3月29日に新書『広く弱くつながって生きる』を上梓した佐々木俊尚さん。
「誰かが少しだけでも助けてくれる」という安心感を得られる生き方とは?
人付き合いや関係性で消耗している人をホッとさせる、至言がいっぱいのインタビューが届きました。
(文・写真:川内イオ)
助けてくれる人がどれだけいるか、が大事
―佐々木さんは新著で、現代の日本の息苦しさの理由として昭和的な「濃く狭く強い人間関係」を挙げていますね。
その昭和的な人間関係がリスクになると考えていますか?
佐々木 会社のようなヒエラルキーの組織にいると、絡めとられるような「濃く狭く強い人間関係」からは逃れられません。
僕が毎日新聞の記者をしていた20世紀には、会社というのはそういうものだと思われていたし、当時は濃密な人間関係に疑問を感じていた人はいなかったと思います。
それは終身雇用に支えられていたからで、定年まで面倒を見てもらえるという安心感があったから、面倒な人間関係やきつい労働も我慢できた。
会社が潰れたり、リストラされる可能性もある現代の日本では、昭和的な人間関係にどっぷりと浸かっているのはハイリスクローリターンだと感じます。
滅私奉公しても会社が守ってくれる保証もなく、放り出された時に何が残るのか。
人間関係を社内で完結したまま年を重ねると、気づいた時には友だちも社内にしかいないという状況に陥りがちです。
長い間同じ環境にいるとそれが当たり前になり、外側を知らないので、なにがリスクなのかすらわからない状態になることも問題ですね。
いわば、茹でガエル状態です。
そういう人は、リストラや定年後など自分と会社との関係が切れた時に、助けてくれる人がどれだけいるか、想像してみるといいでしょう。
―新著には、そのようなリスクから逃れて、自分の世界を拡げるために「浅く、広く、弱い」人間関係が必要だと書かれています。
佐々木 はい。「浅く、広く、弱い」人間関係は、今まで実直に働いてきた人が、先の読めないこれからの時代を生き延びていためのサバイバルの手法になると考えています。
僕は2003年に独立しましたが、2008年頃に起きた出版不況で仕事が大きく減ってしまったことがありました。
それまでは業界内のコミュニティ内で仕事がなんとなくまわっていたのですが、そのコミュニティが崩壊してしまい、そこから生きていくための試行錯誤が始まりました。
そういう経験を経て、困った状態になった時に手を差し伸べてくれる友人や知人が大切だと気付いたのです。
実際、職業や年齢を問わず、自分が「いいな」と思う人と積極的に友好関係を築くようにすると、それぞれは小さいながらも多様な仕事の依頼がくるようになりました。
―昭和的な人間関係でも助けてくれる人はいるでしょうが、同じ会社、同じ業界では共倒れになる可能性がありますね。
「浅く、広く、弱い」人間関係がセーフティーネットになるというイメージでしょうか?
佐々木 そうですね。経済状況や災害だけでなく、これからはAIやロボットに仕事を奪われるという話もあります。
今後、なんの仕事が生き残るのかは誰にもわからない時代に自分のスキルや専門分野を伸ばしていても、その分野が消滅する可能性もあります。
それなら、人間関係にウエイトを置いて、その幅広いつながりのなかでいろいろな仕事をたくさんやって人生が成立するようにしたほうが、これからの時代を生き残ることができるのかなと考えています。
社会人からの友達の輪の拡げ方
―「浅く、広く、弱い」人間関係の作り方を教えてください。
佐々木 まずは社外、あるいは業界の外に友人を作ることではないでしょうか。
僕は面白そうなイベントがあれば参加しますし、そこで気になる人がいたら連絡先を交換して、メッセージを送ります。
大切なのは面ではなく点で付き合うことで、ひとつのサークルやグループに属するのではなく、幅広く自分が「いいな」と思う人と付き合うことですね。
新しくできた人間関係を維持するのに、フェイスブックを活用しています。
どういう友だちがいて、どんな書き込みをしているかもわかりますし、「いいね!」を押したり、軽くコメントするだけで関係を持続できますから。
―仕事で疲弊していて、イベントに参加すること自体が億劫という方もいると思います。
佐々木 僕が参加するのは、自分の友人や知人が企画していたり、参加しているイベントです。
さすがに、知らない人しかいないイベントにはいきません。
義務だと考えると楽しめないし、友人と遊びに行く感覚でいいのではないでしょうか。
そしてその場に「いいな」と思う人がいたら、その人と繋がる。
