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GW特別企画

2018.05.03 公開 ポスト

専守防衛と
自衛隊は違憲なのか問題
第3回『日本国憲法を口語訳してみたら』【リバイバル掲載】塚田薫

「平和主義・戦争の放棄」を定めた憲法9条に注目した連載の最終回。『日本国憲法を口語訳してみたら』(塚田薫著/長峯信彦監修)から、9条の何が重要なのか、というコラムの一部を抜粋してお届けします。
 最終回は、9条のもとでの「自衛権」の考え方と「そもそも自衛隊は違憲なのか」問題について。最近の改憲論議のニュースと合わせて、考えたいことがいろいろ出てきます。

 

 

3 「攻めてきた相手から身を守ることだけに専念します!」

 そして日本国憲法のなかで、はっきりと「戦争を放棄し、軍隊をもつことも認めない!」ということを、明確にいっているのがこの9条だ。


第9条 俺たちは筋と話し合いで成り立ってる国どうしの平和な状態こそ、大事だと思う。だから国として、武器を持って相手をおどかしたり、直接なぐったり、殺したりはしないよ。もし外国となにかトラブルが起こったとしても、それを暴力で解決することは、もう永久にしない。戦争放棄だ。

 2項 で、1項で決めた戦争放棄という目的のために軍隊や戦力を持たないし、交戦権も認めないよ。大事なことだから釘さしとくよ。


 9条だけ見ると、「え、自衛隊は戦力や軍隊じゃないの?」と思う人がいると思うけど、日本政府としての言い分はこんな感じ。

「いや、とはいっても、やっぱ国として最低限の備えはいりますよー。なんかあったときに困りますし。だから自衛隊は憲法が禁止している戦力や軍隊ではなくてですね……、国際法で国家に認められてる、自衛のための組織なわけでして……」

 そして自衛権(個別的自衛権)を国として発動できるのは、次の場合だけとしている。


◎どっかの国が日本を攻撃してきた(わが国に対する急迫不正の侵害がある)
◎やらなきゃ、やられる(そのときに身を守るためにほかの手段がない)
◎やりすぎない(必要最小限度の実力行使にとどまる) 
※カッコ内は防衛省ホームページ参考


 この3つの原則にしたがうやり方は、「専守防衛」と呼ばれる考え方だよ。つまり「もし攻撃をするとしても、攻めてきた相手から身を守ることだけに専念しますから!」っていうことだね。

 自衛力としての自衛隊は、いい装備を持っていて、生真面目な国民性のおかげか技術を日夜磨き、かなり優秀らしいね。

 たとえば海上自衛隊が持っている最新のイージス護衛艦は、世界でも最高レベルの性能と価格とのこと。その反面、遠くを攻撃できる爆撃機や空母は持っていなくて、自衛隊は防衛特化の軍事力ともいえる。余談だけど、外国との共同演習で自衛隊の携行食はかなり評判いいらしいよ。ちなみに前にアメリカ軍の携行食を食べたことがあるけど、無骨な味がした……。

 また安全保障だけでなく、災害救助でもノウハウをもち、東日本大震災でも自衛隊は活躍したよね。インフラが破壊された状況では、交通路の整備や物資の輸送、医療、果ては炊き出しや即席お風呂まで自力でまかなえる軍事的な組織は、やっぱ強いわ。

 ちなみに予算規模ではかつてGDPの1%程度に抑えるという方針があって、現在は約5兆円が計上されている。これは世界でも第6位(2011年)。ちなみに陸上自衛隊の某駐屯地では、お土産に陸上自衛隊クッキーが売られているらしい。90式戦車を表面にあしらい、サクサクの食感とのこと。

 

4 「自衛隊は違憲なの?」

 でも「自衛隊そのものがどう見ても戦力だから違憲だ!」っていう意見も根強くある。

 たとえば、1973年に「長沼ナイキ裁判」という裁判で、「自衛隊って憲法的にどうなの? 違憲なの? 合憲なの?」っていうことを裁判所に確認する裁判が開かれたことがあるよ。

