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片想い探偵

2018.07.06 公開 ポスト

第1回

推理作家×探偵対談
探偵に向いているのはどんな人?辻堂ゆめ(作家)/HAL探偵社

ストーキング体質の女子高生、追掛日菜子が事件の糸口を次々と見つける新刊『片想い探偵 追掛日菜子』の著者・辻堂ゆめさんと、大手探偵事務所「HAL探偵社」の社長・浅見さんが対談しました。
どうして探偵になりたいと思っていたのか? そもそもどんな感じで対象を尾行しているのか? 一人で尾行するのか? 聞きたいことがありすぎて、対談というよりは辻堂さんから探偵さんへのインタビューになった第一回。
文:篠原舞(箕輪編集室)

業界内では異端?IT企業出身の探偵さん

辻堂 今回『片想い探偵 追掛日菜子』っていう書籍を上梓したんですが、その主人公がエクセントリックな性格で。好きな人ができたら相手をとことん調べ上げたり、追跡したり、相手のことを全部知りたくなっちゃうという、いわゆるストーカー体質なんです。なので、執筆中に探偵の仕事内容が気になって。タイトルに「探偵」がつく本を作っておきながら、探偵さんの1日のスケジュールとか全然知らなかったんです。

浅見 『片想い探偵 追掛日菜子』、とても面白く拝読しました! そもそも追掛日菜子自体が、いわゆる「探偵」という職業じゃないんですもんね。女子高生ですし。

辻堂 そうなんです、探偵ではないんです。「ストーカー」っていう言葉を、いかに直接的ではなく可愛らしく言うかを考えて「片想い探偵」というタイトルに行き着きました。すみません。

浅見 いま女子高生の日菜子ちゃんが、ストーカーが高じて探偵会社に就職、という続編ができたら面白いですよね。

辻堂 たしかに(笑)。就職先は探偵事務所で、ストーキングで鍛えた技術があるから、ある意味優秀だけど主観が入るとやばい人……みたいな。追跡相手を好きになっちゃうとか(笑)。

浅見 いいですね。 

辻堂 ということで、今日は「探偵」というご職業について色々教えてください。いつ頃から探偵になりたいと思ったんですか?

浅見 僕は他の探偵たちと変わっていて、もともとIT企業で働いていました。ITの上場企業から独立して広告代理店を立ち上げて。探偵の業界って、ネットではなく紙媒体への広告がメインなんですよ。というのも、クライアントには高齢者のほうが多いから。
でも、僕は逆にネット広告のみで勝負しようと思って。それで一番最初に、当時の相場価格の半額を打ち出したんです。さらに、時間帯で調査するという概念も同時に作りました。

辻堂 というと?

浅見 今は「1時間1名6千円で、3名つけると1万8千円の調査料になります」という形なんですが、当時は「1稼働8時間で30万円の調査料」という考え方だったんです。調査時間が1時間でも8時間でも30万円。なので、例えば一介の主婦が浮気調査を頼もうと思ったときに、1日頼んだだけで30万円。3日、4日続けるともう100万円オーバーっていうのが当たり前でした。それはさすがに払えないというお客さんを僕らは狙っていくことにしたんです。

辻堂 ちょっと調査をしてほしいという人もいらっしゃるわけですもんね。

浅見 SNSも流行ったタイミングだったので、そこで一気に支店展開も出来ました。なので、僕が探偵を始めたきっかけというのは、ITの視点です。

辻堂 アニメや小説で憧れて、とかじゃないんですね(笑)。

探究心と根性がある人は探偵の素質あり

浅見 でも、調査員のなかには、色々な探偵系の小説を読んで憧れて探偵になったという人も多いですよ。

辻堂 やっぱり! じゃあやっぱり日菜子は探偵になれるかもしれないですね。

浅見 うちに応募してくる人は2タイプに分かれるんですよ。一つは何をやっても中途半端で長続きせず職をころころ変えるような人たち。探偵ってなんかかっこよさそう、合コンで「探偵です」って言ったらモテそう、みたいな気持ちで入ってくる。
もう一つは一流企業に行ってなきゃおかしいような人材。でも凄く性格が変わってる。個性豊かですね。

辻堂 面白い(笑)。

浅見 で、前者は仕事が辛くてすぐに挫折するんですよ。

辻堂 具体的にはどういう点が辛いんですか?

