幻冬舎では各電子書店で「憂鬱を吹き飛ばせ!エッセイ本フェア」を開催しています。今回はフェア対象作品の中から、おすすめの一冊を紹介いたします。
『不細工な友情』光浦靖子 / 大久保佳代子
リウマチのOL
大久保佳代子 → 光浦靖子
拝啓 寒さが日一日と増していきます。風邪などひいて体調を崩していませんか?
私は今朝、靴が履けませんでした。以前からある関節痛が、寒さのせいか最近ひどいんです。右足を靴におさめようと、左足で一本立ちし、靴べら代わりに指でギュッと踵を入れようとしたら、手首に激痛が走り、そのままよろけて下駄箱にぶつかってしまいました。
下駄箱の上のポプリ(消臭用)と木炭の馬(消臭用)が床に落ち、朝から片付けで大変でしたよ。
もうかれこれ一年近く(不定期ですが)至るところの関節が痛みます。スタートは「右肩が痺れる」でした。
この前、光浦さんにも話しましたよね。そしたら「呪いだよ」といつもの感じで言うので、私も「呪うなら、呪い殺せばいいさ」と、まったく真剣に考えていませんでした。でもその後、肩の痛みがとれると肘が痛み、肘の痛みがとれると膝が痛む、と治る気配がありません。呪われるようなことをした覚えはありませんが、もしかしたら何か良からぬ病気かもと不安に思い、先日、病院ヘ行ってきました。
歯医者以外では約十年ぶりの病院です。インターネットで探しホームページに清潔感を感じた病院に決めました。しかし、診察室に現れたのは、いかにもゴルフ焼けした四十代後半であろう、脂ののった加納典明似のドクターでした。
仕方がないので症状を話すと、「リウマチかもしれませんね」と。
リ・ウ・マ・チ。
うちのお母さんが「今日は冷えるで、保美のおばあちゃん、リウマチが出とるかもねぇ」とよく言っていたのを思い出しました。
おばあちゃんの病気、リウマチの可能性があるとは……。
ショックでした。
もし本当にリウマチだったら、これからどうやって生きていけばいいんだろう。とりあえず芸人を続けていくのは難しいかもしれません。
お笑い芸人は、おもしろアイテムを持っているほうが得ですよね。バツイチだってネタになるし、泥棒に入られたなんてのも使えます。よく光浦さんも「大久保さん、早く子供産んで背中に背負いながら漫才しようよ」と言いますね。でも、子持ちはアリだけどリウマチ持ちはナシでしょ。
芸人の先輩から「大久保、面白いから横領しなよ。横領OLの大久保さんって絶対ウケるから」とアドバイスを頂きました。
横領OLもしくはリウマチOLではどっちが笑えますか?
どっちも笑えません。
とにかく血の検査をして、白黒はっきりさせることにしました。一週間後、結果は白。リウマチ因子はマイナスでした。疑いが晴れて安心はしましたが、じゃあこの痛みは何? ということになります。
ドクターの説明は「女性の身体は、ホルモンの影響を大きく受けます。ストレス等によりホルモンのバランスが崩れると、ホルモンの関わる臓器の働きが悪くなり、いろいろな症状が出ます。かつホルモンが……」。なんだかホルモン連発でした。
もしかしたら、これが世に言うドクハラ(ドクターハラスメント)ですか? 浅黒い太く短い指でボールペンを弄びつつ、カルテにドイツ語で恐らく「ホルモン」と書いている姿。そういえば、看護師さんの姿はなく診察室に二人きり。昼間なのに、なんでカーテンが閉められているんだろう……。どんどん不安になり説明もそこそこで帰って来てしまいました。
というわけで、原因不明のまま今もまだ痛みが続いているのです。
「病は気から」と言います。
精神状態が良くないから、この関節痛を招いたのかもしれません。
ご存じの通り、もともと暗い性格で、僻み・妬み・恨みがましい性分なのですが、特にその傾向が、最近ひどいのです。
今、私の会社では妊婦さんが二人働いています。二人とも安定期に入っているので、誰に迷惑をかけることもなく仕事をしているのに何かむかつくんです。
まず、彼女たちが社内で身に着けている電磁波遮断エプロン。「私には守るべき大事なモノがあるんです」アピールが鼻につきます。私なんか電磁波浴びまくりです。
さらに、彼女たちの浮ついた会話。
「口になんか入れてないと気持ち悪くなっちゃって~」
「わかる、わかる。まだプチつわりがあるのかなぁ。アメあるよ」
