先日、大酒飲みの女友達Yに上野の「せんべろ」を案内してもらい、文字どおり千円でべろべろになるという素敵なひとときを過ごしました。
べろべろで「楽しいなぁ」とつぶやいたら、Yは言いました。「次は立石だ!」。葛飾区の京成立石駅は、せんべろパラダイス。彼女は何度も駅まわりをハシゴしているそうです。べろべろの私は「行く!」と断言した、ようです、どうやら。
Yとの約束を果たすため、5月の土曜11時半、京成立石駅に降り立ちました。
午前中に集合する理由は、「早く行かないともつ焼きがなくなる」から。Yは「大丈夫かな、まだあるかな」と焦っています。立石仲見世商店街にあるもつ焼き「宇ち多゛」へ急ぐと、すでに大行列、店内はおじさまたちでぎゅうぎゅう。
行列に並びながら今度は「大丈夫かな、注文できるかな」と心配しています。
なんでもメニューには「もつ焼き」としか書かれていないのに、部位と味を素早く的確に注文しないといけないんだそうです。ネットでメニューを確認しながら、ぶつぶつと入念にシミュレーション。「大きな声で笑ったりしちゃだめだよ。怒られるから」。はい。
12時ごろに入店し、まずはビールと煮込みとおしんこ。ここまでは良かったのですが、あんなにシミュレーションしたのに、残った部位は4種のみ。となりの常連のおじさんのサポートを受けながら、なんとか「シロみそレバたれシロとアブラの生」を注文することができました。
お味は言わずもがな。並んでも怒られても食べなければいけないもつがそこにはありました。
ビールのつぎは、「うめ」という飲み物を注文。グラスに常温の宝焼酎がどくどく注がれ、そこに自家製梅シロップがちょろり。口に含んだとたん、カーッ。部族の長から勧められた酒を飲むような気持ちで、私はそれを胃と肝臓に納めました。きたぞ、立石!
私「さあこい、次は!?」
Y「寿司!」
私「怒られる?」
Y「怒られない!」
すぐ近くの立ち食い寿司「栄寿司」に並ぶ間に、「宇ち多゛」の暖簾はおろされました。「うめ」の酔いがほどよく冷めるころ、かわいい店員さんに案内され、店内へ。
すっきり清潔なカウンター。アルコールはエビス小瓶のみ。椅子なし箸なし。いさぎよい。こういうの好きです。
ネタによって、330円、220円、110円と表示されています。トロもウニもイクラも興味のない私はとくに安上がり。ボタンエビ、炙りハマチ、タイ、イワシ、カンパチ、サーモン、穴子。職人さんが小気味好く握ってくれる寿司を、こちらも小気味好く食べて、お会計は2人で3000円ちょっと。まじか!
午後2時、すでに満腹の私たちには、ある作戦がありました。
1キロほど先にある公園まで歩き、銭湯に入ってお腹をすかせる、というものです。
しかし作戦は出鼻をくじかれました。あまりの天気の良さに、コンビニで缶チューハイとお菓子を買ってしまったのです。
呑みながら川沿いの遊歩道を歩きます。川の色はまあナニとしても、道はきれいに整備され、ベンチもたくさんあり、景色もひらけていて、最高の散歩。葛飾区民、なぜ誰もいない。
こどもたちがのどかに遊ぶ東立石緑地公園をくるりとまわり、ふたたび駅のほうへ。
商店街に「葛飾区伝統産業館」という建物があったので、のぞいてみました。
内装は素朴ですが、江戸切子、三味線、印傳、刃物、銅器など、なかなかかっこいいものがそろってます。やるじゃん葛飾。
おばちゃんが「ゆっくり見てってねー」と熱いお茶をいれてくれました。あらうれしい。手づくりのシュロのたわしを購入。いいたわしが買えてうれしいわたし。
「アクアドルフィンランド」でひとっぷろ。さっぱりしてお風呂を出たら、午後4時半。
次に行く店は、鳥の丸揚げで有名な「鳥房」。
Yは私を連れてきたものの、かなりびびっていました。とにかく店員のおばちゃんに怒られると言うのです。前回はあまりにもこっぴどく怒られたので、ふつうのサービスを受けたいと、チェーン店で呑み直したとか。そんなに怒られるのに、やっぱり食べたくなるそうです。
「鳥房があるから立石にはケンタッキーがない」という都市伝説を聞いてしまうと、私だって食べてみたい。
怒られるのを覚悟で並びます。
ここは「酔っ払い入店禁止」「一人ひとつ、半身の丸揚げを食べる」という鉄のオキテが。このために我々は、公園と銭湯でリセットしてきました。
30分ほどで店内に入り、ビール、おしんこ、鳥刺しポン酢を注文。半身の値段は日々大きさによって変わるそうで、この日は600~700円台までの3パターン。私たちはいちばん小さい650円を頼みました。
おしんこや鳥刺しをおいしく食べているあいだにも、おばちゃんたちの怒号が轟きます。
「コートは脱いでからあがる!」「そこ通るな。邪魔!」「赤い顔して。飲んでるだろ! 出てけ!」
壁には一枚の書が飾られていました。「その一言が人の心を傷つける。その一言が人の心を暖める」。ユニーク。
揚げたてほやほやの鳥の半身がやってきました。魚のカマなどをちまちま食べるのが好きな私にとって、これは大好物。あばらぼねっぽいところも、関節のキワのキワまでも、あますことなくしゃぶりつきます。こりゃカーネルサンダースもしっぽを巻いて逃げ出すうまさ。夢中になり、おばちゃんたちの怒声も右から左へ。あぁ満腹。
鳥房を出ると「呑んべ横丁」の看板がチカチカと灯りました。まだ飲みたい、食べたい。けれど胃が限界。
細い路地に入り込むほどに、小さなお店がつぎつぎと現れます。昼間に呑んでいた界隈も、夜はまた違う表情に。
ガラス戸をのぞくと、カウンターの大皿にお惣菜が並んでいて、赤い顔したおじさんたちが「おいでおいで」と手招きします。比喩ではなく、ほんとうに「おいでおいで」とされました。
今日ほど胃袋と肝臓が倍ほしいと思った日はありません。名残惜しすぎる、立石。
山田マチの山だの街だの
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