小さな憧れがたくさん叶う世界へ
思い出がよみがえる家電、世界一優秀なペット、ロボットスーツで無限に移動……。5分で胸が高鳴ってくる、ショートショートアンソロジー
発売中の小説アンソロジー『未来製作所』は、未来のモビリティやものづくりをテーマにした5人の作家(太田忠司、北野勇作、小狐裕介、田丸雅智、松崎有理)によるショートショート小説集です。想像を超える新しい世界を小説でつくるには、今の技術を可能なかぎり知りたいということで、執筆前に株式会社デンソーに潜入取材を刊行!
その様子を5回に分けてレポートします。第3回はモノづくりの心臓部である工場を探ります。
取材・文 塚本佳子
「IoT(Internet of Things)」という言葉が、急速に浸透しています。
パソコンやタブレットなどIT機器だけでなく、身の周りにあるさまざまなモノがインターネットとつながることで、モノの状態や位置などを可視化することが可能となります。
前回の「自動運転」もそのひとつで、クルマの状況をつぶさに把握できるので安全にクルマを走らせることができるのです。
最近では「○○して」と話しかけることで電気機器等をリモート操作できるスピーカーが注目を集めていますが、まさにこれがIoTのおもしろさ。
モノがインターネットにつながることで、人とモノが会話できるようになり、これまでとは異なるライフスタイルを楽しむことができます。
IoTは、モノ自体をつくりだす工場=ファクトリーでも活用が進んでいます。
「ファクトリーIoTこそ、人とモノ(=機械)とのコミュニケーションが重要」と話すのは、株式会社デンソー・ダントツ工場推進部長(2018年2月時点)の加藤 充さんです。
「人を排除し、生産機械自らが学習するAI機能を用いてスマートな工場をつくるというのが欧米が進めるファクトリーIoTの考え方です。しかし、効率化・省力化のみを追求するIoTは、工場の安定操業を促すかもしれませんが、工場をもっと美しく、もっと使い易い機械へと改善しよう!といったよりよい工場づくりを促す“進化”は望めないというのが我々の考え。〈人を活かすIoTで、人も機械も成長し続ける工場〉を理想としています」
加藤さん曰く、ファクトリーIoT活用の大きなメリットは次の3つにあるといいます。
①機械は正直。生産機械の状態を“正確に知る”ことができる
②24時間、世界中の工場の状況を“リアルタイムに知る”ことができる
③世界中の知恵を融合し“新たな価値を産む”ことができる
「機械だけが賢くなってもダメなんです。人も鍛錬されていないと。機械が発するメッセージ、世界中から来る新鮮情報に人が正しく、俊敏に、反応することで初めて実利につながるのですから。つまり、モノづくりと人づくりは常に両輪なんです」
では実際の工場では、人とモノがどのように共存しているのでしょうか。
「工場はショールーム。会社の商品だけではなく、それを作っている工場も商品」と位置づけるのは、デンソーの有馬社長。モノづくりの現場であり、ショールームでもある工場では、人と一緒に多くのロボットが活躍しています。
モノを運搬するロボットがもっと賢く稼働できるよう人がロボットに教え、時にはロボットの仕事を見守るように優しく振舞う現場の人々。その様子は、人がロボットを使っているというのではなく、対等な関係で秩序正しく、まるで共存しているかのようです。
加藤さん曰く「工場はミニ社会」なのだそう。工場内では、人、モノが隈なく移動。まるで都市交通のように移動体が時間に合せ運行する。機械故障への俊敏対応、物流の最適化など、よりよいモノづくりに向けて各組織が有機的に活動している。工場内からの CO2排出、廃棄物を極限まで減らす技術開発、改善を日々行う。
工場をより良くする仕組み・技術・システム、それらを具現化できる人・組織は、社会のあらゆる分野を良化させることができると考えています。
「工場を見学してみて、モノづくりと人づくりがリンクしていることがよくわかった」と話すのは作家の田丸雅智さん。
「人間以上に正確にできる部分はロボットに任せて、さらにその先を人がクリエイトしていく。クリエイトしていける人材を人づくりで育てて、またモノづくりに活かしてく。そのスパイラルがしっかり確立している現場に驚きました」と語ります。
また、北野勇作さんは「工場のイメージが変わった」と言います。
「工場とはライン作業で、人が機械を使いながら無機的に同じものをひたすらつくり続ける場所だと思っていました。でも、デンソーの工場は生きものです。工場とは、いろいろな部分を組み替えながら成長していき、細胞が入れ替わるみたいに次の世代へと受け継がれていく生きもの。それをみんなで支えているということをリアルに感じました」
また、デンソーの西尾製作所は、太陽光を利用して電力を賄っています。ロボット達は電力で動いていますが、一部の作業においては、重力や“てこの原理”等を応用し、電気を使わない仕組みで稼働しています。
このように、商品自体はもちろん、商品をつくりだすためのロボットに至るまで、つねに技術改良をし、現場改善を繰り返す。モノづくりに終わりはありません。
アンソロジーに収録されている、北野勇作さんの『工場散歩』は、まさに潜入取材のシーンを描いたストーリーです。ノンフィクションのようなフィクションをお楽しみください。
書籍関連情報
小さな憧れがたくさん叶う世界へ
思い出がよみがえる家電、世界一優秀なペット、ロボットスーツで無限に移動……。5分で胸が高鳴ってくる、ショートショートアンソロジー
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