浅見 1回の調査の流れでスタンダードなのは、浮気調査です。奥様が旦那さんの浮気調査を頼みますって言った時に、例えば会社の定時、17時ぐらいから調査を開始して、旦那さんの会社にずっと張り込みます。旦那さんが出てきて、女性と合流、ご飯を食べてお店を出て、近くのホテルに移動します。そして休憩して出てくるまでの流れをずっと追って、撮ってくるんですね。この中で一番重要なのは、ホテルの「入りと出」なんですよ。ここを撮るためにずっと見ていなきゃいけないんです。

辻堂 週刊誌の張り込みみたいなイメージです。

浅見 そうですね。ただ週刊誌だと、食事してデートしてる写真だけでも一つの成果にはなりますよね。けれど、僕らの場合はそれって別に不貞の証拠じゃないので、何も成果にならないんですよ。

辻堂 ホテルに行ってくれないと「不貞」とは言えないと…!

浅見 そう。あと、調査時間というのもなかなか大変で。定時である17時から会社の前で張り込みをスタートしても、いつ出てくるか分からない。例えば19時に出てきたとしても、その時点で2時間ずっと張り込んでるんですね。さらにそこから飲食店へ移動して食事するとなると、また2時間くらい張り込みですよね。

辻堂 はい。

浅見 それからお店を出て、近場のホテルに行きます。ホテルに入ってからも休憩なのか泊まりなのか分からないから、永遠と出入り口を見ていなくちゃいけない。22時に入って出てきたのが翌朝10時だったら、12時間立ちっぱなし、カメラ構えっぱなしってことはザラです。

辻堂 トイレにも行けないですね。

浅見 なので、どうしても交代要員として3名必要になってくるんですよ。1人じゃできない。

辻堂 そうですよね。3名で動く時はどのように連携してるんですか?

浅見 場合にもよりますけど、1名が車両を動かし、残り2名が別々に尾行し、定期的に車両担当と尾行担当をローテーションします。機動性を重んじる場合、1名が車両ではなくバイクの場合もあります。電車尾行の場合は違う車両に乗ったりして、気付かれないよう行動します。

辻堂 お互いの連絡には、トランシーバーとかを使っているとか?

浅見 僕と、カウンセラー(依頼者の窓口となり、調査員とやりとりする役)と調査員が入ったLINEグループを作ってやり取りしています。LINEだと通過した場所とかの位置情報をすぐに送れるし、写真もすぐにやりとりできるし、報告書を作る時に効率がいいんですよね。タイの警察もLINE活用しているらしいです。

辻堂 そうなんですね! 探偵って本当にアナログなイメージでした。ミステリー小説の探偵と、現代の職業としての探偵って全然違うんですね。

関連書籍

辻堂ゆめ『片想い探偵 追掛日菜子』

追掛日菜子は舞台俳優・力士・総理大臣などを好きになっては、相手の情報を調べ上げ追っかけるストーキング体質。しかしなぜか好きになった相手は、殺人容疑をかけられたり脅迫されたりと、毎回事件に巻き込まれてしまう。今こそ、日菜子の本領発揮! 次々と事件解決の糸口を見つけ出すが――。前代未聞、法律ギリギリアウト(?)の女子高生探偵、降臨。

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辻堂ゆめ 作家

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『あなたのいない記憶』(宝島社)、『悪女の品格』(東京創元社)、『僕と彼女の左手』(中央公論新社)がある。

HAL探偵社

全国に15支店を展開。出演メディア多数(https://hal-tanteisya.com/media/) HP:https://hal-tanteisya.com/

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