「歳を重ねて、びっくりするほどおしゃれが自由に、楽しくなった」
そう語る、第一線を走り続けたファッションエッセイスト・光野桃さん。新刊、『白いシャツは、白髪になるまで待って』には、毎日使えるおしゃれのヒントを詰め込みました。一部を抜粋してご紹介します。
ネガティブな気分を
撒き散らさないためのアイテムを
良くも悪くも周囲に与える影響が強くなる。立ち居振る舞いや言動、その日にどんな気分でいるのか、といったことから発せられるオーラが、若い頃の三割増しほど濃くなって、周囲に拡散する。それが歳を取る、ということで、よいオーラならひとを幸せにするし、逆にネガティブな気配も周囲にすぐ伝播してしまう。
しかも、この年頃から以降、身体や心の変わり目を迎え、精神が揺れることが多くなる。家族にもいままでなかったことがいろいろ起こってくる。泣きっ面に蜂だが、それが円熟への道なのだと思う。だからいつも、気持ちよく過ごせる工夫をしておこう。
それを嗅げばたちどころに気分が穏やかになる自分だけの香り、いざというときに心が落ち着き、浄化できる石やお守り、アロマエッセンス、肌を優しく包んでくれる手編みのソックスなどなど、自分のために心をこめて揃えておきたい。
試着をあきらめる
ついに試着をあきらめた。
肩が痛いし、慢性の腱鞘炎で指もよく動かない。狭い試着室で、お店の人に待たれながら焦って脱ぎ着をするのが、もう本当につらい。夏は汗びっしょりになり、結局着ないで出てしまう。何とか着たとしても、まだ自分に馴染まない状態の姿を見られるのが恥ずかしい。若い頃より服が自分に馴染むのに時間がかかる。こんなことが起こるなんて、想像すらしていなかった。試着こそが大事と思い、そう書いてもきたが、人生は思い通りにはならないものだ。
試着をしないで買うのだから、自ずとチェックは厳しくなる。まず素材。次に、着脱しやすいデザインかどうか。ファスナーの持ち手の部分が少し長いだけでも助かる。前ボタンが多いもの、伸縮性のないもの、後ろ開きでボタンのものなどはあきらめる。
そして、最後にじっと見る。穴の開くほど見つめて、着たところを想像する。その回数が増すごとに失敗しなくなり、服を手に取っただけで直感が働き、買ってよいかどうかがわかるようになってきた。
脳は損傷すると、別の部位が代替機能を持って働くようになるらしいが、おしゃれも同じだ。あきらめ、手放すと、違う方法がやって来る。いまはそれが面白い。