腸の働きが低下する「停滞腸」は、大腸がん、糖尿病、動脈硬化、うつ病の発症などに大きく関わっていることが、明らかになってきました。
人間の寿命は、まさに腸の健康状態で決まると言っても過言ではありません。
『寿命の9割は腸で決まる』では、腸の調子が悪いとどのように危険かを具体的に示し誰でもすぐ簡単に取り入れられる食習慣・生活習慣をアドバイスしています。
6月14日の日本テレビ「世界一受けたい授業」に出演し大反響、4万人の腸を診てきた医師・松生恒夫先生が語る、腸と寿命の驚きの真実をお伝えします。
腸と寿命にマイナスな3つの食生活習慣
1. ヨーグルト神話に振り回されないで
腸に良い食品と聞いてまず思い浮かべるものに、ヨーグルトがあるかもしれません。現代は、ヨーグルトは万能というイメージさえできつつあります。ヨーグルトには乳酸菌(動物性乳酸菌)が含まれ、それらが腸内細菌の善玉菌を増やす作用があることは、一般的にもよく知られています。
しかし、ヨーグルトが日本人の健康にどこまで役立っているかについては、いまだに謎が多い面があるのです。たとえば大腸の領域であれば、慢性便秘症の人に毎日ヨーグルトを摂ってもらうと、1週間の排便回数が増加したという報告が確かにあります。ところがこのような論文やデータのほとんどは、対象としている慢性便秘症の人の下剤服用量の変化については記載がありません。
慢性便秘症の人の腸管機能の改善状況を知るには、下剤服用量の増減を目安とするのが最適と考えられていますが、そのように下剤服用量を調査したデータは見たことがないのです。つまり、多くのデータでは下剤服用者とそうでない人とが混在しているため、ヨーグルトが本当に慢性便秘症の人の腸管機能を改善したかどうか、はっきりさせたことにはならないと私は考えています。
さらに、ヨーグルト100グラムあたりの成分を見ると、血清コレステロールを増加させる作用のある飽和脂肪酸は1.83ミリグラム、コレステロール値は12ミリグラムです。これが同量の豆乳では、飽和脂肪酸が0.32ミリグラム、コレステロール値は0ミリグラムです。つまりヨーグルトは、豆乳に比べて脂肪分が非常に多いことがわかります(『日本食品標準成分表2015年版(七訂)』より)。
また、ヨーグルトに含まれる動物性乳酸菌は、胃液や腸液のなかでは生存しにくい性質を持っています。体に良いというイメージを鵜呑みにして、ヨーグルトをはじめとした乳製品を毎日摂っていると、かなりの量の脂肪分を摂取することになるのです。
ヨーグルトを食べるのであれば、低脂肪ヨーグルト、あるいは無脂肪ヨーグルトをお勧めします。
日本人の食生活は、ここ50年間で大きく変化しており、乳製品の影響を一概に評価するのは難しいのですが、1970年代以降の乳製品摂取量の増加が、糖尿病などの一因になっていると考えている専門家もいるほどです。
2. 赤身肉は大腸がんの危険因子
赤身肉を多く摂ると(1日80グラム以上)、大腸がんのリスクが増加します。
米国がん研究協会(AICR)、世界がん研究基金(WCRF)による最新版の報告でも、赤身肉は大腸がんのリスクを確実に上げ、大腸がん発生率の最も高い危険因子のひとつであるとしています。
赤身肉とは、牛肉や豚肉のなかで脂肪の少ない「もも」の部分などのことで、鶏肉は除外されています。では、赤身肉はなぜ大腸に悪いのでしょうか。赤身肉ががんのリスクとなる理由としては、次の2つがいわれています。
第1に、赤身肉には、コレステロール値を上げる飽和脂肪酸が多く含まれているため、多く摂ると肥満などのメタボリックシンドロームを引き起こす点です。肥満は大腸がんの危険因子のひとつに数えられています。
第2に、赤身肉に多く含まれる鉄分の問題です。鉄分と脂質が組み合わさると、活性酸素をつくる鉄イオンのフェトン反応を起こしやすくなるといわれます。活性酸素は、生きていくために必要不可欠な酸素が変化してできる物質ですが、体内で活性酸素が多く発生すると、細胞や組織などが酸化してダメージを受け、老化やがんなどの引き金になります(本章パート1参照)。
