ひとり自宅で飲みながらたまたま観たチャットモンチーの動画でぼろぼろ涙を流して、「俺がなりたいのはこの人たちだ、俺はチャットモンチーになりたい」って思って、バンドを始めることにした。ただいま28歳、仕事のできない会社員。大学時代にやってたバンド「女殺団(にょさつだん)」が就職と同時に消滅して以来、ギターはもう6年間触っていない。それだけじゃない。だらしなく垂れた腹。二重あご。あの頃から体重は7、8キロも増えていた。俺はいつのまにこんなだっせえやつに成り下がってたんだ。今日から変わる。俺はえっちゃん(チャットモンチーのボーカルギター)になるんだ。
バンドはひとりではやれない。誰と夢を追いかけるのか。直感的に、梅津という名前が頭に浮かんだ。彼は学生時代、女殺団とよく対バンしていた「魚乱(ぎょらん)」というバンドのベースボーカル。普段は爽やかイケメンでのんびりした性格なのに、ステージに立つと凶悪な音を鳴らして暴れだすという変な男として、僕は記憶していた。彼とは女殺団の消滅以来一切連絡を取っていなくて、電話番号も携帯から消えていたから、共通の友人に連絡先を聞いて、電話をした。話したいことがあるから、渋谷で飲まない?って。
渋谷のガード下の焼き鳥屋、にゅう鳥金。奥のカウンターで梅津くんと会った。彼はあの頃と全く変わらないルックスをしていた。そしてあの頃と全く変わらない爽やかな笑顔で「ベースとドラムのツーピースで轟音インストバンドやって暴れてんだ」なんてことを楽しそうに話してくれた。相変わらず変な男だなあ。僕は彼に、自宅で録った「ドストエフスキーを読んだと嘘をついた」という曲のデモを聴かせ、そしてめっちゃどきどきしながら、バンドやろうぜ、と言った。彼はなんでもない感じで、いいよ、と笑って答えた。
しあさって、2018年5月1日に、梅津くんがバンドを抜ける。
あの日にゅう鳥金にいた自分へ。ギターはそれなりには弾けるようになる。体重も学生の頃に戻る。ただ9年後、またお前はひとりになってしまう。でも安心していいよ。それでも前を向けるぐらいには、お前は強くなってるから。ていうか、ひとりだけど、ひとりぼっちじゃないんだな。君の音楽を支える人がいる。愛してくれる人がいる。信じらんないよな。でもほんとなんだ。大丈夫だ。
何より、今お前の隣りにいる男は、多分一生続く友達になるから。心配すんな。
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おしぼりを巻き寿司のイメージで食った
いつだって”僕ら”の味方、忘れらんねえよ。
「恋や仕事や生活に正々堂々勝負して、負け続ける人たちを全肯定したい」という思いで歌い続けてるロックバンド。
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“二軍”の気持ちを誰よりもわかってくれる柴田の連載。
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