそうです。

 陽子と中性子は「ダウン・クォーク」と「アップ・クォーク」という2種のクォークの組み合わせですが、クォークには他にも種類が見つかりました。「ストレンジ・クォーク」「チャーム・クォーク」「ボトム・クォーク」「トップ・クォーク」です。

 これら6種のクォークは複合粒子ではなく素粒子に分類されています。(本当はクォークには、「(しきか)」という量のちがうものがそれぞれに3種ずつあるので、3×6=18種あるのですが、ここでは無視します。)

 なんだか素粒子の数が増えてきました。そもそも素粒子を探し始めたのは、少数の素粒子で多くの複合粒子を説明したいと期待してのことだったはずです。

 いえ、複合粒子の総数に比べれば、6種のクォークは少数です。6種のクォークを組み合わせると、陽子や中性子の仲間の「核子」が56種以上作られます。

 実は粒子加速器のエネルギーを高くすると、何十種何百種もの核子が次から次へと転げ出てくることがわかってきたのですが、そういういささか混乱した状況は6種のクォークですっきり説明できたのです。 

(つづく)

 

元NASA研究員の小谷太郎氏が物理学の未解決問題をやさしく解説した『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』好評発売中!

次回は2月21日(水)公開予定です。

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言ってはいけない宇宙論

2018年1月刊行『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』の最新情報をお知らせします。

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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