僕の場合は、そうやって結果的に芋づる式で交友関係が拡がっていきました。
逆に「仕事につながるような人脈を作ろう」というあざとい感覚で参加するのは、よくないと思います。
その計算はばれますし、あざとい人の周りはあざとい人ばかりですから。
―「いいな」と思った人が、あざとい人じゃないか。人を見る目が問われそうです。
佐々木 僕は悪口を言う人、自慢ばかりする人、説教の多い人、物事を損得で考える人、業界内の話しかしない人、会話がキャッチボールにならない人、攻撃的な人は避けるようにしています。
それでも不安な人は、フェイスブックなどでその人の友人関係を見て、付き合っている人が良い人だと思ったら付き合いを継続すればいいと思います。
毎日新聞で事件記者をしていた時、よく警察官の自宅に夜回りに行きました。目当ての警察官本人が帰ってなくて、奥さんしかいないということもよくあります。
その時に、奥さんが良い人だとだいたいご主人もいい人だし、僕らを邪険に扱う奥さんの夫は同じような人でした。
奥さんを見て旦那さんを予想するんですが、だいたい当たりましたよ。
恋愛にしても、昔は、なんでこんな人と結婚したの? ということがよくあったけど、最近はそんなに見ない。
SNSで人間関係が可視化されたのが影響していると思います。
フェイスブックでフレンドになっても、この人はちょっと違うと思ったら、フォローを外せばいい。
そうすれば、もうタイムラインには出てきませんから。
若者から嫌われないためには?
―新しい人間関係を作ろうと思うとついつい身構えてしまいます。
佐々木 自らハードルを高くする必要はないでしょう。
僕は、フェイスブックのメッセンジャーで「会いたい」と言ってくる見知らぬ人に会うこともありますよ。
だって、リアルに会ってみないとどういう人かどうかわからないから。顔を合わせて言葉を交わした時に、この人とだったらわかりあえそうと直感する時がありますよね。
そういう感覚を大切にしています。メッセージをもらって会ったのが縁で、投資したこともありますよ(笑)。
―その敷居の低さが、「浅く、広く、弱い」人間関係の構築につながっているんですね。佐々木さんは20代、30代の友人も多いということですが、コミュニケーションの取り方で意識していることはありますか?
佐々木 若者と一緒にいる時は、基本的に自分の話はしません。
自分の過去の経験からいうと、年長者からいろいろ言われると否定しにくいじゃないですか。
否定しないとますます調子に乗って話し続ける。それで「面倒くさい人」になってしまう。
自分が気持ちよくしゃべり続けて、相手が閉口しているということも当然起きうるだろうから、それはしないようにしようと気を付けています。
若い人たちと付き合う時は、自分の失敗談をするようにしています。
知り合いの販売コンサルの女性が、ものをどうやって売るかということに関して成功ルールはないけど失敗しないためのルールはあると言っていました。
これをやったら絶対失敗するというところを見極めるのが大事なんです。
だから、若者にとっても年長者の失敗話を聞くのは良いことだと思っています。
喋ることが得意じゃない人もいると思いますが、そういう人はニコニコしながら、うんうんと相手の話を聞くことです。
コミュニケーション能力はそんなに必要ありません。黙っている力の方が大切ですね。
今こそ、地方に出よ!
―佐々木さんは東京、軽井沢、福井の3拠点で生活されています。いなかでの生活は、「濃く狭く強い人間関係」というイメージがありますが、実際はどうでしょう。
佐々木 僕が多拠点生活をするようになったきっかけは、東日本大震災です。
東京で何か起きた時に避難できる場所を持ちたくて、最初は軽井沢に拠点を構えました。
その後、妻の仕事の都合もあり福井にも一軒家を借りています。
3つの町で暮らしていて実感したのは、いなかが排他的というのは昔のイメージということ。
排他的になるのは、共同体がしっかりあるから。
少子高齢化や人口減少で地方の共同体が崩壊しつつあるなかで、排他的になりようがないし、むしろ来てくれて嬉しいと思ってくれているように感じます。
僕のように東京から福井に来る人なんて珍しいじゃないですか。
地元の人間からすると興味がわくし、知らない世界に触れたいという欲求は必ずあるから、そういう地元の住人との感覚とマッチさせれば、どこでもうまくやれるんじゃないかな。
あと、地方に限らず、とにかく顔が広くて人間関係のハブになる人がいるので、そういう人と仲良くするのは大事だと思います。
―地方移住がひとつのブームになっていますが、人間関係の作り方は東京と変わらない?
