──スピード感のある展開で、一気に引き込まれていきました。それは意識されていましたか。
相場 いつもと書き方を変えたことでスピード感が出たと思います。いつもは精密なプロット表を作るんですが、『血の轍』については、ペラ何枚かのプロットとキャラクター表を作っただけで、あとはガーッと書いていったんです。途中で「これ、本当に終わるのかよ」って思いました(笑)。
──いえいえ、後半の展開も見事でした。『震える牛』を初めとして、相場さんはこれまでも警察を描いていますが、今回は警察小説の本丸に切り込んだという印象です。捜査一課 vs. 公安という警察内部の暗闘を描くにあたって、こうしようと思われたことはありますか。
相場 警察の人たちが読んで「この情報、誰が漏らした!」と言いそうなくらいのリアリティは出したいと思いました。それに、組織のなかでの振り幅ですね。彼らは組織の制約のなかで生きている。課長がやめろと言ったら捜査をやめるんです。でも、そのなかでもやっぱり多少の振り幅はある。そこを出したかった。ガチガチの組織なんだけど、「俺、怒っちゃったから走るよ」ということですね。兎沢くんは走っちゃうほう。志水くんは抑制して、抑制して、というタイプ。その対比は書けたかなと思いますね。
──なぜ、兎沢が走らなければならないのかが回想のかたちで挟み込まれ、徐々に兎沢と志水の因縁が明らかになってくる。その合間に警察庁長官狙撃事件などの実在の事件を思わせるものもありましたね。
相場 ぜんぶ想像です(笑)。でも、細かなエピソードはぜんぶ実際に起こったできごとをモデルにしているので、某大手新聞社の警視庁詰めの記者と飲んでいて「相場さん、これ、けっこうヤバいこと書いてますね」って言われましたよ。「いやいや、これ、想像だから」って言いましたけど(笑)。記者の頃と違って、小説ではウソを書けますから、生き生きとして書いているんじゃないかと思いますね。
──面白くするためのウソということですよね。
相場 読者に楽しんでいただかないと。それが一番のポイントですね。
──もともとエンターテインメントがお好きだったんですか。
相場 そうですね。作家になるとは夢にも思っていませんでしたが、映画とかマンガ、小説が大好きでした。作り手の側に回ってみて、なんでこんなに苦しいところに来ちゃったんだろうって思いますけどね(笑)。
──先ほどもおっしゃっていましたが、小説を書く前にマンガの原作を手がけられたそうですね。
相場 通信社の経済部で記者をやっていたんですが、マスコミ内で情報交換をするうち、紹介されてある大巨匠のマンガ家先生の連載のラフを作ったんですよ。それが面白くて面白くて。そのうち、先生が「原作書いてみれば」と言ってくれて。そうこうしているうちに、小説を書いてみたらと編集者に勧められたんです。
──そして、第2回ダイヤモンド経済小説大賞(現・城山三郎経済小説大賞)を受賞して作家デビューされたわけですね。
相場 ええ。ですから、僕の小説の作り方はマンガが元になっているんです。まず読者の関心を引きつける〝つかみ〟が重要。そして、章が終わるごとに、〝引き〟を作る。そして、登場人物が変わって、視点を変えて。〝つかみ〟と〝引き〟がクロスオーバーするように構成するんです。
──最後にお聞きしたいのですが、相場さんはもともと記者だったわけですが、フィクションをお書きになる理由は何でしょう?
相場 僕自身、マスコミにいたからわかりますが、どこのマスコミも自主規制しています。でも、フィクションにすれば、思い切り書きたいことが書ける。それに、フィクションのほうが多くの読者に手にとってもらえる。『血の轍』の国家権力の内部抗争や、『震える牛』の食品偽装問題も、いい本を書いている人はたくさんいるんですが、読んでいる人は少ない。問題提起というとおこがましいですが、僕の小説を読んで、関連するほかの本も読んでみたいと思ってもらえれば嬉しいですね。
(インタビュー・文 タカザワケンジ 著者写真:アミタマリ)
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