「体がなんとなくダルい」「イライラする」など、春は気温の変化や環境の変化から自律神経が乱れがち。そこで自律神経を整えるのにおススメなのが「すぼら瞑想」です! 禅僧でありながら、医療現場で働く川野泰周さんが考案したこの瞑想の方法は、「手のひらに息をふきかける」「キャベツの千切り」「靴磨き」など、「えっ、それが瞑想なの?」とどれも驚くものばかり。テレビを見ながら、コーヒーを飲みながら、お家で簡単にできる瞑想法を書籍『ずぼら瞑想』(2018年、小社)よりちょっぴりご紹介します。
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自律神経失調症からは誰も逃げられない
脳の疲れをとるほかにも、瞑想にはさまざまな癒しの効用があることがわかってきています。
例えば、自律神経失調症です。
自律神経失調症というと、「自分とは無縁」だと思っている方も多いのですが、じつは軽度なものなら「みんな持っている」といっていいぐらい、現代人にとっては身近な病気です。
肩こり、腰痛、頭痛、目の疲れ、不安や不眠、高血圧、過敏性腸症候群、過活動膀胱(ぼうこう)などなど、驚くほど多くの症状が、自律神経の失調から生じています。
そもそも、自律神経とはなんでしょうか。
簡単にいうと、自分が意図しなくても身体を安定した状態に保ってくれる、人間の機能のことです。
私たちが意図して動かせるのは、手や足、目など身体の外側に限られています。いっぽう、身体の内側にあるものは自律神経がぜんぶ調整してくれています。
内臓や血管、汗腺や臓器を動かす筋肉などはすべて、自律神経のコントロール下にあります。緊張すると勝手に手足が冷えるのはそのためですし、逆にリラックスしてくると、手足はぽかぽかしてきます。
私たちがのんびり寝ている間も心臓が適切なペースで動き続けてくれるのは、自律神経が休まず働いてくれるおかげです。
だからこそ、この自律神経のバランスが崩れてしまったら、身体の一大事です。
「自律神経の嵐」から抜け出すには
自律神経は、交感神経と副交感神経の2つからなっています。
交感神経は、身体が活動的になっているときに優位になる神経、副交感神経はリラックスしているときに優位になる神経、と覚えておいてください。普段は、この2つがシーソーのようにうまくバランスをとりながら人間の健康を維持しています。
ところが、強いストレスにさらされると、交感神経と副交感神経のバランスが崩れます。
ストレスが引き金となりノルアドレナリン、アドレナリンという2つの興奮物質が脳内で分泌されると、交感神経にバランスが偏ります。運動時のように呼吸が荒くなったり、血圧が高くなったりして、心も体も興奮状態になります。便秘もよく見られる症状です。
それだけでは終わりません。交感神経に偏ったバランスを元に戻そうと、今度は副交感神経のほうにガーンと偏ります。すると内臓が急に動き出して、下痢をしたりします。これがいわゆる「過敏性腸症候群」の発生メカニズムです。
自律神経の乱れは腸以外のところにも現れます。体じゅうの自律神経のシーソーが交感神経と副交感神経のあいだを激しくいったりきたりすることを「自律神経の嵐」といいます。それがもたらす身体の不調の総称が、自律神経失調症です。
日常的にストレスにさらされていると、自律神経も乱れっぱなし。病院にかかるほどではないけど「何か調子が悪い」というときは、まっさきに自律神経の乱れを疑ったほうがいいぐらいです。「ストレスは万病の元」とは、よくいったものです。
心の悲鳴が身体に表れる
自律神経の乱れは、ストレスに対する自然な身体の反応です。一定以上のストレスを受ければ、どんな人も症状を抱えます。
仕事に苦しむ大人のストレスばかりがクローズアップされがちですが、子どもにだってストレスはあります。
私自身、幼い頃に経験しましたが、「学校に行きたくない」と思うと、キューッと胃のあたりが痛くなったものです。あれは立派な、自律神経の乱れです。そのとき保健室の先生が、私のお腹に優しく手をあてて教えてくれたことを覚えています。
「ゆっくり息を吸って、吐いて。お腹がへこんだり膨らんだりするのを、感じてみよう」
あれはまさに呼吸瞑想を教えてもらっていたのだと、大人になって気がつきました。
どなたにとっても大切なのは、症状が軽い段階で心のケアをすることです。「こんな症状にはこんな瞑想を」という決まりはありませんが、なかでも「ボディスキャン瞑想」は自律神経の乱れを整える効果が大きいことがわかっています。
自律神経失調症は心の疾患ですが、症状は身体に表れます。そのサインを見落とさないでください。自律神経失調症を招いたストレスが限界を迎えて大きくなると、さらに怖い病気を発症します。早期発見、早期治療を目指しましょう。
瞑想はこんなに簡単にできる!?