佐々木 はい。まず、イベントと同じように誰も知らないところにはいかないほうがいいですね。
そもそも、人間関係がないといなかで家を借りるのは難しいんです。
口コミでしか物件がでないうえに、田舎の人は知らない人には貸さないので。
だから、友人、知人がいて、地元の共同体と接点がある土地がいい。
そして、暮らし始めたら地元の友人、知人を起点にして、その人から芋づる式に人間関係を広げていくべきだと思います。
地元のコミュニティと面として付き合おうと思うと大変だと思いますよ。
“与える人”が得をする時代に
―多拠点生活は仕事のネックになりませんか?
佐々木 多拠点生活をすると、人間関係が多層的に広がります。
東京にいたら絶対に会わないような農家さん、漁師さんなどと知り合って話をすると、自分の地平線が押し広げられるように感じます。
そして、自分の仕事の枠を広げるのは、出会う人だと思います。
仕事の入り口はスキルではなく人間関係がほとんどで、それは都内も地方も変わりません。
定職を持たずに全国を旅している友人は、堀を直してほしい、駅まで車で送って欲しいという小さな仕事を重ねて、生活をしています。
僕も、知り合いに何か頼まれたら、とりあえずやってみる、ということを繰り返しているうちに、小さいけれどたくさんの仕事の依頼が来るようになりました。
「浅く、広く、弱い」人間関係が広がれば、仕事の依頼も増えていくでしょう。
会社員の方は、多拠点生活はあまり現実的ではないように感じるかもしれませんが、週末だけ地方で暮らすという人も増えています。
横須賀市や三浦市、千葉のいすみ市あたりは、東京から往復するのが楽なのでお勧めです。
―著書には無報酬で交通費も出ない依頼も受けることがあると書かれていて驚きましたが、そういう仕事も「とりあえずやってみる」という感覚で受けているのでしょうか?
佐々木 僕は友だちに見返りを求めません。
「君は良い人だから、イベントに付き合うよ」という感覚ですね。
数年前に読んだ『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』という本には、世の中には「ギバー=与える人」と「テイカー=奪う人」がいると書かれていました。
今は情報が可視化されているから、損得しか考えないようなずる賢いテイカーではなく、短期的な利益を求めず、他人に対して無償の善意を見せるギバーのほうが結果的に得をする世の中です。
僕も友だちにとって「ギバー」であろうと意識しているし、結果的にそれが仕事につながっています。
―損得を考えずに築いた多様な友人が、仕事の可能性を拡げるのですね。
佐々木 仕事だけではありません。
なにか困難があっても「きっと誰かが少しだけでも助けてくれる」と思える人間関係ができました。
現在はいろいろな価値観がシフトしている過渡期ですが、心地よい人的ネットワークのなかをブラブラしていれば、お金はあとからついてくると考えています。
大切なのは友人たちへの愛と、一歩を踏み出す勇気。それさえあれば、きっと何とかなりますよ。
■■■
ご購入はコチラ
『広く弱くつながって生きる』
新聞記者時代、著者の人間関係は深く、狭く、強かった。しかしフリーになり、リーマンショックと東日本大震災を経験して人とのつながり方を「浅く、広く、弱く」に変えた。その結果、組織特有の面倒臭さから解放され、世代を超えた面白い人たちと出会って世界が広がり、妻との関係も良好、小さいけど沢山の仕事が舞い込んできた。困難があっても「きっと誰かが少しだけでも助けてくれる」という安心感も手に入った。働き方や暮らし方が多様化した今、人間関係の悩みで消耗するのは勿体無い! 誰でも簡単に実践できる、人づきあいと単調な日々を好転させる方法。