中学3年の、ある日の放課後。僕は音楽室の隣にある音楽準備室で、生まれて初めてギターを触った。ガットギターという、ナイロン弦を張ったアコースティックギター。準備室の窓から差すオレンジの光が、ゆらゆらと舞う埃を輝かせていた。遠くから野球部の掛け声が聞こえていた。僕らは誰にも見つからないように、そっと、ガットギターに手を伸ばした。
当時、僕はスクールカーストの2軍に所属していて、女の子にモテる1軍ヤンキーのやつらに尋常じゃないコンプレックスを持っていた。なんとしてでも1軍に入りたい、でも運動もできないし不良になる勇気もない、だったらどうすりゃいいんだよ、と悶々とする日々を過ごしていた。あとオナニーばっかしていた。ちなみにその頃の土日に僕がよくやっていたのは、郊外のショッピングモールにチャリで向かう~モール内の本屋でエロゲーム雑誌を購入(当時あったのよ、パソコン用エロゲームだけを紹介する雑誌が)~そこのトイレで情熱的なオナニー~終了後罪悪感に襲われ、乱暴にエロ雑誌をトイレのゴミ箱に投げ捨てる、という過ごし方だった。いいなあ。オナニーが今より特別なものだったんだよなあ。オナニーが輝いてたんだ。シャイニング・オナニー。
っていうのはまあよくて、とにかく1軍に入りたい僕は、何か自分を変えるきっかけを探していた。そしてそのきっかけをくれたのが、うーやん、という男だった。うーやんは小学校の頃からの友達で、ガタイがいいんだけどどちらかというと肥満児で、でも割にスポーツはできて力も強い、しかし性格がなんかめんどくさくて高圧的、だから2軍、というような奴だった。決してモテるキャラじゃない。というかモテない。もちろん僕もモテない。つらい。で、そんなうーやんと放課後ふたりで教室にいたとき、彼がこんなことを言ってきたんだ。
「柴ちゃんさ、ギター弾ける?俺、けっこう弾けるんだよね」
僕は、へー、としか思わなかった。またなんか言い出したわ、と思った。ていうかギターなんか弾けてどうすんだよ、なんてことを思った。でもうーやんがギター弾けるアピールを全然やめず、しまいには、音楽準備室にギターあるからそこでお前に腕前を見せてやる、と言って聞かなくなったので、僕はめんどくさかったけど、しぶしぶ準備室に向かうことにした。
放課後の準備室には誰もいなかった。アコーディオンやらタンバリンやら、授業で使う楽器が保管されているその空間には、使い古された道具特有の柔らかな匂いが漂っていた。奥の棚に、数本のガットギターが並べられている。気づけば僕は、ドキドキしていた。みんなには内緒で、僕らだけの秘密の儀式をこれから始めるような。ギターに触ってみる。なんか、得体が知れないな、と思った。うーやんが音を鳴らした。
衝撃だった。めっちゃくちゃ、かっこよかった。うーやんがどうしようもなくイケメンに見えた。ほんとに、見えた。彼が弾いたのは、当時大ヒットしていた藤井フミヤの名曲『TRUE LOVE』のイントロ。CDで聴いてたのとまったくおんなじフレーズが、うーやんの手から奏でられる。信じられなかった。こんなかっけえことがあるのか、と思った。そして、これだ、と僕は直感した。
その日から僕はギターの虜になる。放課後毎日、準備室に通う日々が始まる。そしてそれから数ヶ月後に僕は、人前で初めてのライブをすることになる。
おしぼりを巻き寿司のイメージで食った
いつだって”僕ら”の味方、忘れらんねえよ。
「恋や仕事や生活に正々堂々勝負して、負け続ける人たちを全肯定したい」という思いで歌い続けてるロックバンド。
そんな“忘れ”のボーカル、ギターの柴田隆浩が、3年半ぶりにエッセイを書くことに!メロディーはもちろんだが、柴田の書く言葉に、ヤラレル人多数。
“二軍”の気持ちを誰よりもわかってくれる柴田の連載。
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