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おしぼりを巻き寿司のイメージで食った

2018.04.28 公開 ポスト

梅津くん忘れらんねえよ柴田隆浩

 ひとり自宅で飲みながらたまたま観たチャットモンチーの動画でぼろぼろ涙を流して、「俺がなりたいのはこの人たちだ、俺はチャットモンチーになりたい」って思って、バンドを始めることにした。ただいま28歳、仕事のできない会社員。大学時代にやってたバンド「女殺団(にょさつだん)」が就職と同時に消滅して以来、ギターはもう6年間触っていない。それだけじゃない。だらしなく垂れた腹。二重あご。あの頃から体重は7、8キロも増えていた。俺はいつのまにこんなだっせえやつに成り下がってたんだ。今日から変わる。俺はえっちゃん(チャットモンチーのボーカルギター)になるんだ。

 バンドはひとりではやれない。誰と夢を追いかけるのか。直感的に、梅津という名前が頭に浮かんだ。彼は学生時代、女殺団とよく対バンしていた「魚乱(ぎょらん)」というバンドのベースボーカル。普段は爽やかイケメンでのんびりした性格なのに、ステージに立つと凶悪な音を鳴らして暴れだすという変な男として、僕は記憶していた。彼とは女殺団の消滅以来一切連絡を取っていなくて、電話番号も携帯から消えていたから、共通の友人に連絡先を聞いて、電話をした。話したいことがあるから、渋谷で飲まない?って。

 渋谷のガード下の焼き鳥屋、にゅう鳥金。奥のカウンターで梅津くんと会った。彼はあの頃と全く変わらないルックスをしていた。そしてあの頃と全く変わらない爽やかな笑顔で「ベースとドラムのツーピースで轟音インストバンドやって暴れてんだ」なんてことを楽しそうに話してくれた。相変わらず変な男だなあ。僕は彼に、自宅で録った「ドストエフスキーを読んだと嘘をついた」という曲のデモを聴かせ、そしてめっちゃどきどきしながら、バンドやろうぜ、と言った。彼はなんでもない感じで、いいよ、と笑って答えた。 

 しあさって、2018年5月1日に、梅津くんがバンドを抜ける。

 あの日にゅう鳥金にいた自分へ。ギターはそれなりには弾けるようになる。体重も学生の頃に戻る。ただ9年後、またお前はひとりになってしまう。でも安心していいよ。それでも前を向けるぐらいには、お前は強くなってるから。ていうか、ひとりだけど、ひとりぼっちじゃないんだな。君の音楽を支える人がいる。愛してくれる人がいる。信じらんないよな。でもほんとなんだ。大丈夫だ。

 何より、今お前の隣りにいる男は、多分一生続く友達になるから。心配すんな。

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おしぼりを巻き寿司のイメージで食った

いつだって”僕ら”の味方、忘れらんねえよ。
「恋や仕事や生活に正々堂々勝負して、負け続ける人たちを全肯定したい」という思いで歌い続けてるロックバンド。
そんな“忘れ”のボーカル、ギターの柴田隆浩が、3年半ぶりにエッセイを書くことに!メロディーはもちろんだが、柴田の書く言葉に、ヤラレル人多数。
“二軍”の気持ちを誰よりもわかってくれる柴田の連載。

バックナンバー

忘れらんねえよ柴田隆浩

忘れらんねえよのボーカルギター。
1981年生まれの36歳。熊本県出身。
ツイッターはこちらから。

忘れらんねえよ
2008年結成。どうしようもない言葉を、甘いメロディに乗せて轟音で鳴らす。
2017年4月に、自身初の日比谷野外音楽堂ワンマンをソールドアウト。
2018年2月にベース梅津拓也の脱退を発表、来たる5月1日に梅津卒業ワンマン「サンキュー梅ックス」をZepp Tokyoにて開催する。
忘れらんねえよ公式HP

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