 長沼ナイキ裁判とは、北海道長沼町にある国の土地に、ミサイル基地をつくるために当時の農林大臣が「ミサイル基地はみんなの利益(公益)になるから!」ってことで、「森を伐採してもいいよ!」っていう許可を出したら、地元住民が「自衛隊は憲法に反しているし、公益にあたらないから、森林の伐採はナシでしょ!」と国を訴えた裁判のことだよ。

 1973年の地方裁判所での第一審では「自衛隊はやっぱ戦力だから違憲です」っていう判決が出た。だけど、国の側がこれに納得できないとして高等裁判所で仕切り直すことになった。すると今度は逆転して、政府の「自衛隊は戦力でなく自衛力です!」っていう言い分が認められたんだ。

 実際に国民が自衛隊をどう見ているかというと、「さすがに無防備じゃまずいよね」ってことで、自衛隊を認める人もいる。

 これは私見なんだけど、グレーな立場にいることで、軍事的な性格や行動を必要最低限に抑えられているんじゃないか、って思っている。

 自衛隊のほかにも日本を守るための力はある。日米安全保障条約(いわゆる日米安保)という日米間の決めごとで、「日本になにかあったときは、アメリカ軍が助けるぜ! HAHAHA!」という取り決めがなされているしね。

 この日米安保によってアメリカ軍が日本に駐留することになったことについては昔、「武器を持った軍隊が日本にいてもいいなら、戦力を持っているのと変わらないんじゃないか!」ってことで裁判になったことがある。

 この裁判では、「アメリカ軍の駐留は、国として身を守るために必要なものだ」っていう政府の言い分を、裁判所がおおむね認める判決が出ているよ。

 だけど国内では、「アメリカに頼らず、自分たちでやっていけるようにするべきだ!」「アメリカの戦争に巻き込まれるかもしれないから、アメリカ軍の駐留そのものをやめるべきだ!」っていう意見を持っている人もいる。

 また、国内のアメリカ軍基地が集中している沖縄県では、「事故や犯罪で迷惑だから、アメリカ軍はとっとと出て行け!」っていう意見もある。

 あるいは、「アメリカ軍が日本にいるせいで、逆に日本が敵視されている」という意見もある。

 しかし反対に、「戦後からずっと日本を支援して、経済でも強く繋がっているアメリカとよい関係を続けるために必要だ!」っていう考えや、「自前で全部まかなうより、アメリカとシェアしたほうがコストも抑えられるからよくね?」っていう意見もある。

 また、「日本を攻撃すると、世界最大の軍隊を持つアメリカが黙っちゃいないけど大丈夫?」っていう意味で、ほかの国が日本に攻撃してくるのを思いとどまらせる力もあるという見方もあるんだ。これは日米安保の持つ「戦争の抑止力」と呼ばれているものだよ。

 

 9条についていろいろ見てきたけど、なによりも平和のうちにみんなが安心して暮らせることが一番よいことだと僕は思う。

 もし自民党の憲法改正論議がより本格化してきたら、アメリカとの関係についても、いまよりもっといろいろな議論が出てくるだろうけど、どうなっていくのかな。

 

* この連載は、『日本国憲法を口語訳してみたら』(塚田薫著/長峯信彦監修)からの抜粋です。続きは本書をお手にとってご高覧ください。

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塚田薫

1989年、愛知県生まれ。愛知大学法学部法律学科卒業。ネット上の掲示板に「日本国憲法を口語訳してみた」というタイトルで書き込みをしたところ大反響を得る。ウェブ上にアップして5日でついた「はてブ」(はてなブックマーク数)は、その書籍版が270万部を突破した『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海著/ダイヤモンド社刊)の元ネタのブログが2日間で記録した「はてブ数」の2倍以上に。2012年7月26日の朝日新聞で書き込みが取り上げられ、2013年5月2日の朝日新聞夕刊には本人が顔写真入りで登場した。

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