赤身肉のように赤色が強い肉ほど、鉄分が多く含まれています。赤色の正体はミオグロビンという色素たんぱくで、これに鉄が含有されています。ミオグロビンは筋肉のなかに存在し、酸素を細胞まで運ぶ役割があるのですが、腸の健康を考えるなら、赤身肉の摂取はできるだけ控えるのが賢明です。
アメリカの研究では、摂取の目安は1日80グラム以下とされています。日本人の肉類摂取量は、1日平均80グラム以上の世代が増加してきました。腸の健康と寿命を考えるならば、肉の摂取量を1日平均80グラム未満に抑えるために肉食を一日おきとし(肉の日と魚の日を交互にするといい)、さらに1日3食のうち夕食のおかずとして食べるのがお勧めです。
3. 目に見えない油に注意
油(脂肪)は、たんぱく質や炭水化物と並んで、人間に必要な3大栄養素のひとつで、エネルギー源となって体の組織を正しく働かせるという重要な役割を担っています。現時点で理想的な油の摂取量は、摂取エネルギー全体の20~25%といわれています。
ここで注意しなければならないのが、摂取する油の質です。油の主成分は脂肪酸で、大別すると飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸になります。このうち不飽和脂肪酸は、体内でつくることのできない必須脂肪酸を多く含んでいるため、食事として外部から摂取しなければいけません。不飽和脂肪酸は、人間の体をつくる細胞膜を構成している成分でもあります。
この細胞膜には、細胞が必要とする栄養素を取り込み、不要なものを細胞のなかに入れないようにするという重要な働きがあります。そのため、細胞膜が健康でないと、細胞に十分な栄養が行き渡らなくなると同時に、不要物の排出もうまくいかなくなります。また、細胞膜に異常が起こると、発がん物質が体内に貯留しやすくなる可能性まで出てきます。
不飽和脂肪酸は植物性脂肪(植物油)に多く含まれ、飽和脂肪酸は動物性脂肪(肉類、乳製品〔バター、ヨーグルト〕など)に多く含まれています。日本人の食生活が欧米化した結果、油の摂取量が次第に増加し、しかもその油は動物性脂肪に偏る傾向が強まっています。
ちなみに、食生活が欧米化したというときの「欧米」として私が念頭に置いているのは、肉類・乳製品を多く摂る北米や中部以北のヨーロッパで、オリーブオイルや魚類・穀物・野菜・果実を多く摂る南ヨーロッパ(地中海沿岸地域)は指していません。地中海型の食生活については第4章で述べるので、そちらを参考にしてください。
ところで、油には食用油やバター、ラードなどのいわゆる「見える油」ばかりでなく、「見えない油」もあることに注意を払う必要があります。「見えない油」とは、肉類や穀類、魚類、乳製品、加工品などの食品に含まれている油のことです。油の摂りすぎを心配する人は、この「見えない油」の摂り方に十分気をつけてください。
現在の日本人は、「見える油」1に対して、「見えない油」を3.7摂っているといわれています。たとえば、乳製品からは1日平均4.7グラム、卵からは3.4グラムの油を摂っています。
意外に知られていないのが、加工食品に含まれている油です。たとえば、餃子には具だけでなく皮にも油が塗られていることが多いのです。餃子に限らず、加工食品は製造までの過程で、味だけでなく形を整え、見た目を美しくするために、同じ料理を手作りするのに比べて多めの油を使うことになります。大量生産されているサンドイッチならば、パンの内側だけでなく、なかの具を接着させるためにマーガリンなどの油を使っていることがあります。日常的に用いるカレーやシチューのルーにも、油は多く使われています。さらにクッキーやケーキ、チョコレートなどの菓子類にもかなりの量の油が使われています。インスタントラーメンでは、100グラム中に20グラムの油が含まれているものもあるのです。
このような「見えない油」には、十分に注意してください。