「歳を重ねて、びっくりするほどおしゃれが自由に、楽しくなった」
そう語る、第一線を走り続けたファッションエッセイスト・光野桃さん。新刊、『白いシャツは、白髪になるまで待って』には、毎日使えるおしゃれのヒントを詰め込みました。一部を抜粋してご紹介します。
「可愛いおばあちゃん」に
ならなくていい
縁側で猫と一緒にこっくりこっくり、丸い背中に皺だらけの笑顔──こんな老女が、いわゆる可愛いおばあちゃん、のイメージだとすれば、もうそんなひとは実際少ないのではないだろうか。なぜ日本人は老人に可愛さを求めるのだろう。失礼ではないのか。それとも老いては子に従い、ペットのように可愛がられる存在でいてほしい、ということだろうか。
可愛いおばあちゃんではなく、格好いいおばあちゃんを目指したい。
歳を重ねると、いろいろ余分なものが削ぎ落されてくる。その分、自然体で楽になると同時に、以前より見えるものも多くなる。欲に目がくらんでいたときには見えなかったものが見え、視野が広がる。なにかを伝えるときも、若い頃のように食い下がったりはしない。肩の力がいい具合に抜け、風が細胞のひとつひとつを吹き通る。歳を重ねても、すっくとひとり、軽やかに立っていたい。
格好いいおばあちゃんは、身軽で自由な生き方の象徴だ。生きてきた歴史を智恵に替えて歩き続ける旅人だ。
生命力の強さが個性そのものをかたちづくる、そんなおばあちゃんになれたらいいな。
値段を感じさせない装いをする
これからのおしゃれは「値段を感じさせない」こと。高そうなものを着ているな、とか、安っぽい感じがする、といった印象を与えず、着ているものの価格的なクオリティに目をいかせないこと。それがおしゃれの健やかさのバロメーターでもあるからだ。
Tシャツ一枚にも、身につけたとき、微妙に高そうに見えるものと安っぽく見えるものがある。その微差を見分け、中間のクオリティのものを選び取る。安ものはいやだが、必要以上に高そうに見えるものもまた、バランスが悪い。この見極めには時間がかかるが、等身大の価格帯を見つけることは、自分らしいバランスの確立につながっていく。
値段を感じさせない装いのひとには、穏やかな落ち着きがある。背景に、そのひとなりの知的なおしゃれ個人史が透けて見えるからだろう。