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広く弱くつながって生きる

2018.06.05 公開 ポスト

年齢に関係なく友達ができる方法佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)

リーマンショックと東日本大震災を経験して、人とのつながり方を「浅く、広く、弱く」に変えた、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さん。その結果、組織特有の面倒臭さから解放され、世代を超えた面白い人たちと出会って世界が広がり、小さいけれど沢山の仕事が舞い込んできたそうです。そして、困難があっても「きっと誰かが助けてくれる」という安心感も手に入りました。SNSで大きく反響を呼んだ、新刊『広く弱くつながって生きる』には、誰でも簡単に実践できる、人づきあいと単調な日々を好転させる方法が書かれています。

(写真:iStock.com/LuckyBusiness)

芋づる式に人間関係を広げる

 私は出歩くのが好きなため、おもしろい人たちとたくさん知りあいになります。

 たとえば、毎年5月に丹沢のキャンプ場で開催される「Natural High!」というイベントに参加しています。参加者は500人くらい。フェスイベントとしてはかなりの少人数ですが、ちゃんとステージがあり、音楽の演奏をしたり、みんなで踊ったりといった催しもあります。

 参加者はじつに様々ですが、なぜか水パイプを吸っている若者がいたので話を聞いてみると、その中の一人が「じつは僕、猟師なんです」。おもしろそうと思って会話しているうちに、ジビエ(野生の鳥獣肉)を食べる会に誘われました。

 そこで3カ月後にその会に参加すると、これが楽しかった。彼は東京都あきる野市という奥多摩地域で狩猟をしています。地元の猟友会のメンバーの多くは60代、70代ですが、彼も含めて30代も5、6人いるそうです。しかし、40代、50代は一人もいないという偏った構成になっているとのことでした。

 40代、50代はいわゆるバブル世代ですので、おしゃれな高級レストランでワイングラスを傾けるのがかっこいいといった価値観を持つ人も多いでしょう。そのため、狩猟などという田舎くさい趣味には近寄らなかったのかも知れません。

 他方、現在の20代、30代は一転して地方色にあふれたものをおもしろがる傾向があります。世代間の相違が表れており、興味深く感じました。

 ジビエの会はフェイスブックでも参加者を募集していたため、仲間の猟師さん以外にも15人ほど部外者がきていました。そこで知りあった20代の若者は、長野県松本市からきたとのことでした。わざわざ奥多摩までジビエを食べにくるのも珍しいと思っていたところ、地元でクラフトビールの醸造をしている技術者なのだそうです。

 なんでも秋に向けてクラフトビールの工場を造る予定だが、冬はビールが売れない。そこでジビエをあわせたイベントを開きたいと考え、参加してみたとのことでした。せっかくなので、今度松本を訪れた際にはご飯でも食べましょうと約束してきました。

 第1章で、大切なのは「弱いつながり」であり、ボランティアやサークル活動などに参加して交友関係を広げることをお勧めしました。

 私はいつもこのようにして芋づる式に人間関係を広げ、弱いつながりをたくさん手にしています。特にいまはフェイスブックがありますので、その場で即つながってしまえば連絡も取りやすいですし、お互い何をやっているかが持続的に見えますから、何かあった時に声をかけやすくなります。仲間集めもフェイスブックを活用すれば簡単です。新しいことを始めるのに、いまほどハードルの低い時代はありません。

年齢にこだわらず関係を築く

「どうして歳下の人とも友だちになれるのですか?」とよく聞かれます。他者との関係性を築く上で重要なのは、ありていに言えば「いい人」でいることです。年齢を重ねてくると、どうしても人間は上から目線になります。私はいま56歳ですが、同世代の男性と話しているといつも「なぜそう一言、二言多いのかな」と感じます。

 たとえば、「おいしいレストランに行きました」とフェイスブックに誰かが書くと、「そこもおいしいけど、このお店の方がいいよ」などとコメントをつけたりします。はっきり言って、大きなお世話でしょう。そういう自尊心を満たすためだけのお節介が一番いけません。

 大切なのは、自分が備えているある種の知恵のようなものを、求められたら提供することです。「これをやりたいんだけど、どう思いますか?」と聞かれたら初めて「こう思うよ」と答える。求められなければ、何も言わないのが肝要です。

 つまるところ、相手にとって必要な人と思われればいいわけです。「困った時は相談してみよう」と思われれば、自然に誰とでも仲良くなれるものです。

 私が幅広い年齢の方々から仲良くしていただけるのも、メディアに出ている人だからといった評価ではなく、単純にうっとうしくなかったり、何となく役に立ちそうな人に見えるからではないでしょうか。

 一例を挙げると、昨年福井県の美浜町で空き家対策をしているNPOのメンバーと空き家ツアーをした後、バーベキューをしました。その時ツアーに参加した若者と話をしたところ、私たちが住んでいる古民家にとても興味を示しました。「遊びにおいで」と誘ったところ、さっそく翌日に訪ねてきました。

 彼はもともと自衛隊にいたそうですが、現在は地元の同県高浜町でゲストハウスを作る活動をしているとのことでした。しかし、高浜町にはそういう施設がないためなかなか理解が得られず同志もいない。そこで美浜町のツアーに参加したところ、仲間になれそうな人がたくさんいたので、こちらで物件探しをしようと思うと語ってくれました。

 私が協力を申し出るととても喜んで、またすぐにフェイスブックでつながりました。こうしてちょっと手を差しのべるだけでも、新しい人間関係が生まれます。

面ではなく点でつきあう

 人間関係を会社や業界といった面で捉えると、不可避的に多くの関係者とつきあわないといけません。私はいちおう硬派なジャーナリズムの業界に属しているという認識を持たれていますが、一般的にそういう業界は共同体化しています。雑誌の編集者とジャーナリスト・ライターの集団があるわけです。

 先述した通り、そういう共同体にからめとられると面倒なので、私は個別の編集者やジャーナリストとはつきあいますが、その一群とはつきあいません。同調圧力が生じますし、嫌な人ともつきあう必要があり苦痛だからです。

 それを我慢していると、何のために個人で仕事をしているのかわからなくなってきます。

 集団とつきあわないと、お中元もきませんし、忘年会にも呼ばれません。それが寂しいならば別ですが、気持ちがモヤモヤする人とはなるべくつきあわない方が、精神衛生上でも健全だと思います。

人を判断する7条件

 現在は面でのつきあいがなくても、人間関係を選択できる時代です。いったん会社を離れれば、誰とつきあうかは個人の自由です。同僚だから、ご近所だからという制約はありません。これはとても楽なことだと思います。

 しかし、一方では誰とつきあうかが人生の大切な選択になりますし、人を見る目も求められます。基本的に自分が「いい人だな」と思ったらつきあえばいいのですが、私があまり好ましくない人物と判断する条件をいくつか挙げておきましょう。

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佐々木俊尚 作家・ジャーナリスト

新聞記者時代、著者の人間関係は深く、狭く、強かった。しかしフリーになり、リーマンショックと東日本大震災を経験して人とのつながり方を「浅く、広く、弱く」に変えた。その結果、組織特有の面倒臭さから解放され、世代を超えた面白い人たちと出会って世界が広がり、妻との関係も良好、小さいけど沢山の仕事が舞い込んできた。困難があっても「きっと誰かが少しだけでも助けてくれる」という安心感も手に入った。働き方や暮らし方が多様化した今、人間関係の悩みで消耗するのは勿体無い! 誰でも簡単に実践できる、人づきあいと単調な日々を好転させる方法。

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