腸の働きが低下する「停滞腸」は、大腸がん、糖尿病、動脈硬化、うつ病の発症などに大きく関わっていることが、明らかになってきました。
人間の寿命は、まさに腸の健康状態で決まると言っても過言ではありません。
『寿命の9割は腸で決まる』では、腸の調子が悪いとどのように危険かを具体的に示し誰でもすぐ簡単に取り入れられる食習慣・生活習慣をアドバイスしています。
6月14日の日本テレビ「世界一受けたい授業」に出演し大反響、4万人の腸を診てきた医師・松生恒夫先生が、腸と寿命の驚きの真実をお伝えします。
腸と寿命のためにやってはいけない4つのこと
1. お腹を冷やす
冷たいものを飲食してお腹が冷えるのは、ある意味でわかりやすい現象ですが、私がより深刻だと考えているのが、気温差を体験することによる大腸の冷えです。いわゆる冷え性の人が多い女性のほうがわかっていただきやすいように思いますが、たとえば真夏に外から帰宅して、冷房の利いた部屋に急に入ってしばらく過ごすと、今度は猛烈な寒気を感じ、その後お腹の不調を覚えるといった経験も意外に多くの人がしているはずです。
つまり、気温差が激しくなればなるほど体にストレスがかかり、体そのものと大腸が冷えてしまうのです。これは明らかに停滞腸や便秘を招く原因となります。現に私のクリニックでも、気温差が10度を超えると訪れる患者さんの数が増えてきます。
2. 腸にダメージを与える「炭水化物抜きダイエット」
炭水化物という物質は、糖質と食物繊維で構成されています。炭水化物(糖質)は人間にとって主要なエネルギー源であり、現代の日本では全摂取エネルギーの約60%を占めています。炭水化物に含まれる食物繊維には、血糖値上昇を抑制する働きがあります。さらに食物繊維は、便通の改善作用が認められることに加え、水溶性食物繊維がコレステロールを低下させ、便を軟らかくする作用も持つことが判明しています(第2章参照)。
糖質オフダイエットをおこなうというと、たいていは炭水化物抜きダイエットをすることになります。しかし、炭水化物を抜くと食物繊維の摂取量が減少することになります。
食物繊維の摂取量が減れば、便のもとになる素材も減少してしまいます。そのことで排便障害、つまり便秘を起こしやすくなるのです。さらには、肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病などにつながる可能性も示唆されることに注意してほしいものです。
○「炭水化物抜きダイエット」は寿命を縮める!?
腸(小腸・大腸)とは直接関係ありませんが、糖尿病の患者さんが食後の血糖値上昇を抑えるために炭水化物(糖質)を極端に控えるというのはわかりますし、糖尿病でない人でも、単純に、糖分を多く含む飲料水や食品の摂取を控えるだけならばよいのです。
しかし病気でもない人が、糖質を含んでいるという理由だけで、穀物や野菜、果物の摂取を必要以上に制限するのは考えものです。実際、炭水化物を制限した食事を長期にわたって続けた場合の影響や安全性は明らかになっておらず、むしろさまざまなリスクも指摘されているからです。
もしかすると、「炭水化物抜きダイエット」は寿命を縮めるかもしれない、ということさえ示唆する2つの調査報告について、以下に紹介します。
3. 1日1~2食の生活
「1日3食」を習慣化させることの重要性については前章で触れました。ダイエットが目的だったとしても、大腸の健康を併せて考えるならば、習慣的な「1日1~2食」の生活はダイエットにもかえって逆効果になるでしょう。
ダイエットで食事の量が少なくなると、まず栄養不足を招き、さらに食物繊維の摂取量が減ることで、便秘の原因をつくってしまいます。
最も抜いてはいけない食事が朝食です。大ぜん動という、大腸にとってとても大切な運動のほとんどは、朝食を摂ることで引き起こされるからです。大ぜん動はだいたい、朝食後約1時間のあいだに起き、10~30分程度しか持続しません。ですからもし朝食を摂らないでいると、大ぜん動を起こすことができず、結果的に排便もなくなり、慢性便秘症の引き金を引くことになるのです。
朝食を摂らない生活に食物繊維の不足が加われば、腸内環境を悪くするばかりです。
