リーマンショックと東日本大震災を経験して、人とのつながり方を「浅く、広く、弱く」に変えた、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さん。その結果、組織特有の面倒臭さから解放され、世代を超えた面白い人たちと出会って世界が広がり、小さいけれど沢山の仕事が舞い込んできたそうです。そして、困難があっても「きっと誰かが助けてくれる」という安心感も手に入りました。SNSで大きく反響を呼んだ、新刊『広く弱くつながって生きる』には、誰でも簡単に実践できる、人づきあいと単調な日々を好転させる方法が書かれています。
人とのつながり方を、見直してみよう
気がつけば21世紀もだいぶたって、すごい勢いで世界も変わってきています。空をドローンが飛んでいるし、自動車は無人で走り回れるようになり、すばらしい音楽も映画もドラマも、月に千円ぐらい払うだけで無尽蔵に楽しめるようになりました。1960年代ぐらいの人が半世紀先の現在を見たら、魔法で動いているようにしか思えないんじゃないでしょうか。
でもそうやって技術が進歩しているのに、私たちの日々はそんなに楽になった感じがしない。それどころか、だんだん息苦しくなっている感じさえします。どうしてでしょう?
私は、それは人間関係のせいじゃないかと考えています。これだけいろいろ変わっているのに、なぜか人間関係だけは昭和の頃のまま。やたらと口うるさい割には責任を取ってくれない上司とか、何を考えているのかわからなくてコミュニケーションがうまく取れない部下とか、グチばっかり言っていて楽しくない夫とか妻とか。
このままじゃ、どんなに技術が進歩して世界が変わっても、あいかわらず日本は狭くてちっちゃいタコツボのままです。昭和の昔を引きずって、面倒なことばかりに囲まれて生きていかなきゃいけない。
あなたがいま感じている問題の根本は、仕事の内容やライフスタイルのような大きな話じゃなく、結局は人とのつながり方にあります。
でも、だからといって「すべての人間関係を清算して、自分の夢に向かって進め」なんてスローガンを言われても、白けてしまいますよね。そうはいっても目の前の仕事への責任もあるし、家族もあるし、この生活をきちんと続けていかなければならない。みんなそう思って、我慢しながら日々を暮らしているんだと思います。
今の私の生活は、つきあいたい人とだけつきあい、ヒエラルキー(階層構造)に虐げられることも、組織特有の変なマウンティングにつきあわされることもありません。長年暮らしている妻とも良好な関係を築いていますし、世代を超えた友だちもたくさんいます。フェイスブックで見つけた気になるイベントには顔を出し、ワクワクする体験と新しい人間関係を日々手にしています。そして、一つひとつは小さいけれど、たくさんの仕事が舞い込んできます。
そういうことを言うと、「佐々木さんはフリーだから」とか「文章を書くスキルがあるから」などと言われるのですが、これは決して私の肩書きや能力によるものではありません。
かく言う私も、毎日新聞社という昭和の人間関係の縮図のような会社にいた時は、たくさんの見えない力にがんじがらめになったり、パワハラにあったりしながらも、その「しがらみ」から抜け出せずにいました。いまの生活があるのは、フリーになってリーマン・ショックで取引先がなくなったり、複数の場所に住居を持ってみたりするなかで、考え方を変え、試行錯誤しながらノウハウを生み出したからです。
この本は、人間関係をちょっと考え直してみることで、生きづらさを私たちの日々から取り除いて、もっと楽にすごせるようにしようということを提案しています。「夢を実現しよう」「世界に向かって羽ばたけ」なんていう空虚なスローガンはまったく叫んでいません。そうじゃなく、日々の仕事や生活を地道に続けながら、それでも気楽に暮らしていくためには、何をどうすればいいのかを提案しています。
その提案は、ただ一つだけ──人とのつながりのあり方を、見直してみようということなのです。
第1章では、昭和の人間関係の縮図のようだった新聞社を退職してフリーになったことで浅く広い人間関係と、そこで生まれる「弱いつながり」が持つ大切さを知った話。第2章では身近なことから始められる「弱いつながり」の育て方。第3章では育てた「弱いつながり」をどのように仕事に落としこんでいくか。第4章では近年始めた「多拠点生活」についてと、それをきっかけに学んだつながり方の大切さについて。第5章では、人間関係の改善以外で縛られた心を解放する考え方とノウハウをご紹介します。
もっと気楽で居心地が良くて、でも持続性があって「きっと誰かが助けてくれる」と思えるような人間関係を、どう作っていくのか。本書が少しでもそのお役に立てればうれしいです。