彼女らのデスクの中は、カラフルなアメやらチョコで一杯です。むかつくので、毎日一個ずつ盗み食いしてます。
もっとやばいのは、パートの主婦(私はこの人たちに何の感情も抱いていません)の「今日、何かはっきりしない天気だよね」「本当、こういう天気の日って何か気が滅入るよね?」などという会話に対しての反応。
当たり障りのない至ってノーマルな世間話。それなのに、「お前たちにそんな天気ごときで左右されるような繊細な神経はない!」と瞬時に思ってしまうのです。
何様ですか、私は? ひどすぎます。
もちろん口には出しません。嫌われるのが死ぬほど嫌なので。何でこんなふうに思ってしまうのでしょう? 「もしかして悪魔のデイモスに魂をとられてしまったのかしら?」とマンガ的に誤魔化そうとしてみましたが、それはいけません。現実にこんなんがちょこちょこあるのです。一日一回ペースであるのです。
寝たきりのおばあちゃんがわがままになり、世話してくれるお嫁さんに辛く当たるという話をよく聞きます。何だかわかります。すべて体調のせいだとは言いませんが、この手首の痛みがなかったら、もう少し、愛嬌のある人でいられると思います。
「不細工は愛嬌でカバー」、忘れてはいけない言葉です。
光浦さんは、どこか悪いところはありませんか?
会うと必ず、「胃が痛い」「下痢が止まらん」「ブヨに刺された」とか言っているので、正直あまり心配しなくなってしまいましたが……。
でも、私がリウマチ疑惑のことを話したら、日頃、私が自分のことを話さないからでしょうか? 「もっと大きい病院で検査したほうがいいよ」と真剣に言ってくれたのは嬉しかったです。
「私、大久保さん死んだら絶対泣くわ~」
最悪な展開だけどありがとう。
「常にベストな状況と最悪な状況、二つを予想しておいたほうがいいから」
常々、そう言ってますもんね。
「大久保さん死ぬじゃん。そしたら私、葬儀委員長してあげるわ」
メガネの奥の悲しそうな瞳のさらにその奥が一瞬ニヤッとしたように感じたのですが、気のせいでしょうか?
委員長やってくれてもいいですが、その日くらいは私をメインでお願いします。光浦さんが喪服姿で、大勢の参列者を前に私の遺影に向かって、ドリカムの「サンキュ」あたりを涙ながらに熱唱している姿が、目に浮かんで来て仕方ないのです……。
考えてみたら私も光浦さんも今年で三十四歳です。子供の頃、三十四歳の女の人なんておばさん以外の何者でもありませんでした。若作りな格好をしてますが、私たちも立派なおばさんですよ。
でも、たまに本当に疲れ切っているときでしょうか? 光浦さんの後ろ姿が、おばさんを通り越しておばあちゃんに見えて切なくなるときがあります。年齢は背中に一番出ると言います。だから、年増の熟女ストリッパーは、お客には決して背中を見せないらしいです。
これからどんどん、身体にガタが来て、気持ちは弱くなっていきます。何か、話したいことがあるときは聞きますから、遠慮せずどうぞ。
また近く、お互い快調な姿で会えるのを楽しみにしています。 かしこ
PS老化防止にはキクラゲが良いらしいですよ。
* * *
続きは『不細工な友情』にて、お楽しみください。
現在、幻冬舎では期間限定で「憂鬱を吹き飛ばせ!エッセイ本フェア」を開催中!エッセイ作品204点が20%オフでお楽しみいただけます(6月28日まで)。
◆ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』551円→440円(税別)
◆小野美由紀『傷口から人生。 メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』 551円→440円(税別)
◆いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』1120円→896円(税別)
◆pha『移動時間が好きだ』400円→320円(税別)
◆辛酸なめ子『次元上昇日記 ベストセレクション50』400円→320円(税別)
◆とまこ『離婚して、インド』655円→524円(税別)
◆コラアゲンはいごうまん『コレ、嘘みたいやけど、全部ホンマの話やねん』1120円→896円(税別)
◆今村三菜『結婚はつらいよ!』1040円→832円(税別)
◆小林聡美『東京100発ガール』434円→347円(税別)