なかには、「私はダイエット中ですが、朝にはグリーンスムージーを飲み、きちんと栄養補給をしています」という人もいるかもしれません。グリーンスムージーには緑黄色野菜や果物が何種類も入っているので、一見すると大腸の健康にも役立ちそうです。ただ、グリーンスムージーだけの朝食は決してお勧めではありません。
スムージー一杯に含まれる食物繊維の量はそれほど多くありませんし、何よりたんぱく質が摂れないので、栄養の偏りを防ぎようがなくなるからです。
理想的な朝食としては、やはりごはん(時間的にゆとりがあるときは「もち麦ごはん」)を主食とし、味噌汁、納豆などを摂る昔風の一汁三菜がお勧めです。パン食であれば、ライ麦パンに野菜スープ、ヨーグルトなどのメニューを摂るといいでしょう。
4. 大腸内視鏡検査を受診していない──寿命との関係性
“日常生活”編の最後に、少し視点を変えて大腸と寿命との関係について考えてみます。
医療技術の進歩により、いまはがんに罹患しても平均寿命をまっとうできる人が非常に増えています。たとえばステージ4の大腸がんが見つかった人のうち約6割は、治療をおこなうことで、その後10年間生きることができます。ステージ3Bの人であれば、治療をおこなうことで約9割の人がその後10年生きられます。早期に発見できれば、罹患後の生存率はさらに高くなります。
そういうことと関連して、大腸がん経験者においても多くの人が平均寿命をまっとうしているのですが、大腸がんを早期発見するのに役立っているのが、大腸内視鏡検査の実施です。大腸がんの患者さんの寿命が延びた背景には、じつは大腸内視鏡検査を受けた人の数が増えたという事実が大きく影響しているのです。専門医としての願望だけでなく、このような寿命という観点からも、私は大腸内視鏡検査を1人でも多くの人が受けるべきだと考えています。
リンチ症候群が疑われる人は、年齢が若くてもまずは1回目の大腸内視鏡検査を受けてください。それが寿命を延ばす方法です。
大腸内視鏡検査は、長さ約1・4メートル、太さ約11ミリメートルの柔らかいチューブを肛門から大腸に入れ、モニターに腸の内部を映し出して調べます。診断の精度は90%以上と高く、数年前からハイビジョンの内視鏡用モニターも開発・使用されています。検査中に病変が見つかれば、そこで組織の一部を採取して組織学的検査にまわせますし、小さながんやポリープならその場で切除することができます。ちなみに、大腸内視鏡検査を受けることでがんやポリープのほか、潰瘍性大腸炎が見つかる人も多数にのぼります。
大腸がんの早期発見に役立つ大腸内視鏡検査ですが、「ごくまれに大腸壁を傷つける」「検査前に飲む下剤や内視鏡挿入が苦痛だ」といった問題もあるのが実情です。病院や施設のホームページなどをチェックし、安心できるところを選んでほしいものです。受診先を見極める際に私が必要だと考えるポイントを、以下に列挙します。(1)から(8)が当てはまるかどうかが目安となります。
(1)担当医師が1人で大腸内視鏡検査を1万件以上おこなっている
(2)鎮痛剤や鎮静剤などを使って検査する
(3)眠っている意識のない状態で検査できる
(4)パルスオキシメーター(心拍数、血中酸素濃度を観察する機器)を装着して検査する
(5)検査中に体を動かすような指示をしない(体位変換させない)
(6)医師が1人で検査をおこなっている
(7)検査終了後に寝られる部屋(回復室=リカバリールーム)がある
(8)以前検査を受けた患者さんが「もう一度受けてもよい」と言っている
大腸内視鏡検査には、意外な効果も生じます。この検査では「腸管洗浄液」服用後に腸内の便を出していただいたあと、さらに残った便などを取り除くために器具を肛門から入れ、微温湯(ぬるま湯)で大腸を洗浄します。この、ぬるま湯で洗浄するところがポイントです。これにより大腸が温まると、検査後に患者さんが「便秘が良くなった」「以前とは比べられないほど快便の回数が増えた」などとおっしゃる機会が非常に多くあります。
体を温めることが停滞腸の解消につながることは、第2章や本章で述べた通りですが、私のクリニックでおこなう大腸内視鏡検査でも、実際に確認されているのです。