辻堂ゆめさんの最新刊『片思い探偵 追掛日菜子』の刊行を記念して、普段から辻堂さんと仲の良い青崎有吾さん、武田綾乃さんをお招きし、「平成に生まれた作家鼎談」を開きました。
同年代作家との関わりや職業病、これから作家になりたい方へのアドバイスなどを、お三方にお聞きしました。仲良しだからこそ、平成生まれだからこその鼎談、最終回です!
(文:橘田佐樹/箕輪編集室)
職業病による精神的ストレス
進行 仲のいい作家さんはいますか?
辻堂 青崎さんいっぱいいそう。
青崎 僕は2012年デビューなんですが、けっこう同年デビューの方が多くて。岡崎琢磨さん、友井羊さん、芦沢 央さん、知念実希人さんとかが同じなんですよ。その方たちとはけっこう会ってます。
進行 作家さんとけっこう集まったりしますか?
青崎 しますね。
辻堂 「このミステリーがすごい!」大賞(通称「このミス」)の受賞者は繋がりがある。「この炭火焼バーベキューがすごい!」略して「このスミ」っていうBBQ企画があって(笑)。
武田 いいなぁ。私は基本的に引きこもりなので、あまりないです。
進行 職業病だなと感じる瞬間はありますか?
青崎 肉体的だと首が死ぬほど痛いです。
武田 肩こりはもう完全に職業病(笑)。。
青崎 ストレッチしたり。
武田 ラジオ体操したりしてますね。
進行 精神的には何かありますか?
武田 めっちゃあります。原稿を書いてる最中に焼肉屋とか行くと、脳内スケッチみたいな形で、ずっと脳内で情景描写してしまうんですよ。
青崎 焼肉屋でそれやったことはないな(笑)。
武田 何でもいいんですよ。普通に駅で電車を待ってても、景色を見ていても。情報が襲い掛かってくるので、とにかくストレスが溜まるという。
辻堂 すごい。私は外の景色を見ても文字が流れることはないな。「わー、綺麗だな。雨降ってるな」ぐらいかなぁ。
武田 これはもう完全に病気みたいなもんなので……、気を抜くと口からセリフがばあーって出てくることもあって。疲れるので自分でも止めたいんですけど(笑)。これはもう完全に病気みたいなもんなので……、気を抜くと口からセリフがばあーって出てくることもあって。疲れるので自分でも止めたいんですけど(笑)。
青崎 情景描写っていうより、セリフが出てくるの?
武田 いや、セリフパターンと情景描写パターンがあるんだよ。用事で外に出てる時とか、ぼーっと見てるものが全部脳内で文字処理されちゃう。
辻堂 それはすごい職業病ですね。
武田 すごい疲れるので、気付けばどら焼きとかいっぱい食べちゃう。
青崎 ミステリー作品を読むと、こういうオチだろうなとかこういうロジックでこいつが犯人だろうなみたいなことを考えちゃうことはありますね。
武田 お、ミステリー作家あるあるですね!
辻堂 トリックの見抜き率が高い。作品を純粋に楽しんでないことがありますね。
青崎 自分が予想した通りになったらむしろ嬉しい。俺と同じことを考えるなんてなかなかやるじゃないかって(笑)。
辻堂 私は逆です。驚きたい派なので、ミステリーを読んでいて見抜き率が高くなっちゃうと楽しめなくなっちゃう。ああ、見抜けちゃうって。
青崎 オタクの悲しみですね(笑)。
辻堂 でも、私は綾乃ちゃんほど職業病はない。
武田 本当にもう病気だから(笑)。ラムネとかめっちゃ食べちゃう。
青崎 ラムネは僕もめっちゃ食べる(笑)。辻堂さん、武田さんを外に連れ出してあげて。
辻堂 本当に連れ出す!
青崎 老人ホームみたい(笑)。
進行 セリフは書き留めたりするんですか?
武田 思いついて引っかかるのだけメモしてて。
青崎 ネタ帳って持ってますか?
武田 スマホにメモしてます。あと、ノートも持ってるからメモがあちらこちらに。
辻堂 私は常にスマホでメモしますね。職業病かどうか分からないですけど、人との何気ない会話とかテレビのニュースはミステリーに使えることがあります。映画を見ている時にもプロットを考えていることが多い。
武田 あるある~! 途中から集中できなくなってきて。
辻堂 去年、ポケモンの20周年の映画を見てすごく感動したんだけど、映画の内容はミステリーじゃないのに、なぜか見ながらミステリーのプロットを考えていた。
武田 すごくわかる。映画を見たりしていると、勝手に脳内で別のストーリーが始まっちゃって。映画だけでなく本でもあるんですけど、自分の脳内小説のせいで二重音声みたいになって、肝心の本編に集中できない(笑)。
青崎 この前似鳥鶏さんの講演会があって、僕も客席にいたんですけど。いつお話を思いつくことが多いかという質問に、やっぱり人の小説を読んだり映画とかを見てる時が一番思いつきやすいと。確かにそういうことありますよね。
これから作家になりたい人へ
進行 これから作家になりたいと思ってる方たちに向けて、一言ずつお願いします。
武田 私が就活のタイミングで悩んでいた時に編集者さんに言われたのは、「なりたいものになるルートって実はたくさんあるから、一つのルートだけに固執して自分を卑下しなくていい」という内容で。受験でも就活でも周りと競わされる環境にいる時って視野が狭まるので、どうしても最短ルートだけが正解でそれ以外が間違っているって思いがちですけど、それってすごくしんどいなぁと感じていて。なので作家になりたいって思っている方も、仕事やらイベントやら色々なルートを通ってみると、意外にそれが創作の役に立つのかなぁって思います。
辻堂 綾乃ちゃんと似た感じになっちゃうんですけど、私も小説で取り上げらるネタの幅を持たせるためにはいろいろな経験が必要だと思っています。今回の『片思い探偵 追掛日菜子』に関してはいろいろ取材をしているけど、自分の経験がベースになっている作品もたくさんあって。ピアノだけでもやったことがあれば、「音楽」という括りで、バイオリンや吹奏楽といった自分がやったことない楽器でも描写できるかもしれないし。作家は文章を書くだけじゃないなって思います。
青崎 まあ何が役に立つか分からないですよね。
辻堂 読者が主人公の視点で読むわけなので、似たような経験や人間関係を重ね合わせて共感してもらえるようになるには、やっぱり自分自身ある程度経験がなければいけないかなと思う。結論、いろいろやってみよう(笑)。
青崎 平成一桁生まれはパッパラパーばかりですが、下の世代の皆さんは僕らよりよっぽど優秀なので、頑張ってほしいです。いえ、真面目な話をすると、今ってすごく情報が多い時代で、いろんな創作論の話とかも出回ってる。でも、個人的には小説の書き方とか創作論には振り回されないほうがいいと思います。自分の書いているものが自分のなかでしっくり来るかどうかを探っていく方が、結果的に面白いものになるんじゃないかなと思います。
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