小さな憧れがたくさん叶う世界へ
思い出がよみがえる家電、世界一優秀なペット、ロボットスーツで無限に移動……。5分で胸が高鳴ってくる、ショートショートアンソロジー
発売中の小説アンソロジー『未来製作所』は、未来のモビリティやものづくりをテーマにした5人の作家(太田忠司、北野勇作、小狐裕介、田丸雅智、松崎有理)によるショートショート小説集です。想像を超える新しい世界を小説でつくるには、今の技術を可能なかぎり知りたいということで、執筆前に株式会社デンソーに潜入取材を刊行!その様子を5回に分けてレポートします。第1回目は、2050年、車は空を飛ぶことができるのかを紐解きます。
取材・文 塚本佳子
車が空を飛ぶ、もはやSF映画の話ではありません。
世界各国で「空飛ぶ車」の開発が進められており、今年3月にはグーグル共同創業者が支援するベンチャー企業が開発した「空飛ぶタクシー」が、実用化に向けてニュージランドで飛行実験に入りました。
日本でも、有志団体による「空飛ぶ車」の開発が進められています。2025年の一般販売を目指し、5月から愛知県内で初の飛行実験が実施されているといいます。
「空飛ぶ車」の開発は自動車メーカーの枠に止まらず、航空機メーカーやテクノロジー企業までを巻き込んでの一大事業になっていると話すのは、株式会社デンソー・エレクトリフィケーションシステム開発部部長の後藤田優仁さん。
後藤田さんはこれまでさまざまな自動車メーカーの車両開発に携わり、現在は電動車システムの開発に力を注いでいます。
「現在、開発されている空飛ぶ車の動力は、一般の車同様にガソリン、ハイブリッド、電気モーターなどさまざま。空飛ぶ車の本格的な実用化を考えるならば、私はまず車の電動化推進が必須だと考えています。
地球の温暖化防止=CO2の削減や将来的な燃料の枯渇などが大きな理由ですが、現実問題、電気自動車(EV)は、ガソリン車やハイブリット車(HV)と比較して、走行距離は到底及びません。車体や電池の軽量化などEV自体の研究・開発だけでなく、ガソリンスタンドに代わる充電スタンドの設置などインフラ整備も関わってきます。
そのうえ空を飛ばすとなれば、安全性や法整備などクリアしなければいけない問題は山積みです。しかし、EVが一般化した世の中になればその技術と構築システムを応用することで、その先に空飛ぶ車の実用化も見えてくるのではないでしょうか」
後藤田さんは、自動車の電動化だけでなく、最終的にロケットさえも電動化になる世界を思い描きながら、電動車のシステム開発に臨んでいるといいます。
そんな後藤田さんが今注目しているのが、車以上に馬力を必要とする旅客飛行機の電動化です。
「フランスの大手航空機メーカーやイギリスの老舗自動車メーカー、ドイツのエンジニアリング会社などが組んで、ハイブリット飛行機の研究を始めています。
通常、飛行機はジェットエンジンが4基ついていますが、そのうちの1基だけを電気モーターにするシステムです。この研究が進んでいけば、1基だったモーターが2基になり、さらに3基になり、最終的に電動化することが可能になるはず。この技術を応用すれば、空飛ぶバスの実用化も決して夢の世界の話ではなくなります」
「空飛ぶ車」の開発が進んでいるとはいえ、実用化となるとまた話は別。新たな交通規制やライセンスの問題など、国土省や通産省など行政機関も巻き込んだ法整備は必須と語る後藤田さん。
自動車業界だけではクリアできないことも多々ありますが、技術開発者たちは、夢のような「空飛ぶ車」の開発・実用化に向けて着実に前進しています。
「空飛ぶ車」がモビリティのひとつになる未来はもう少し先になりますが、そんな時代に先駆けて、デンソーでは「空飛ぶ車」を疑似体験できる「VR—CAR」を開発しました。
実際に体験した作家の皆さんの感想は?
VR(バーチャル・リアリティ)という言葉を耳にする機会が増えましたが、これはコンピュータ上に作られた三次元空間を、五感を通してあたかも現実であるかのように体感できる技術や概念のことです。
『未来製作所』に収録されている、田丸雅智さんの「ドルフィンスーツ」は、イルカにそっくりのロボットスーツが開発され、人々の行動フィールドは水の中へも広がっていくというストーリー。
この作品のような海の中、そして、空中を移動する体験は、VRを用いることで簡単に味わうことができるのです。
デンソーでは自動車とVRを組み合わせたソリューション「VR—CAR」を開発。
自動運転の空飛ぶ車で世界旅行をするというコンセプトでつくられました。
実際に車は前後に少し移動するだけですが、体験者は2分半の間に、車が走り出す感覚、空へと飛び出す感覚、空中を飛んでいる感覚、目的地に向けて車がカーブする感覚などを感じながら、世界の風景を空から眺めます。
国から国への空間移動もあり、スタート地点の未来都市から世界3カ国を周遊する旅がリアルに楽しめます。
VR—CARを体験した作家の田丸さんは、移動している感覚の気持ちよさに興奮して語ります。
「デンソーのみなさんとの座談会では、空飛ぶ車や電動車、自動運転など、未来のモビリティについていろいろな意見がでましたが、やはり運転は自分でしたいよね、とほかの作家さんとも話していたんです。
でも、VR—CARを体験してみて、移動の概念は根本から変わると感じました。実際には移動していないけど、移動している脳みそになるんです。見えている世界が実際にそこにあると思えてしまう。
つまり、VRで十分にリアルな旅行体験ができるということです。こんな体験ができるならその場に行かなくても、運転しなくても満足ですね」
また、「思っていた以上にリアルだった」と語るのは作家の小狐裕介さん。
「つい地上を覗き込みたくなるけど、落ちそうで怖いと感じるくらいのリアルさでした。各国の空を飛んでいると、思わず行きたい方向にハンドルを回したくなりました」と、自動運転ではなく、自分で空飛ぶ車を運転したくなったといいます。
技術開発センター、デジタルイノベーションを担当する加藤良文専務曰く、「人間の脳は、実際の経験とバーチャルでの経験の区別はあまりついていない」とのこと。
VR技術が進歩すればするほど、自分の経験が現実に起こったことなのか、情報としてバーチャルの世界で起きたことなのか、境目がぼんやりしてくるのだそうです。
「テクノロジーが飛躍的に進歩した現代、移動せずに実行、体験できることは少なくありません。にもかかわらず、お金と時間を使ってでも行ってみたい、会いに行きたいと思えるのは、バーチャルでは伝わらない何かが存在しているからです。
つまり、音声や画像ではない、ライブ感とでもいうのでしょうか。例えば、私は落語が好きでよくCDを聞いています。それはそれで楽しいけれど、寄席に行けばもっと楽しい。その場を楽しく過ごしたい人の集合意識が場を形成する、それがライブの本質です。
移動しないと味わえないライブ感、それが移動したいと感じる最後の理由になるのではないでしょうか」
実際に体験したい時は「空飛ぶ車」で移動し、疑似体験でも十分な時は「VR」で移動感覚を味わうーーこの2つが、未来のモビリティの中心になる日がくるかもしれません。
潜入取材をして完成した、小説アンソロジー『未来製作所』の製作過程はぜひ、
こちらの動画をご覧ください。
次回は、交通事故ゼロ化の実現に貢献できる、クルマの自動運転について探ります。
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