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幻冬舎plus+編集部便り

2018.06.04 公開 ポスト

ブログ、mixiで最初は書いていたふたりが本を出すまで小野美由紀(ライター・コラムニスト)/はあちゅう(ブロガー・作家)

「エッセイは、上半身しか使ってないけど、小説は全身で書いてるって感じ」というのは、2017年9月にはじめての小説集『通りすがりのあなた』を刊行したはあちゅうさん。
一方、2018年2月にはじめての小説『メゾン刻の湯』を出した小野美由紀さんは「物語によって動かせるものの大きさが見えた」と話します。
エッセイも人気の二人が、なぜ小説を書いたのか? 書かねばならなかったのか? 創作にまつわる対話をまとめた『小説でしか表現できない私たちの気持ち』の冒頭をお届けします。

ネットで書き始めた二人の作家の共通点

はあちゅう 小野さんは18年2月にご自身の初の小説となる『メゾン刻の湯』を、私は17年9月に小説『通りすがりのあなた』をそれぞれ出しました。

小野 はあちゅうさんからは2年ほど前に対談のオファーをいただいたことがあるのですが、その当時、私がスランプに陥っているところでした。誰かと小説や創作について話をする自信がまったくなかった時期だったのでお断りしたんです。でも今日、はあちゅうさんも私もそれぞれ小説を出して、晴れて対談が実現するということでとても楽しみにしてきました。

はあちゅう 約2年越しですね。小説を出したタイミングが近いだけではなくて、私たち実は大学も同じという共通点もある。二人とも慶應出身で、同い年なんですよね。

小野 しかも在学中は、はあちゅうさんは香港に、私はカナダに留学していて、二人とも世界一周をしたり共通の体験も多い。お互いにアウトプットの形が違うので、はあちゅうさんが普段どんなふうに創作や執筆をしているのか興味がありました。とにかくはあちゅうさんはアウトプットの量がすさまじい。いったい、どういうふうにして、そのアウトプットするモードに入っているのか関心があるんです。

はあちゅう ありがとうございます。小野さんは、大学時代から書いていたんですか?

小野 私、大学時代はmixiで日記を書いていました。

はあちゅう 私たちが大学に入学した2004年はちょうどmixiとGREEができた年。そして2005年の流行語大賞のトップテンに「ブログ」が選ばれた、そんな時代ですね。

小野 はあちゅうさんは、mixiができる前からネット上で書いてましたか?

はあちゅう いえ、全く書いていません。私が書くようになったのは、ブログができてから。ライブドアから始まって、同じ時期にmixiやGREEも始めました。

小野 私が最初にネット上で書いたのは、14歳でしたね。HTMLを一文字一文字、手入力してサイトを自分で作って、自作の詩や日記を公開していました。大学に入ってからはmixiで日記を書いていました。ブログは2010年に大学卒業する頃に始めて、今に至るという感じですね。

はあちゅう 小野さんは、大学卒業後は何をしていたんですか?

小野 私、大学は二留したものの、何も進路が決まらないまま卒業したんです。そのときに「まれびとハウス」っていうシェアハウスがちょうど立ち上がって、入居しないかと声をかけてもらったんです。することもしたいこともなかったので、とりあえずシェアハウスにひきこもっていましたね。

はあちゅう ブログが本に至るまでには、どんな経緯があったんですか?

小野 最初は自分のブログなんて誰も読んでくれると思わなかった。そもそも自分の文章がお金になるなんて考えてなくて、ただひたすら自分の中に溜まっていた思いを書いていたけど、徐々にPVが伸びて、出版のお話も少しずついただくようになりました。でもどれもしっくり来ず、放置していました。

ただ、学生のときにフランスからスペインの北部にあるキリスト教の聖地「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」に向かって、1000km続く道を歩くスペイン巡礼「カミーノ・デ・サンティアゴ」を2回したんですけど、その経験はなんらかの形で本にしたいとずっと思っていました。

学生時代にバイトしていた出版社に企画の持ち込みをしたけど、却下されたので、「もしかしたらウェブで、本の形になるような体裁をとって連載をしたら、出版のオファーが来るかもしれない」と、章立てをきちんと作って、知り合いの編集者さんに頼んで添削してもらって公開したところ、幻冬舎の編集者から声がかかりました。でもその方がすぐに退職して、担当さんが変わったことで今度は自伝を書くことになったんです。

「自分の人生なんか書く気がしないし、まったく何が面白いか分からない」と思ったんですけど、とりあえずやってみよう、と。一度手をつけたことは最後までやらないと気が済まない性格なんで、なんとか自分の人生で経験したことを一つの形にしたのが『傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』ですね。

はあちゅう 『傷口から人生。』は私もすごく好きなエッセイです。「同じ時代に生きてる人の苦しみが書いてあるなぁ」って思いながら読んでいました。イケダハヤトさんもブログで絶賛していたし、当時から「この人は、人を動かすものを書く人だ」って思っていました。でも実は小野さんご自身は、今はエッセイよりも小説に興味があるんですよね? 少し前に「エッセイは、もう書きたくない」という話をネットに書かれていましたよね。

小野 「エッセイを書きたくない」というよりは、ネットであえて過激なことを書いて関心を集める、いわば「PVの奴隷」になる感じが辛いな、と感じるんです。

また、ネットで記事を書くと言う体験の中では、「積み上がって行く」感じがなかなか味わいづらい。ひと記事ひと記事が単発で、読み手も書き手も、「読むことで深まって行く」とか「書くことで深まって行く」感覚になりづらいなと思っていて。書き手として成長するために、もう少し筋力のいることがしたいなと思っています。

小説は修業だ

小野 はあちゅうさんは、エッセイと小説とでは書くときの感じ方の違いはありますか?

はあちゅう 小説のほうが、すごく力が要りますね。

小野 力が要る?

 

……続きは、『小説でしか表現できない私たちの気持ち』をご覧ください。

はあちゅう、小野美由紀『小説でしか表現できない私たちの気持ち』

<目次>
・ネットで書き始めた二人の作家の共通点
・小説は修業だ
・3つのタイプの書き方
・書きたかったのは、名前の付けられない関係
・「書きたいものを書く」と「本を売る」こと
・炎上と伝わらない悔しさ
・「#MeToo」は自分の経験を語っているだけ
・はあちゅうは、フェミニスト?
・本当に戦う相手は、男じゃない
・Q&A

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小野美由紀 ライター・コラムニスト

1985年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文学専攻卒業。2011年、震災を描いた絵本「ひかりのりゅう」の発売のためクラウドファンディングを立ち上げ、2014年に出版。著書に『傷口から人生。』(幻冬舎文庫)、『人生に疲れたらスペイン巡礼』(光文社新書)がある。

はあちゅう ブロガー・作家

ブロガー・作家。慶應義塾大学法学部卒。電通コピーライター、トレンダーズを経てフリーに。「ネット時代の新たな作家」をスローガンに、媒体を横断した発信を続ける。2018年7月にAV男優・しみけん氏との事実婚を発表。2019年9月に第一子を出産。『仮想人生』『「自分」を仕事にする生き方』『恋が生まれるご飯のために』(すべて幻冬舎)、『旦那観察日記』(スクウェア・エニックス)、『半径5メートルの野望』『通りすがりのあなた』(ともに講談社)など著書多数。
ツイッター・インスタグラム:@ha_chu

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