ずぼら瞑想導入ワーク◎
自律神経の不調に5分間の「ボディスキャン」
(1) 仰向けに寝て、呼吸瞑想を続けます(1分間)ボディスキャンは、身体を深く休ませる瞑想です。寝た姿勢で行います。
とくに、自律神経の乱れからくる身体の不調には、とても効き目があります。疲れた一日の終わりに、心地よい癒しを感じてください。
(2) 頭に注意を向け、頭のあたりに感じる、すべての感覚を意識します(頭の重さや熱さ、心地よさなど、どんな感覚でも結構です)(1分間)
(3) 一度大きく深呼吸して、頭に向けた注意をリセットし、首や肩の感覚に注意を向けます(1分間)
(4) 大きく深呼吸して首や肩への注意をリセットし、腰で感じる感覚に注意を向けます(1分間)
(5) 大きく深呼吸して腰の感覚をリセットし、両足の先の感覚に注意を向けます(1分間)
(6) 大きく深呼吸して足先への注意をリセットし、呼吸瞑想に戻ります(1分間)
ボディスキャン中は寝た姿勢でリラックスするため、眠気を感じる人が多いかもしれません。眠くなったら、無理に瞑想を続ける必要はありません。そのまま安らかな眠りにつきましょう。
全身全霊で味わうコーヒー瞑想
たった1杯のコーヒーの美味しさを再発見できる瞑想です。
飲み慣れているためについ忘れがちですが、本来コーヒーはとても美味しい飲み物です。カフェインを摂取するためだけに飲むのはもったいないと思います。
忙しい方は、最初の一口だけでも構いません、その瞬間だけは、仕事のことは忘れて、目の前のコーヒーだけに意識を向けましょう。
(1) たちのぼってくる香りを楽しんでください。どんな色をしているか、確かめてく
ださい。
(2) ホットコーヒーであればカップの温かさを、アイスコーヒーであればグラスの冷た
さを、手のひらに感じてください。
(3) 口にしたらどんな味がするか、イメージしてください。
(4) それから一口含み、ゆっくりと飲み下してください。今この瞬間の、コーヒーの味
と香りを感じてください。
こうしてマインドフルに、全身全霊で飲んでみると、コーヒーという飲み物の味がじつに苦く、鮮明であることに、びっくりすると思います。
「これまでエスプレッソが好きだったのに、この飲み方では苦すぎる、これからはレギュラーで十分だ」と言い出す人がいるぐらい。
それほど、私たちは普段、コーヒーに意識を向けていない、ということです。
いつも仕事を「しながら」、おしゃべりを「しながら」の「ながら飲み」をしていてコーヒーをきちんと味わう機会が少なくなっています。おかげで感覚がすっかり麻痺していて、どんなコーヒーを飲んでも違いがわかりません。
しかし、こうして五感を研ぎ澄ますことで、たった一口のコーヒーでも、深い満足を味わうことができるんです。
世界一簡単なマインドフルネス『ずぼら瞑想』
キャベツの千切りが瞑想に!? 1日1分で大丈夫。
4月5日より発売中の『ずぼら瞑想』より精神科医×禅僧の著者自らも実践する、いつでも、どこでも脳の疲れをとる方法を解説します。